第7章 8 絶縁宣言

「ヒルダ、どういう事なんだ?お前が原因であの教会が火事になったというのか?」


「本当の事なの?ヒルダッ!」


父と母は真っ青になってヒルダに詰め寄った。


「はい。私がいけなかったの。あの時・・・グレースさんに声を掛けられて彼女と同じ馬車に乗りました。教会にグレースさんのお友達が来ていて・・会いに行ったの。」


ヒルダは頭の中で話を作りながら語った。


「まちなさい、何故お前がグレースと言う名の少女の友達に会いに行ったんだ?」


ハリスは厳しい目をヒルダに向ける。


「わ、私の足が・・こんなになってしまって・・多分他の貴族の友達が・・離れて行ってしまうと思ったから・・平民のお友達が・・欲しかったの・・。それで、あの教会は隠れ家になっていたみたいで・・。教会の中はとても寒くて、私が暖炉に火をつけて・・誤って火のついた薪を床に落としてしまったの。そしたらあっという間に燃え広がって・・・。」


ヒルダは苦しい作り話をしたが、ハリスとマーガレットには十分その話は真実として伝わったようだった。


「ヒルダッ!お、お前・・何て事をしてくれたんだっ!」


すると今まで一度も怒った事の無いハリスが激高してヒルダを怒鳴りつけた。


「あ、貴方!落ち着いてっ!」


マーガレットは必死になってハリスにしがみつくが、ハリスの怒りは静まらない。


「いいか・・ヒルダ。良く聞けっ!あの教会の焼け跡からはな・・・身元不明の焼死体が見つかったんだっ!お前のせいで・・人が1人死んでるのだっ!」


「ええっ?!そ、そんな・・・!」


驚いたのはヒルダの方だ。グレースをかばう為に自分のせいで家事になったと嘘の証言をしたが為に、まさかあの教会で人が死んでいるとは思いもしなかった。


(どうしよう・・・!嘘の証言をしてしまったせいで・・私は殺人犯になってしまった・・!)


思わずヒルダの目に涙が浮かぶも、ハリスの怒りは収まらない。


「泣くなっ!むしろ泣きたいのはこっちの方だっ!お前はこのフィールズ家の面汚しだっ!」


「貴方っ!!」


マーガレットは悲痛な叫びをあげたが、ハリスは聞く耳を持たない。


「ヒルダ・・・3週間の猶予をやる。お前はここ、『カウベリー』の町を出るんだ。そしてたった今からお前はもう私の娘ではない。お前の爵位は剥奪だ。何所へなりとも好きな場所へ行くがいい。だが・・私もいくらなんでも鬼では無い。高校だけは出してやる。自分で何処か学校を探して願書を出し直せ。住む場所も一人で決めろ。とりあえずお前には3年間は暮らしていけるように金も援助する。後は・・・好きなように勝手に生きろ。学校は今日付けで退学届を出してくる。」


あまりにも突然の出来事でヒルダは涙も出てこなかった。


「お父様っ!待って下さいっ!」


ヒルダは手を伸ばし・・・


パンッ!


思い切り強くその手を叩かれてしまった―。


「私に・・・触るなっ!!」


「ハリスッ!!何て事をするのっ?!ヒルダは・・・ヒルダは私達に取って、たった1人しかいない大切な子供なのですよっ?!そ、それをこんな・・・っ!」


マーガレットは涙を流しながらヒルダを抱きしめた。


「うるさいっ!今から我らの間に子供はいなかった事にするっ!あの教会のステンドグラスはこの町の重要文化財として近く保存されることになっていたのだ。なのに・・そこにいる愚かな子供のせいで全て燃え落ちてしまったっ!町の人々は皆激怒しているっ!領主として彼らの怒りを鎮める為には・・・もはやこうするしかないのだっ!」


ハリスは血を吐くように叫んだ。


「そ・・そんな・・・。」


この時になって初めてヒルダは涙を流した。


そしてここからヒルダの本当の受難が始まる―。

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