第7章 13 カミラの決意

「ヒルダ様、お食事をしながらで構いませんので私の話を聞いて下さい。」


カミラは食事の乗ったトレーの蓋を開けた。トレーの上にはブルーベリーのスコーンに新鮮なサラダ、ローストビーフにまだ湯気の立つポタージュが乗せられていた。どれもヒルダの好きな料理ばかりである。


「これは・・・?」


ヒルダはカミラを見た。


「はい、料理長が食欲の無いヒルダ様を思って作った料理です。どうぞ召し上がって下さい。」


「ええ・・・頂きます・・・。」


ヒルダはポタージュをスプーンですくって口に入れた。ジャガイモの甘みと、野菜のうまみの優しい味わいだった。


「美味しい・・・。」


ヒルダはポタリと涙を落しながら言った。


「ヒルダ様・・・。」


そんなヒルダをカミラは悲しげな顔で見つめていたが、ヒルダがスコーンに手を伸ばすのを見て言った。


「ヒルダ様、来週ヒルダ様は私と一緒にここ『カウベリー』の町から汽車で1日かけて南にある首都『ロータス』に行きます。そこはとても大きな港町で、実は私の姉がお嫁にいって、そこに住んでいるんです。姉に頼んでヒルダ様の為に高等学校の願書と、住むアパートメントも探して貰いました。私は何処までもヒルダ様に付いて行きます。どうぞこれからもヒルダ様のお世話をさせて下さい」


カミラはヒルダから片時も目を離さずに言った。


「え・・・で、でも・・・何故?何故カミラはそこまで私にしてくれるの・・?」


「この屋敷へメイドとしてきたのには訳がありました。当時13歳だった私と5歳年の離れた姉を残して両親が事故死してしまったんです。姉は頑張って働いて2人で細々と暮していましたが、生活が困窮してしまって・・・丁度こちらのお屋敷でメイドの求人があったので応募したんです。私みたいに学問が無い人間は雇ってもらえないと思ったのですが・・ヒルダ様が一番年が近い人をメイドにして貰いたいと旦那様に伝えたそうですね。それで・・・私が選ばれたんです。」


「そう言えば・・・そんな事を言ったかもしれないわ・・・。」


「メイドになってからは・・毎日失敗の連続でメイド長に毎日注意されて、心が折れそうになっていました。でもヒルダ様は必ず私を部屋に招き入れて、自分のおやつを分けてくれましたよね。」


「ええ、そうね。誰かと一緒に食べたかったから。」


「今、私がメイドとしてここにいるのは・・・ヒルダ様。貴女にお仕えする為です。だからどんな時も私はヒルダ様と一緒です。ここを追い出されるというのなら、私も一緒に出て行きます。どうか・・・この先もヒルダ様が自分だけの力で生きて行けるようになるまでは・・・お世話させて下さい。」


カミラの言葉にヒルダは嬉しくてポロポロ涙をこぼした。しかし、自分についてきたところで、ヒルダには何もカミラにしてあげる事が出来ない。


「で、でも・・・カミラ。私は貴方にお給料をあげる事も出来ないし、爵位だってお父様から剥奪されてしまったわ。私に只ついて来るだけでは貴女を不幸にしてしまうだけよ・・・。」


ヒルダは涙を流しながら言った。


「いいえ、お金なんか望んでいません。ヒルダ様がいずれ私の助けが必要無くなるまでは・・・ヒルダ様が独り立ち出来るようにお仕えします。それに・・・これは奥様の強い希望でもあるのです。」


「え?お母様の?!」


「はい、奥様は私を指名されたのです。ヒルダ様のお世話係として、私に一緒に行くようにと・・・。最も奥様に指名される以前から、ヒルダ様に付いて行くのは絶対に私だと心に決めていたんですけどね・・・。」


そう言うとカミラは照れ臭そうに笑みを浮かべた―。

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