第8章 8 学期末試験
季節は流れ、12月に入っていた。今日は学期末試験の成績発表日である。
朝9時、生徒たちは昇降口前に集まっていた。・・最も集まっているのは特進クラスの生徒達のみ。成績上位30名迄しか名前が貼りだされない事になっているからだ。
「ヒルダ、行きましょう。」
ヒルダと一緒に登校してきたマドレーヌがヒルダの手を引いて人込みをかき分けていく。
「ごめんなさい、通してくれる?」
マドレーヌは周囲の生徒たちに声を掛けながらヒルダの右手を引いて前へ前と進み、ついに2人は掲示板の前に立つことが出来た。
「どれどれ・・私の名前は出ているかしら・・・。」
マドレーヌは自分の名前を下から探し・・・歓喜した。
「や・・・やったわ・・ヒルダ・・・、私17位になってるっ!ヒルダのおかげだわ。私の苦手な数学と物理を教えてくれたから・・!ありがとう、ヒルダッ!」
マドレーヌはヒルダの両手を取って大喜びしている。
「おめでとう、マドレーヌ。」
ヒルダは口元に笑みを浮かべてマドレーヌに声を掛けた。
「それで?ヒルダは何位だったの?」
マドレーヌは掲示板の名前を見て声を上げた。
「すごいじゃないっ!ヒルダ、1位よ!おめでとうっ!しかも全科目ほぼ満点の点数だわっ!」
「え、ええ・・・ありがとう。マドレーヌ。」
しかし、ヒルダの顔は浮かない。
「どうしたの?ヒルダ。あまり嬉しくなさそうだけど・・編入試験が満点だったルドルフよりも点数が良かったのよ?」
「え、ええ・・そうなんだけど・・・。」
その時、ヒルダはどこからか視線を感じた。
(え?何かしら・・?)
そして視線を感じる方向を見ると、そこにはルドルフが立ってこちらを見つめていた。
(え?ルドルフ・・・?)
しかしルドルフはヒルダと視線があうと、フイと顔をそらせて教室のある方向へと歩き去って行ってしまった。
(ルドルフ・・・。もしかして貴方は・・・。)
ヒルダは去って行くルドルフの背中を寂し気に見つめていると、マドレーヌに肩を叩かれた。
「ねえねえ、ヒルダ。」
「どうしたの?」
ヒルダが振り向くとマドレーヌが言った。
「マイク・・30位以内にも名前が載っていなかったのよ。」
「え?」
ヒルダは驚いた。マイクはヒルダと同じくらい頭がいい。なのではじめは特進クラスでクラス委員長に抜擢されたのに、あのオリエンテーリング事件からマイクの名前は失墜し、今ではクラスで存在感すらなくなっていた。
気付けば朝、登校しており・・・授業終了後はそそくさといなくなっていた。
「あ、見て。マイクよ。」
突如マドレーヌがヒルダに声を掛けた。
「え・・?」
ヒルダもマドレーヌの視線の先に目線を合わせると、そこには貼りだされた掲示板には目もくれず、教室へ向かって歩いていくマイクの姿があった。
「あ~あ・・・掲示板を見ようともしなかったわね・・あれはきっと自分でも掲示板を見る必要もないって思ったのかもしれないわね。」
マドレーヌの言葉をヒルダは黙って聞いていた。
(マイク・・・。私のせい・・・なのかしら・・。)
ヒルダはマイクの寂し気な後ろ姿を見て少しだけ罪悪感を感じるのだった―。
その日の放課後―
ルドルフは担任教師のブルーノに職員室に呼び出されていた。
「・・先生。僕にお話って・・・何でしょうか?」
ブルーノに勧められて丸椅子に座ったルドルフは尋ねた。
「うむ・・・呼び出したのは他でもない。ルドルフ・・・今日の学期末試験の結果についてだが・・・。」
歯切れが悪そうにブルーノが言う。
「ルドルフ・・お前、ヒルダに1位を取らせるためにわざと手を抜いただろう?」
ルドルフは一瞬肩をピクリと動かしたが・・言った。
「さあ・・・何の事でしょうか?」
「とぼけるな。お前の解答用紙だが・・全ての計算は合っているのに、答えを書き写し間違えたり、スペルを間違えたりと初歩的なミスをしている。とてもこの学園の編入試験に満点合格している人間とは思えないミスだ。」
「・・こんな事もありますよ。僕だって・・調子が悪い時だってあるんですから。」
ルドルフの言葉を聞いたブルーノは額を押さえてため息をつくと言った。
「嘘をつくんじゃない。・・俺のせいか?俺がヒルダの家庭の事情をお前に話したから・・奨学金の事を考えて、わざと手を抜いただろう?」
「・・・。」
しかしルドルフは返事をしない。
「いいか?ルドルフ。何も・・・学年トップをキープしていなくても奨学金制度は受けられるんだ。規定された学力水準があればたとえ学園トップじゃなくたって奨学金制度を使って大学進学が出来る。それよりルドルフ。お前の方が問題だ。志望校は医学部のある大学だろう?こんな初歩的なミスをすると・・・下手をすると医学部入学は厳しくなるぞ?仮にお前が不合格になった場合・・ヒルダがこのことを知ったら・・・。」
すると素早くルドルフが言った。
「お願いですっ!彼女には・・どうか内緒にしておいて下さいっ!」
ルドルフはブルーノに頭を下げて懇願した―。
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