第6章 13 ルドルフの過去

 マイクがオリエンテーリングの説明を終える頃、授業終了のチャイムが鳴った。するとマイクは大声でクラス全員に呼びかけた。


「皆ー!オリエンテーリングまで2週間しかないから。ペアになった者同士で親睦を深めておくんだよ?いいねっ!」


マイクの言葉に生徒たちは返事を返し、5時間目のホームルームの授業は終わった。


「酷いわ・・・!マイク・・・!始めからヒルダを自分と組ませようとしてヒルダをくじ引きに参加させなかったのね・・・!」


マドレーヌは担任教師と話をしているマイクを悔しそうに睨みつけながら言った。


(困ったわ・・・お兄様にはマイクには近付かないように注意されているし・・私もマイクが苦手だもの・・・。)


ヒルダはもうすでに合宿自体に参加するのが憂鬱になってしまった。それなのにマイクはさらにペア同士で親睦を深めて置くようにと言うのだから、ヒルダはますます暗い気持ちに囚われてしまった。

そんなヒルダの様子に気付いたのか、マドレーヌは言った。


「ヒルダ、安心して頂戴。私のペアの人に頼んで、なるべくヒルダ達と一緒にいるようにしてもらうからね?」


「マドレーヌのペアの人は誰なの?」


「ええ、ジャスティンって言う名前の男の子よ。ほら、あの席に座っている子。」


マドレーヌが教えてくれた少年は廊下側の席に座っている眼鏡をかけた赤毛のおとなしそうな少年だった。


「あの人がジャスティンって言うのね?」


「ええ、そうよ。さっき少しだけ会話をしたけど、感じの良い人だったわ。きっと彼ならお願い聞いてくれるわよ。後で声を掛けてお願いしてみるわ。」


「ありがとう、マドレーヌ。」


ヒルダはそっとお礼を言った。そして思った。マドレーヌと同じクラスメイトになれて良かったと・・・。



 一方、ヒルダと同様不安な気持ちを抱えていたのはルドルフであった。ルドルフは卑怯な手を使ってヒルダとペアになったマイクが許せなかった。


(あいつ・・・絶対になにか企んでいるに違いない・・・!)


本当はヒルダの傍にいて守ってやりたい、だけど自分はヒルダに酷く拒絶された身。それなのにヒルダを追ってこんなところまで転校生として来てしまった。自己紹介の為に教壇に立った時に驚いた様子で自分の事を目を見開いて見つめているヒルダのあの時の表情が忘れられない。


(僕の事・・・何てしつこい男なのだろうとヒルダ様は思っているかもしれない・・・。)


だから、あえて冷たい素振りを取った。ヒルダには微塵も興味が無い素振りを取ったのだ。しかしヒルダにそのような態度を取るのは今のルドルフにとってはたやすいことだった。何故ならルドルフの心もヒルダと同様、カウベリーで粉々に砕け散って死んでしまったのだから。

だけど・・心が死んでしまっていてもルドルフの今もヒルダを大切に思う気持ちに変わりは無かった。そこに既に愛と言う感情が存在しなくても・・・。

 

 カウベリーを出て、ロータスへ行くと話した時、両親は烈火の如く反対した。

マルコ夫婦にとって、ルドルフは1人息子で大切な跡取り。しかも何故ロータスへ行きたいかは、絶対に口を割らなかった。何故ならマルコはハリスの執事だからである。ヒルダを追ってロータスへ行く事は例え、両親であっても話すわけにはいかなかったのだ。それにエドガーからも止められていたのだ。

何とか両親を説得し、やっとロータスへ来る許可を貰ってヒルダの通う高校に通う事が出来た時は本当に久しぶりに冷たい表情に笑みが戻った。

そして念願のヒルダと同じクラスになれたと思えば・・・嫌がるヒルダに付きまとうマイクが傍にいたのだった―。


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