第4章 25 ハリスの言葉
カミラに支えられながらヒルダがエントランスへ出ると、すでにそこには喪服に着替えたエドガーと、ハリスが立っていた。周囲にはフィールズ家に仕えている使用人達もおり、ヒルダとカミラを見て少しだけざわついた。
「ヒルダ。支度が終わったようだな?」
ハリスは出来るだけ優しい声でヒルダに語り掛ける。
「はい、お父様…」
喪服のドレスに着替え、黒い帽子に黒のヴェールで顔を隠したヒルダは頭を下げて挨拶する。ハリスがヒルダの名前を呼んだことで、ますます使用人たちはざわついた。
そこでハリスは咳払いすると使用人たちを見渡しながら言った。
「皆、娘のヒルダが『カウベリー』に戻って来た。もう知っている者もいるかもしれないが、改めて話す。ヒルダは2年前の教会の火事の焼失事件の犯人では無かった。それを証明してくれたのが…今日葬儀が執り行われる…ルドルフだ。犯人はすでに実の父親によって殺害されたグレースと言う少女であり、彼女の母親が…ルドルフを殺し、自らの命を絶った。多くの命が失われてしまったが、ヒルダの無実は証明された。お前たちはその事実を知っておくように」
「…」
ヒルダはハリスの言葉を黙って聞いていた。話を終えたハリスはヒルダに手を差し伸べた。
「さあ、行こう。」
「はい、お父様…」
ヒルダはハリスの手を取った。ハリスはヒルダの手をしっかり握りしめると使用人がエントランスの扉を大きく開閉した。扉が開かれると眼前には立派な2頭立ての馬車が待機していた。
「さあ。馬車に乗ろう」
ハリスに促され、ヒルダは馬車に乗ろうとした時にズキリと左足に痛みが走った。思わず顔をしかめるとハリスはすぐに気が付いた。
「大丈夫か?ヒルダ。足が痛むのか?」
「は、はい…」
するとエドガーが進み出てきた。
「ヒルダ、俺が乗せてやろう」
「お兄様…」
エドガーは軽々とヒルダを抱き上げると馬車に乗り込んだ。その様がルドルフを思い出し、ヒルダは再び涙がこみあげてきた。
「う…」
「ヒルダ、どうしたんだ?大丈夫か?」
ヒルダの向かい側に座ったエドガーはヒルダが再び嗚咽し始めたので心配になり、声を掛けた。
「だ、大丈夫です…ただ、ルドルフを思い出してしまって…」
「何?ルドルフを?」
エドガーの隣に座ったハリスが尋ねた。
「ルドルフは…馬車に乗り降りする時に足の不自由な私を気遣って‥‥いつも抱き上げて馬車に乗せてくれたんです…」
「そうか。その時の事を思い出したのだな?」
ハリスが尋ねるとヒルダはコクリと頷いた。
「ルドルフ様は…本当にヒルダ様を大切にされていたのですね…」
ヒルダの隣に座ったカミラがポツリという。
「…」
エドガーは悲しみに暮れるヒルダをじっと見つめながら思った。
(やはりヒルダはルドルフの事を深く愛していたんだな‥それこそ俺の入り込むすきがない程に…。本当にヒルダはこの先大丈夫なのだろうか?ルドルフを失ってこの先、生きていけるのだろうか…?)
エドガーは思った。ヒルダの心の傷が癒えるまではカウベリーにとどまってくれないだろうかと…。
(だが、無理だろうな…。ヒルダは言ってたものな。カウベリーは大切な故郷だけども、余計にルドルフの事を思い出してしまうと…)
エドガーは悲しみに暮れるヒルダを見て、心の中でため息をつくのだった―。
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