第6章 9 2人の少女

「ヒルダ・・・ヒルダ。起きてってばっ!」


シャーリーが木の下で眠っているヒルダを揺り起こした。


「うう~ん・・・。」


何回か揺すぶられて、ヒルダはようやく目を開けると驚いて悲鳴を上げた。


「キャアッ!シャ、シャーリー?」


「そうよ、私よ。ヒルダ。貴女この木の下で居眠りしてたのよ?」


シャーリーは木を見上げながら言った。


「あ・・そ、そう言えばここまでお散歩に来て・・・木の下に座ったら風が気持ちよくて眠くなってきちゃって・・・そのまま私眠っちゃったんだわ。あら?スコットさんは?」


ヒルダはスコットの姿が見えないのでシャーリーに尋ねた。


「スコットさんなら仕事に戻ったわ。」


「え・・?仕事・・?」


「ええ。何でも厩舎の馬で雌の馬が産気づいたとかで・・獣医さんを呼びに行ったのよ。」


「そうだったの・・・。」


「それで私は貴女を探しにここまでやって来たのよ。」


シャーリーは言いながらヒルダの隣に腰を下ろした。


「ねえ・・・シャーリー。私・・どのくらい眠っていたのかしら?」


「う~ん。そうね。1時間くらい姿が見えなかったけど?」


「え?!そ、そんなに・・・?ご、ごめんなさい。シャーリーを放ってこんな場所で眠ってしまって・・・。でもよくここが分かったわね。」


するとシャーリーが何故か困った表情を浮かべた。


「どうしたの?シャーリー。」


「あ・・あのね・・実はこの場所を教えてくれたのはルドルフだったの。」


「え・・?ルドルフが・・・?」


「ええ。スコットさんと別れた後、ヒルダを探していたら自転車に乗ってる男の子を見かけたの。私自転車を見るのが初めてだったから思ずじっと見てしまったの。そしたら視線があって・・・それで聞かれたのよ。もしかしてヒルダ様のお友達ですっかって。だからはいそうですって返事をしたらこの場所を教えてくれたのよ。・・大丈夫?ヒルダ。」


「え・ええ・・・。」


ヒルダは複雑な思いでシャーリーの話を聞いていた。


(ひょっとして・・・ルドルフはここに立ち寄ったのかしら・・・だとしたら私の寝顔を・・・ルドルフに見られてしまった・・・。)


ヒルダは恥ずかしがったらいいのか、それとも悲しめばいいのか、よく分からない心境に陥ってしまった。


「ルドルフ・・・。」


ヒルダは小さく呟き、そんな様子の親友をシャーリーは黙って見つめるのだった。




夕方―


シャーリーは迎えの馬車の前でヒルダの前に立っていた。


「ヒルダ、今日は招いてくれてどうもありがとう。」


「いいえ、こちらこそあんなに美味しいケーキを御馳走になって・・本当に有難う。又・・是非遊びに来て。」


「ええ、ありがとう。」


そしてヒルダはシャーリーに耳打ちした。


「どう?スコットさんとの仲は進展しそう?」


すると途端にシャーリーの顔が真っ赤に染まった。


「な、何言ってるの?ヒルダ。」


「今度スコットさんと2人きりで会ったらどうかしら?シャーリー。スコットさんの事・・・好きなんでしょう?」


「・・・。」


するとシャーリーは顔を真っ赤にして頷いた。


「私、2人の仲・・応援してるから。」


ヒルダはニッコリ笑った。


「ありがとう。ヒルダ・・。私も・・・次のヒルダの新しい恋・・応援してるわ。」


「シャーリー・・・。」


「足の怪我くらい何よっ!私が・・・男の子だったら絶対にヒルダをお嫁さんにしたのに!」


そう言うと、ヒルダを強く抱きしめた。


「シャーリー・・。ありがとう。」


夕焼けを背に2人の少女はしっかりと抱きしめ合った―。






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