第3章 2 『ボルト』の町の現状
「そうか・・・。君たちは明日『ロータス』へ帰るんだね?分かった。今はちょっとある事件に関わっているからすぐには動くことが出来ないのだが数日以内に必ずコリン君とノラさんを訪ねて話を聞いてくるよ。住所はさっき教えてくれた場所でいいんだね?うん・・分かった。また近いうちに会う事になりそうだな?それじゃあまた。元気でな。」
そしてクロード警部補は受話器を切ると、自分のデスクへ戻った。
「クロード、さっき随分慌てて電話を取に行ったが・・何か緊急事態でもあったのか?」
隣のデスクに座るピエールが書類を見ながら声を掛けてきた。
「あ?ああ・・まあな。だから早いところ今関わっているアヘン事件を早く解決させないとな・・。」
クロード警部補はにわかに仕事モードになり、引き出しから事件に関わる書類を取り出すと目を通しながら同僚のピエールに声を掛けた。
「なあ・・・。まだ17歳で結核にかかってしまった少女がいるのだが・・かなり弱っているらしいんだ。咳をするたびに血を吐くらしいんだが・・・。」
「何だ?お前の知り合いなのか?その少女は?」
「いや。俺の直接の知り合いじゃない。実は『カウベリー』の事件の当事者たちと同級生だ。中学を卒業後は『ボルト』の紡績工場で働いていた女工員の少女だよ。どうやらそこで身体を壊してしまったらしいんだ・・。」
「『ボルト』か・・・。あの町は最悪な町だからな・・。工場だらけで空気は悪いし、あそこで働くのは皆貧しい農村地帯の若者だらけだからな。仕事がきつくて勝手に辞める若者たちも大勢いて、路上生活者があふれているときいたことがある。確か以前にアヘンを作っている小屋があって、一斉逮捕したこともあったな。」
ピエールは過去の出来事を思い出しながら言う。
「ああ、そうだ。アヘン中毒患者も多くいたが・・皆若者ばかりだった・・。本当にあの町は気が滅入る場所だよ・・。」
クロード警部補はため息をついた。
「それで?その少女に会いに行くのか?」
「ああ・・。2年前に『カウベリー』で教会の火事が焼け落ち事件があったのだが、銅や無実の罪をかぶった少女がいるそうなんだ。その少女の無実を証明したいと事件で知り合いになった少年から電話が入ってきたんだよ。」
「ふう~む・・。なるほど、そうなのか。それで『ボルト』に行こうと考えているのだな?だったら早めに行った方がいいだろうな。」
「ああ・・・。」
クロード警部補は重々しい気持ちで頷いた―。
19時―
ルドルフとホテルのフロントで別れてから30分後―
コンコン
ヒルダの宿泊している部屋のドアがノックされた。
「はい。」
荷物整理をしていたヒルダは立ち上がって返事をするとドアの外でルドルフの声が聞こえた。
「ヒルダ様、電話が終わりました。」
ヒルダは足を引きずりながら扉に向かい、カチャリと開けるとそこには背の高いルドルフがヒルダを見下ろすように立っていた。
「ルドルフ、もう用事は済んだの?」
「はい、終わりました。そろそろ食事に行きませんか?」
「そう言えばそんな時間ね。少し待っていてくれる?準備してくるから。」
「はい、では扉の前で待っていますね。」
「ええ。」
そしてドアがパタンと閉められると、ヒルダは急いで部屋を出る準備を始めた。
「お待たせ、ルドルフ。」
ドアが開かれ、ヒルダが現れた。方からは小さなショルダーバックが下げられている。
「それでは行きましょうか?」
ルドルフはヒルダに手を差し伸べた。
「え、ええ・・。」
ヒルダはルドルフが差し伸べた手に自分の手を重ねると、その手はしっかり握りしめられた。
「ルドルフ、夕食を食べる場所もこのホテルかしら?」
「ええ、そうですね。ここは治安の悪い町ですから・・夜はなおさら危ない場所のようなので・・。でもホテル内にいれば安心ですからね。」
「ええ。そうね・・・。」
そしてヒルダは肩から下げたショルダーバックをチラリと見た。
(夕食の席でルドルフに少し早めのクリスマスプレゼントを渡しましょう。ルドルフ・・喜んでくれるかしら・・。)
ヒルダはプレゼントを渡したときのルドルフの様子を想像し・・・笑みを浮かべるのだった―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます