第2章 10 2人へのクリスマスプレゼント
ヒルダは今ロータスで一番大きな文房具の店に来ていた。ここは普段から学生も多く利用する店の為、店内はヒルダとさほど年齢が変わらない少年少女達で賑わっていた。
「ルドルフとお兄様にはどんな万年筆がいいかしら・・。」
ヒルダは頭の中で想像した。2人共頭はいいが、タイプは違う。ルドルフは努力型でエドガーはまさに天才的なタイプだった。
「お兄様にはお洒落なタイプの万年筆がいいかしら・・。」
ヒルダが目を付けたのはガラス製の万年筆だった。特に目を引いたのはペン軸の部分が青く美しく染められている万年筆だった。
「綺麗・・・この青い色・・・お兄様の瞳の色みたいだわ・・・。」
値段を見ると中々高価な品で銀貨5枚の金額だった。
(銀貨5枚・・・私の月のアルバイト代の約4分の1はするのね・・・。だけど、お兄様にはとてもお世話になったし・・思い切って買いましょう。やっぱり自分で働いて貯めたお金でプレゼントをしたいし・・。)
ヒルダは買い物かごに入れると次はルドルフの万年筆を探した。
(ルドルフには勉強用に使って貰いたいわ・・だから出来るだけ実用的な万年筆がいいかもしれないわね・・。)
そこで販売員に直接尋ねて書きやすさに重点を置いた万年筆を選んで貰った。こちらは銀貨4枚の値段だったけれども、2人が初めて恋人同士になれた記念の年でもあり、クリスマスに一緒に過ごす事が出来ないルドルフへのお詫びも兼ねていた。
(でも、前日のイブなら一緒に過ごす事が出来るわ・・。)
ヒルダはルドルフにクリスマスプレゼントを渡した時の事を考えると、今から笑みがこぼれてしまった。
「こちらの2本をそれぞれ別に包んで下さい。」
ヒルダはそれぞれの万年筆をレジの女性に渡した。
「贈り物ですか?」
「はい、そうです。クリスマスプレゼント用なのです。」
「女性用ですか?男性用ですか?」
「あ、あの・・2本とも男性用で・・お願いします・・。」
ヒルダは頬を赤らめながら言う。その様子に女性店員はクスリと笑うと答えた。
「かしこまりました。男性用ですね?では包み紙は青と紺色に致しましょうか?メッセージカードは添えられますけど、如何なさいますか?」
「メッセージカード・・・そう言うのがあったのですね・・。それならガラスの万年筆の方にメッセージを入れさせて下さい。」
それを聞いた女性店員はヒルダに何種類かのメッセージカードを見せた。そこでヒルダはシンプルな無地のメッセージカードを選び、直筆でメッセージをしたためた。
『メリークリスマス。お兄様。またお会いしたいです。 ヒルダ』
「あの、では・・このメッセージカードを付けて下さい。」
ヒルダが手渡すと女性店員は笑みを浮かべて受け取った。
「では、どちらのラッピングの色を選びますか?」
ヒルダに青色と紺色のラッピングペーパーの見本を見せながら店員が尋ねてきた。
「それではガラスの万年筆には紺色、普通の万年筆には青色のペーパーでお願いします。」
「かしこまりました。」
そして女性店員は鮮やかな手つきで万年筆が入った箱を美しくラッピングしてくれた。持ち論、エドガーにはメッセージカード付きで。
「お待たせいたしました。銀貨9枚になります。」
そこでヒルダは銀貨を支払った。
「ありがとうございました。」
女性店員の言葉に見送られ、ヒルダは一番星が見え始めたロータスの町を歩き・・・岐路に就いたのであった―。
そしてエドガーに送ったプレゼントが後に『カウベリー』でちょっとした波紋を広げる事になるのであった―。
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