第2章 21 飢えたコリン
ルドルフはコリンのどこかオドオドした目を見て思った。
(2年前のコリンは・・・こんな表情は見せなかった・・。皆、変わってしまったんだ・・・。あの火事のせいで・・。)
その時―
「お待たせ致しました。」
銀のトレーに3人分のティーセットを乗せたウェイターが現れた。
「失礼致します。」
そして慣れた手つきで、テーブルの上にコトンコトンとお茶とケーキを並べていく。
全ての注文の品を乗せると、再び頭を下げた。
「ごゆっくりどうぞ。」
そして立ち去っていく。その後姿を見届けると、ルドルフはヒルダの前に紅茶と苺のショートケーキを置いた。
「どうぞ、ヒルダ様。」
「ありがとう、ルドルフ。」
ヒルダは笑みを浮かべてルドルフに言う。
「いえ、ほら。コリンもどうぞ。」
コリンの前にココアとチェリーパイを置くと、自分の前にコーヒーとチーズケーキを引き寄せる。コリンは目の前に置かれたチェリーパイを見ると目を見張った。
「す・・すげー・・。」
そして顔を上げてルドルフを見た。
「な、なあ・・・ほ・本当に・・これ・・・食っていいのか?」
「勿論だよ、その為に注文したんだから。」
ヒルダはそんな2人のやり取りを黙って見つめている。
「そ、それじゃ・・・。」
コリンは震える手でチェリーパイにフォークを入れた。
サクッ
フォークでパイが切れる音が小さく聞こえ、中にぎっしり詰まった甘く煮詰めたチェリーが顔をのぞかせた。
ゴクリ
始めてみる高級パイにコリンは思わず喉が鳴ってしまった。そして震える手でフォークに刺したパイを口に入れ・・そのあまりのおいしさに笑いがこみあげてしまった。
(何だ・・・このケーキ・・・すっごく旨いぞっ!こんな・・旨いもん食ったの生まれて始めてだ・・・!)
コリンはあまりの美味しさに・・飢えていたこともあり、ガツガツ食べ・・あっという間に間食してしまった。そしてホットココアも一気に飲み干した後に気が付いた。ヒルダとルドルフが呆気にとられた眼で自分の事を見ているのを。よく見ると2人ともまだ一口もケーキに手をつけていない。2人の視線に気づいたコリンは途端に顔が真っ赤になってしまった。
(お、俺って奴は・・・!つ、つい腹が減っていたから・・!こ、こんな旨いもん・・もう二度と食えないかもしれないっていうのに・・。)
「み・・みっとみない食い方して・・・わ、悪かったな・・・。」
真っ赤になってうつむくコリンを見て、ヒルダとルドルフは顔を合わせ・・・2人はコリンの前にそれぞれ自分たちのケーキを置いた。
「え・・?」
コリンは目の前に置かれたショートケーキとチーズケーキを見て、次にルドルフとヒルダの顔を交互に見た。
「な、何だ?」
するとルドルフは言った。
「コリン。僕たちの分のケーキも食べていいよ。」
「け、けど・・・。」
「ええ、私たちは飲み物だけで充分だから。」
ヒルダも笑顔で言う。
「・・・。」
コリンは少しの間、黙っていたが・・やがて無言でケーキを引き寄せると一心不乱にケーキを食べ続け・・ついに3個のケーキを完食してしまった。
「あ・・そ、その・・・ケーキ・・すごく旨かった・・・。あ、ありがとう・・。は、腹が減っていたから・・・。」
コリンは真っ赤になりながらも言う。
「お腹・・すいていたの?」
ヒルダが尋ねてきた。
「あ、ああ・・・俺たち工員は・・常に腹ペコさ。満足に食事だってでてこないんだからな・・・。固いパンにほとんど具がないスープだけ・・・。栄養失調で病気になって死んでしまった工員たちなんか大勢いるさ。」
「「!」」
ルドルフはコリンの衝撃的な話に驚いたが・・・。
(でも駄目だ・・!僕はコリンに同情している場合じゃない・・コリンに教会の火事の事件と・・ヒルダ様の落馬事件の真相を聞き出すために呼んだのだから・・!)
コリンに言った。
「コリン・・・今から君に聞きたいことがある。正直に答えてくれるね?」
そしてじっとコリンの目を見つめた―。
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