番外編 カウベリーの事件簿 ⑨
「立派な青年でしたね・・。」
馬にまたがり、グレースの家を目指していたカール巡査がクロード警部補に話しかけてきた。
「ああ、そうだな・・。」
「それにしても何故令嬢は自分でやってもいない火災事件の罪を自分で被ってしまったんでしょうね?きっと彼女自身だってこんな結果になるとは思ってもいなかったでしょうに・・。」
「確かにな・・・。でも、脅迫でもされていたとしたら・・?イワンのように。」
「脅迫・・そうですね。あの遺書を見る限り・・グレースはかなりの悪質な性格の持ち主のように感じましたよ。だって彼女からイワンに蜂の巣をたたき落とすように命じたんですよね?」
「ああ。つまり・・・グレースは以前からヒルダさんを恨んでいた可能性がある。でも何故だ?平民と貴族で・・どんな接点があったのだろう?」
「ええ・・そこが分かりませんね・・。」
「まあ、とにかくグレースの住んでた家に行ってみれば分かるだろう?」
「はい。」
「よし、なら・・少し急ぐか。」
そして2人は馬の速度を速めた―。
グレースの住んでいた家の周囲には非常線が張られ、一般人は立ち入り禁止にされていた。辺りは雪に埋もれ・・うっそうと枯れた木々が点在し、何とも言えない不気味な雰囲気を醸し出していた。
「よし・・着いたようだな。」
クロード警部補は白い息を吐きながら馬から降りると、近場の木に馬の手綱を括りつけた。カール巡査もそれにならう。
ガチャリ・・・
扉を開けて中へ入ると、そこには既に5~6名の地元警察官が既にいた。彼らは皆白い手袋をはめ、室内をあちこち探していた。
「あ、お疲れ様です。」
クロード警部補とカール巡査の姿を見てひとりの警察官が声を掛けて来た。
「クロード警部補、わざわざ本庁からお越しいただき、ありがとうございます。何せ、ここは田舎なので・・地元警察だけでは手に負えなかったのですよ。」
「ご苦労だったな、クリフ巡査長。」
「いえ、とんでもありません。ところで君が助手で来てくれた・・・。」
「はい、新人のカールです。よろしくお願いします。」
「すまないが、彼をお願いできるか?君が面倒を見てやってくれ。」
クロードはクリフ巡査長に言った。
「はい、勿論です。では、カール巡査。こちらへ来てくれ。」
カール巡査がクリフ巡査長に連れられて、部屋の奥へ消えていくとクロード警部補は目の前の階段を見つめた。
(恐らく・・グレースの部屋は2階だろう・・。)
クロードは外気とほとんど寒さの変わらない寒い屋敷の階段をギシギシ鳴らしながら2階へ登って行った。2階はまっす左右に伸びた廊下があり、右側に2部屋、左側にも2部屋あった。
「グレースの家は確か平民だったと聞くが・・・随分広い屋敷だな・・。だが・・」
クロードは一番手前の左側の部屋をガチャリと開けた。そこは明かりも置かれていない、薄暗い部屋だった。窓際に置かれた木の机に椅子・・右側の壁には本棚が置かれている。そして左側にはベッドがあった。
「ほとんど何も無い部屋だ・・。だが、恐らくここがグレースに部屋に違いないだろうな。」
まず最初にクロードは机を見た。左側には3段の引き出しがあり、そのどれもが鍵穴がある。
「・・・。」
クロードは念の為に引き出しの持ち手を掴み、引っ張ってみたがやはり鍵がかかっているようで開かない。
「まあ・・年ごろの娘だったし・・見られたくない物でもあったのだろう・・。」
本棚には数冊の本が並べられていたが、棚の大きさの割にはあまりにもほんの数が少ないことが気になった。
「やはり・・・生活が厳しかったのだろうな・・。」
ポツリと呟いた時、こちらの部屋に向かって声が聞こえて来た。振りむくとそこには先ほど下の階にいた警察官たちだった。
「あ、クロード警部補。こちらにいらしたのですね?」
代表者が話しかけてきた。
「え?ええ・・。」
「どうも天気予報ではそろそろ天候が荒れてふぶいて来る可能性があるようなので、今日はもう引き上げる話に決まったんです。我々と参りましょう。」
「吹雪?それはまずいな・・。」
「ええ、なのですぐに退去することになりました。」
「よし、分かった。行こう。」
そしてこの日の捜査は打ち切られることになった―。
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