第12章 11 母との別れ

「実はな・・・我々はイワンの自殺と・・・グレースが父親に殺害されてしまったこの2つの事件は何らかの関係があると考えているんだ。それでイワンの母親の事も監視していたんだよ。」


「え・・?そうだったんですか・・?」


ルドルフは目を見開いた。


「ああ・・・そうなんだ。それで彼女からイワンの自殺について何か思い当たる節が無いか尋ねようと思っていたのだが・・・。」


警察官はイワンの母親が連れて行かれた教会を振り向くと溜息をついた。


「気の毒にな・・・よほど自分の息子を頼りにしていたのだろう・・あんな風になってしまうなんて・・・。あれではまともに話を聞くどころか、質問することも出来そうにないな・・。」


「そう・・ですね・・・。」


ルドルフは項垂れた。


「とにかく・・・我々は彼女が落ち着くまで傍にいようと思っている。しかし・・君を見ると、どうも彼女は興奮するようだな?確か中学生の頃の同級生だったのだろう?」


「はい、そうです。・・・友人でした。」


「そうか・・しかし、こんな田舎の町で2つも事件が起こるとは思わなかったな・・。」


警察官は溜息をついた。


「あの・・お願いしたいことがあるのですが・・。」


ルドルフはハリスから預かった封筒を取り出しながら言った。


「うん?何だね?」


「実は、領主様からイワンのお母さんにお悔やみの御見舞金の小切手を預かっているんです。僕の代わりに・・渡しておいて頂けますか?」


「あ、ああ・・分かった。でも君も彼女の手に渡すところを見ていてもらった方がいいだろう。一緒に教会へ行こう。」


「はい。」


警察官は踵を返し、教会へと向かって歩いて行く。そしてその後をルドルフが追った。




 教会へ着くと警察官は言った。


「それじゃ、君はこの教会の入り口で待っていてくれ。私が彼女にこの封筒を渡すのを見届けたらもう帰っていいよ。実は我らの他にグレースの家にも警察官が送り込まれていてね・・。何か君の処にも話を聞きに警察官がやってくるかもしれない。その時は協力をお願いしてもいいかい?」


「はい、勿論です。僕も・・・イワンの自殺の原因と・・何故グレースが父親に殺されてしまったのか・・理由が知りたいですから。」


ルドルフは頷いた。


「よし、それじゃ今からイワンの母親の処へ行ってくるよ。」


警察官は少しだけ手を上げると、ルドルフに背を向けてイワンの母親の元へと向かった。イワンの母親は大分先ほどよりは落ち着いているように見えた。項垂れているところを先ほどの警察官が何か話しかけ・・・封筒を手渡すと、おとなしく受け取った。


「良かった・・。素直に受け取ってくれたみたいだ・・。これで僕の役目も終わりかな・・。」


ルドルフは呟くと、教会を後にした。


教会を出たルドルフは白い息を吐きながら空を見上げた。今日のカウベリーは朝から青い空が見えている。その空を見ながらルドルフは思った。


ヒルダ様に会いたい―と・・。




 今を去る事1時間程前―


ヒルダはアンナと共にフィールズ家を訪れ、短い時間ではあったが母のマーガレットと再会を果たしていた。


「ヒルダ・・・聞いたわ。貴女、今日『ロータス』へ帰ってしまうんですって?」


ベッドの上で起き上がれるまでに回復したマーガレットは悲し気な瞳でヒルダを見つめた。


「はい・・お母さま。お母さまの耳にも入っていますよね?イワンさんとグレースさんが亡くなった話・・。」


「ええ・・・。」


「今警察の偉い人達が『カウベリー』に集まっているらしいんです。この町の人たちに話を聞きに来ると思うんです。だから・・私がここにいたら・・色々良くないと思うんです・・。」


ヒルダは悲し気に目を伏せた。


「そう・・なのね・・。分かったわ・・。ヒルダ。もっと元気になれたら必ず貴女の住む町へ・・会いに行くわね?」


「お母さま・・・!」


そしてヒルダと母はしっかり抱きしめあい、別れを告げた。



カチャリ・・・。


マーガレットに別れを告げ、部屋を出るとそこにはアンナの姿があった。


「もう・・・お別れを告げられたのですか?」


アンナはヒルダに尋ねた。


「はい、もう大丈夫です。」


ヒルダは返事をした。


「では・・駅に向かいましょうか?」


「はい、アンナ様。」



こうして2人は馬車に乗り、『カウベリー』の駅へと向かった―。

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