第2章 6 エドガーの結婚式 3
「エレノア、失礼致します。是非ご挨拶させて下さい」
ハリスがヒルダを伴って挨拶にやってきた。
人混みをかき分けてやってきたのはエレノアと親族たちの集まる場所だった。
「まぁ、お義父様。わざわざご挨拶に来て下さったのですか?」
エレノアと呼ばれたエドガーの妻になる女性はブラウンヘアーに髪色に、同じブラウンの瞳の女性だった。年齢は32歳ということだったが…若く見えた。
「いえ、娘のヒルダを紹介させて下さい、ヒルダ。ご挨拶なさい」
ハリスに言われ、ヒルダはエレノアの前に進み出ると頭を下げた。
「初めまして、ヒルダ・フィールズと申します。どうぞ宜しくお願い致します」
「ああ、貴女がヒルダですか。いや〜確かに美しいですな。『カウベリー』で一番美しいと言われているだけある」
突然ヒルダの前に紺色のスーツを着た男性が現れた。
「兄さん…話に突然割って入って来ないでよ」
エレノアが迷惑そうな顔で男性を見た。
(お兄さん…?それではこの方がカミラが話していたエレノア様の…)
するとハリスもこの男性に何か不穏なものを感じたのか、ヒルダを兄と呼ばれた男性から隠すように前に立つと言った。
「これはデイブ様、本日は大変おめでとうございます。ところで奥様のお姿が見られないようですが?」
するとデイブと呼ばれた男性は眉をしかめた。
「何故、ここで妻の名を口にするのかな?彼女なら今日は家で留守番をしているよ。子供がいるから結婚式は欠席させたんだよ。所でヒルダさんだっけ?少し座って話でもしないか?」
デイブは肩越しからハリスの背後にいるヒルダに声を掛けてきた。
「い、いえ…遠慮しておきます…」
ヒルダはデイブに不穏な空気を感じ取り、後ずさるように言った。しかし、そんな事はお構いなしにデイブは言う。
「まぁまぁそんな事言わずに…大体決まった相手はいないのだろう?」
「兄さん!いい加減にして!」
エレノアは眉をしかめてデイブを咎める。
「ヒルダ、マーガレットのところへ戻っていなさい」
尚もヒルダに詰め寄ろうとするデイブを遮るようにハリスが言った。
「はい、お父様」
ヒルダは頷くと杖を付いて、足を引きずりながら逃げるように去って行った。デイブという男はヒルダにとって完全に一人の成人男性であった。ルドルフともエドガーとも…そしてアレンとも全くタイプの違う男性であり、ヒルダは底知れぬ不安な気持ちを抱いた。
(あの人が…エレノア様のお兄様…なるべく関わらないように離れていましょう…)
ヒルダは本能的に悟った―。
****
一方、その頃エドガーはエレノアの両親に引き止められてパーティー会場で話をしていた。
「いや〜…本当に助かったよ。君が娘を貰ってくれて…」
エレノアの父はエドガーの右手をがっしり握りしめながら言った。彼はもう領主を引退しており、今は息子であるデイブに家督を譲っていた。今迄エレノアの婚期がおくれていたのは半分は素行の悪いデイブによるものであったが、『カウベリー』にまで届くほどでは無かったのだ。トナー家は巨額の資金援助と持参金をちらつかせ、フィールズ家のエドガーとの婚姻話を取り付けたのだった。それに何よりも娘であるエレノアがすっかりエドガーを気に入っていた。
「どうかエレノアをよろしくお願いね?」
エレノアの母はエドガーの美しい顔にすっかり見とれていた。おそらくエレノアとデイブの性格の影響は、母親が大きく影響していたのかも知れない。
「はい、勿論です」
エドガーは作り笑いを浮かべ、トナー家の人々と会話を交わしつつ…心が冷たく冷えているのを感じ取っていた―。
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