第8章 11 冬の診療所
雪道なのでいつもより慎重に歩いてきた事と、痛む左足のせいでヒルダは10時ぎりぎりにアレンの診療所へ到着した。
ガチャ
ヒルダは診療所の裏口から入ると、リュックサックから持参してきたルームシューズを取り出して履き替えると履いてきたショートブーツをシューズボックスに入れ、コートや手袋、マフラーを外すと診療所の中へと入ってきた。アレンの診療所ではボイラーが完備されているのでとても暖かだった。
「おはようございます。」
待合室に姿を現したヒルダは受付に座るリンダに声を掛けた。
「あら、おはようヒルダちゃん。雪が積もっていたから大変だったでしょう?」
リンダはヒルダを心配そうに見た。
「いえ、ほとんど歩道は雪かきされていたので大丈夫でした。あの・・今日は患者さんまだ来ていないのですか?」
いつもならこの時間帯は待合室に置かれた6つの長椅子が全て席が埋まるほどに込んでいるのに、今は患者が誰もいなかった。
「ううん、いまのところ今日は5人の患者さんが来院したわ。でもやっぱり雪のせいかしら・・・いつもよりも患者さんが来ないわね。」
その時・・・。
「ああ、ヒルダ。来たのか?」
診察室から白衣を着たアレンが出てきて顔を見せた。
「ヒルダ、今は患者さんが誰もいないからちょうどいい。足の診察をしよう。先に白衣を着てくるといい。」
「はい、分かりました。」
ヒルダは処置室を通って奥にあるロッカールームへ行こうとした時、処置室にいた看護師のレイチェルに会った。
「あら、おはよう。ヒルダちゃん。」
レイチェルはにこやかに声をかけてくる。
「おはようございます、レイチェルさん。」
するとレイチェルが言った。
「ヒルダちゃん、今日のお昼は期待していてね。特製カレース―プを持ってきたから。」
「まあ、本当ですか?とてもおいしそうですね。」
「ええ、勿論よ。」
「それでは私、着替えてきますね。」
ヒルダは奥にあるロッカールームへやってくると自分のロッカーを開けて、ハンガーにかけてある白衣を取り出した、そして手に持っていた上着をハンガーにかけ、残りの荷物を入れると白衣に着替えて再び処置室を通り抜け、診察室に入ってきた。
するとすでにアレンはオイルランプで沸かした湯でヒルダの為に蒸しタオルを準備していた。
「ヒルダ、今日は特に外は寒かったから左足が痛むんじゃないか?」
アレンは心配そうにヒルダに尋ねる。
「ええ・・そうですね。やはり立っているだけで痛むときもあります。でも、ここは暖かいので足の痛みが出ないので大丈夫です。」
ヒルダは答えた。
「そうか・・。でもやはり油断は出来ない。冬の時期は寒さで筋肉もこわばるから痛めた足に負担がかかってしまうからな。ヒルダ、マッサージできるように準備をしなさい。」
「はい、分かりました。」
ヒルダは椅子に座ると履いていた分厚いソックスを脱ぐ。そこへアレンが蒸しタオルを渡してきた。
「ヒルダ、火傷に気を付けるようにな。」
「はい。」
素直に返事をすると、ヒルダは早速左足に蒸しタオルを乗せる。蒸しタオルの温かい熱がヒルダの冷え切って痺れた左足を温めてくれる。
ホウと思わずため息をつくと、アレンが笑みを浮かべて言った。
「どうだ?足は気持ちいいか?」
「はい、そうですね。痛みも消えていきます。」
「そうか・・・なら良かった。なるべく冬場は足を冷やさないようにするんだぞ?」
「はい、分かりました。」
「よし、それじゃあと2回温シップをしたら仕事に入ってくれ。今日は雪の降った後だから患者が少ないと思うから、皆で軟膏を練って、容器に詰める作業をしておこう。それから後は・・。」
アレンはやるべきことを紙に書きだしている。
(患者さんが少ない日でも、やるべき事はたくさんあるのね。もし大学に奨学金で入学出来たらアレン先生のお役に立てるようにもっと仕事を頑張らなくちゃ・・。)
その様子を見ながらヒルダは思うのだった―。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます