第2章 8 ありきたりな答え
診察が始まるとリンダやレイチェルの不安をよそに、いつものキビキビとした動きのアレンに戻っていた。週明けの月曜日はいつも混んでいて忙しいのだが、アレンの的確な診察と、レイチェルの処置、受付のリンダ、そしてすっかり仕事に慣れたヒルダの4人で診察はスムーズに流れていった・・・・。
午後1時―
「ふう~・・・やっぱり週明けは患者の数が多くて忙しいな。」
休憩室でお昼休みを取っていたアレンがリンダやレイチェルが用意してくれたサンドイッチを食べながら言った。
「ええ、本当。少し心配しましたよ・・アレン先生今朝は何だか様子がおかしかったから。」
レイチェルが言う。
「ええ、その通りですよ・・アレン先生。休みの間に・・何かあったのですか?」
リンダが尋ねた。
「い、いや!別に・・何もない。何もなかったが・・・。」
そしてヒルダに視線を送る。
「何でしょうか?先生。」
ヒルダはマフィンを食べていた。
「あ・・・・ヒルダ。昨日・・・実は劇場前で君を見かけたんだが・・・もしかして演劇を見に行ったのか?」
気づけばアレンの口は勝手に動いていた。
「「「え?」」」
突然のアレンの質問にヒルダをはじめ、レイチェルもリンダも不思議そうに首をかしげる。
「は、はい・・・確かに昨日・・・ミュージカルを観に行きましたけど・・・?」
「そ、そうか。それで・・・。」
(一緒にいた・・少年は誰なんだ?)
しかし、当然アレンにはその事を聞ける勇気もなく・・・。
「どうだ?面白かったか?」
「まあ・・・ヒルダちゃん。貴女昨日ミュージカルを観に行ったの?」
新しくできた劇場に興味があったリンダは目をキラキラさせながらヒルダに尋ねた。
「はい、とっても楽しかったです。あんなに広い劇場で・・お芝居や音楽、歌を聴くことが出来て・・感動しました・・。」
ヒルダは笑みを浮かべて楽しそうに話す。そしてそんなヒルダを熱い視線で見つめるアレンの様子にレイチェルは納得した。
(なるほど・・・アレン先生は昨日劇場にいるヒルダを見かけたのね?そして・・・ヒルダはおそらく男の人と一緒にいたんだわ。それで・・今朝はぼーっとしていたのね?よし・それなら・・アレン先生の代わりに尋ねてあげましょう。)
アレンは認めていないが、ヒルダに好意を寄せているのは良く分かっていた。
「ねえ、ヒルダ。誰と一緒にミュージカルを観に行ったの?」
いきなり確信をついた質問をしてきたレイチェルにアレンはぎょっとなった。
(レイチェルッ!い、いったいなんてことを聞くんだっ?!)
一方、リンダは興味深げにじっとヒルダの言葉を待っている。
いきなりの質問にヒルダは驚いたが、正直に言った。
「あ、あの・・・一緒にミュージカルを観に行った人は・・同じ高校のクラスメイトの男性なんです・・。」
頬を染めながら答えるヒルダを見て3人は確信した。きっと、一緒に行った男性は恋人なのだと・・・。
「まあ~・・ヒルダちゃんにもついに恋人が出来たのね?」
恋愛小説が大好きなリンダは目をキラキラさせながら尋ねてきた。
「は、はい・・・。そうなんです。」
ヒルダはますます赤くなると言う。
「羨ましいわ~・・まさに青春を感じるわね・・・。もうこっちは子育てと夫の世話ですっかりドキドキする話はご無沙汰だわ・・・。」
もうリンダの中にはアレンがヒルダに恋をしており、密かに2人の仲を応援していた事など忘れていた。一方のレイチェルはアレンが心配になり、横目でチラリと見て見ると・・・案の定、青ざめた顔でアレンはヒルダを見つめていた。
そして・・次の瞬間・・・決定的な言葉がヒルダの口から出たのである。
リンダと恋バナをしていたヒルダはふとアレンを見ると言った。
「アレン先生・・・。」
「な、何だ?」
「17歳の男の子が・・クリスマスプレゼントに貰って嬉しいプレゼントって・・一体何でしょうか・・?」
ヒルダが遠慮がちに尋ねてきた。
「え・・・?」
(そ、それを・・俺に尋ねるのか・・ヒルダ・・・ッ!)
「さ、さあ・・・好きな女性からのプレゼントなら・・な、なんだって嬉しいんじゃないのか・・?」
アレンは・・ありきたりな事しか答えられなかった―。
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