第3章 13 希望のゼミ
授業終了のチャイムが鳴り、ヒルダが受けた初めての授業が終了した。
「とても素晴らしい授業だったわ…」
ドロシーと共に教室を出たヒルダは言った。
「そうね。ハイスクール時代の授業とは全く違っていて私も夢中になって授業をきいてしまったわ」
75分間の授業はあっという間に終わった。この授業を担当している男性教授は人気があるようで、恐らく教室中の学生たちが、夢中になって授業を聞いていたと思われた。何しろ、授業終了後には多くの学生たちが教授の元へ殺到したからである。
「ヒルダはあの教授の話を聞きに行かなくても良かったの?」
ドロシーの質問にヒルダは少しだけ考えると言った。
「私…実はもうあの教授のゼミに入れてもらおうかと考えていたの…」
するとドロシーはヒルダを見た。
「本当?なら…私も入ろうかしら?」
「え?」
「だってあの教授の授業は本当に面白くて…ほら、私の夢は小学校の教師になることだったし、人を惹きつける内容の授業方法を学べるかもしれないじゃない?」
ドロシーは目をキラキラさせながら言う。
「そうね、それもいいかもしれないわ。あの教授は人気がありそうだから、ゼミに入るなら早めに申し込みした方がいいかもね」
「それじゃいつ行こうかしら?」
ヒルダの質問にドロシーは少し考えるそぶりを見せると言った。
「そうだわ、お昼休みに行ってみましょう。ねぇ、今から学務課に行ってゼミの申し込み方法聞きに行かない?」
「それはいいわね」
そして2人は学務課へと向かった―。
****
昼休み―
ヒルダとドロシーは学務課に教わったゼミの教室の前に来ていた。
「ここが、エーベルバッハ先生のゼミの教室ね」
ドロシーが教室ドアに張られているプレートを見ながら言った。プレートには『古典文学研究所』と書かれている。
「先生、いらっしゃるかしら…」
心配げにヒルダは言う。
「教授がいなくても学生はいるんじゃないかしら?とりあえずノックしてみましょう」
ドロシーは言うと、ドアをノックした。
コンコン
するとすぐに反応があり、目の前の扉が開かれた。
「「「え?」」」
扉を開けた人物とヒルダとドロシーはまともに目が合ってしまい、3人は同時に声を上げた。
「あ、貴方は…!」
ドロシーはノワールを指さした。するとそれを見たノワールは眉をしかめた。
「君…人に向かって指をさしてはいけないと学校や家庭で習わなかったのかな?」
そして次にドロシーの背後に立っていたヒルダに視線を移すと言った。
「何だ…また君か、ヒルダ。一体この教室に何の用があって来たんだよ」
その口調は酷く不機嫌そうなぶっきらぼうな言い方だった。
「あ、あの…私達、エーベルバッハ先生のゼミに入りたくて伺ったのですが…まさか、ノワール様はここのゼミの学生だったのですか?」
「ああ、そうだよ。それぐらいの事、見てわかるだろう?」
腕組みをしてまるでドアを塞ぐような形で背の高いノワールに見下ろされてヒルダはすっかり委縮してしまった。
「あ、あの…すみませんでした。私、帰ります…」
そしてヒルダは背を向けると痛む足を引きずりながらその場を離れるように背を向けると急ぎ足で教室の前から立ち去ろうとした。
「待って!ヒルダッ!何所へ行くのよっ!」
慌てるドロシーにヒルダは言った。
「ご、ごめんなさい。ドロシー。私、やっぱりこのゼミには…」
するとノワールの声が聞こえた。
「待てよ、ヒルダ」
「え…?」
恐る恐るヒルダは振り返った―。
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