第4章 12 マイクの思惑

 その頃ステラとエミリーは白い砂浜で貝殻拾いに専念していた。2人とも大きな麦わら帽子をかぶり、ブリキのバケツの中に一生懸命拾い集めている。


「ねえ、ステラ。貴女はこの貝殻を拾って何に使うの?」


エミリーは隣で貝殻を拾っているステラに尋ねた。


「私はきれいなガラスの容器に入れて部屋に飾るわ。それにヒルダの分も集めたいの。」


「あら、私と同じこと考えていたのね。私もヒルダに上げようと思っていたのよ。それとね、この貝殻を使ってインテリア雑貨を作ろうかと思って。」


「何?インテリア雑貨って?」


「例えばフォトフレームを作ったり、手鏡に張り付けたり・・・。」


そこまでエミリーが言いかけた時、港の方向からこちらへ向かって歩いてくる集団を目にした。


「あら・・?ひょっとして・・・マイクたちかしら?」


エミリーが立ち上った。


「そうみたいね。釣りはやめちゃったのかしら・・?」


その時―。


「おーい!ステラッ!エミリーッ!ヒルダが来たぞーっ!」


フランシスが両手を大きく振りながらステラとエミリーに呼びかけた。


「え?嘘っ!」


ステラは思わずバケツを落としてしまった。


「あ・・・本当だわっ!」


遠くから足を引きずるように歩いてくる少女をステラとエミリーは見た。真っ白なワンピースに大きなつばのある白い帽子。そして長い金髪をなびかせてこちらに歩いてくるのはヒルダだった。


「ヒルダだわ・・・。」


ステラは信じられない思いでヒルダを見た。


「うわあ・・ヒルダ・・・まるでお姫様みたい・・。」


エミリーはうっとりした目つきで言う。


「ねえ、私たちもヒルダの所へ行きましょう?!」


エミリーに声を掛けられたステラは落としたバケツを拾いあげると頷いた。


「ええ、そうね!」


そして2人の少女は砂浜をヒルダの元を目指して手を振りながら駆けていく。




「あーあ・・・砂浜で走りにくいのに・・あの2人は・・・。」


フランシスがこちらに向かって掛けてくるステラとエミリーを見ながら言う。


「2人とも、ヒルダが来なくて寂しがっていたからな?」


ルイスがヒルダを振り向くと言った。


「そうだったの?」


「ああ、勿論。俺たちは皆ヒルダの事が大好きだからさ。」


カインが恥ずかしげもなく言うセリフにヒルダの方が恥ずかしくなってしまった。


「そ、そうなの・・?」


俯き加減に言うヒルダを見てエドガーはヒルダの肩に手を置くと言った。


「良かったな、ヒルダ。お前は皆から好かれているんだな。」


「お兄さま・・・。」


エドガーを見つめるヒルダの姿を見ながらマイクは1人イライラしていた。


(いくらヒルダの兄とは言え・・・・ヒルダにこれ以上近寄るなよ・・っ!せっかくヒルダが島に来てくれたのに、これじゃ2人きりになれるチャンスなんて無いじゃないか・・!)


しかしエドガーはマイクの苛立ちに気付いていた。


(マイクは少し危険人物に見えるな・・。あまりマイクをヒルダに近づけないようにしておかないと・・。)


2人はそれぞれの思惑を胸に秘めるのだった。





「ヒルダッ!まさか島に来ているとは思わなかったわ!」


「本当!驚いちゃった!」


ヒルダの元に駆け寄ってきたステラとエミリーは交互に言う。


「2人とも、貝殻を拾っていたんですって?きれいな貝は拾えた?」


ヒルダが尋ねると、ステラは頬を染めて言う。


「ええ。私達・・・ヒルダに貝殻をお土産に持って帰りたくて2人で集めていたの。でもヒルダが来たなら・・。」


「そうね、私も一緒に貝殻を集めたいわ。」


「よし!なら全員で競争しようぜ!誰が一番大きな貝を探せるかっ!」


フランシスが元気よく言う。


「ええ・・・それ、全員参加なのかい?」


面倒くさいと思ったマイクが言うと、エドガーが口を挟んできた。


「いいね。面白そうだ・・・やろうじゃないか。ヒルダ、お前は足の具合の事もあるし・・俺とペアで探そう。」


するとステラとエミリーが頬を染めてエドガーを見つめると言った。


「あ、あの・・・そういえば・・・貴方はどちらさまでしょうか?」


ステラの言葉にエドガーはにっこり微笑むと言った。


「やあ、はじめまして。俺の名前はエドガー・フィールズ。ヒルダの兄だよ。よろしく。」


「ま・まあ・・・ヒルダの・・・どうりで素敵な方だと思いました・・。」


エミリーはハンサムなエドガーを見て、さらに頬を赤く染める。


マイクはますます面白くなくなった。島に誘ったのは自分なのに、なぜか場を仕切るのはフランシス。何より自分よりも顔が整っているエドガーが許せなかった。だからマイクは言った。


「よし、それじゃ競争だ。誰が一番大きな貝殻を拾えるか・・・。でもただ競争するだけじゃつまらない。優勝した者は何でも好きな願い事を叶えさせてもらう・・・っていうのはどうかな?」


マイクの提案に乗りやすいフランシスは言った。


「よし!いいぜ、やろう!みんなもそれでいいよなっ?!」


フランシスの強引さに押され、結局全員それに賛同することになった。


(よし・・・単純なフランシスのお陰でうまくいった。僕が貝殻拾いで優勝して・・ヒルダと2人きりにさせてもらうんだ。何、どうせ僕が勝つに決まっている。だってどこにたくさん貝殻が落ちているか知ってるのは僕だけなんだから・・。)


そしてマイクは今からヒルダと2人きりで過ごす時間を想像し・・胸を高鳴らせるのだった―。 

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