第2章 7 ヒルダの先生

  翌日、学校から帰宅したヒルダは厩舎で働くマルコの元へと向かった。


「こんにちは、マルコさん。今日も乗馬の練習をするので馬を貸して頂けますか?」


「お待ちしておりましたよ。ヒルダ様。もうこの馬には蔵がつけてあるので準備は出来ておりますよ。」


マルコはヒルダの前に1頭の馬を連れてきた。


「どうもありがとうございます。」


愛らしい笑顔で話しかけて来るヒルダを見てマルコは思った。


(本当にヒルダ様は素直で可愛らしいお方だが・・・昨日のあのグレースと言う少女は末恐ろしいものを感じる・・・。)


「それではマルコさん。乗馬の練習に行ってきますね。」


ヒルダが馬を連れて行こうとしたので、マルコは慌てて言った。


「お待ちください、ヒルダ様。実はルドルフが・・・。」


そこまで言いかけた時、2人の背後から声を掛けてきた人物がいた。


「失礼、ヒルダお嬢様でいらっしゃいますか?」


振り向くとそこには若く美しい1人の男性が立っていた。20代であろうと思われるその男性はヒルダ同様輝くような金の髪をしていた。


「あ、あの・・・どちら様でしょうか?」


「失礼致しました。私はヒルダ様のお父上より乗馬の指導を行うよう申し付けられました、ヨハネ・ブルックスと申します。どうぞよろしくお願い致します。」


そしてヨハネは丁寧にお辞儀をした。


「まあ・・私の先生になって下さるのですか?どうもありがとうございます。」


ヒルダも深々とお辞儀をした。


(そうよね・・・多分ルドルフとは乗馬の練習は無理かもしれないもの・・それならお父様がわざわざ乗馬の先生を見つけてくれたのだから、この先生の元で乗馬を教えて頂いた方がいいに決まっているわ。)


一方、驚いたのはマルコの方だ。ルドルフに今日からヒルダの乗馬の練習に付き合うように話していたのに、ハリスが先生を用意してしまったからだ。


「あ、あの・・ヒルダお嬢様・・。」


マルコが言いかけた時、ヨハネが言った。


「さあ、ヒルダ様。参りましょうか?」


「はい。」


ヒルダがヒラリと馬にまたがると、ヨハネは手綱を引くとヒルダを伴ってその場を去って行った。


「ヒルダ様・・・。」


マルコはその後ろ姿をなすすべもなく見守っていた。


 それから約30分後―


マルコが厩舎で仕事をしているとルドルフがハアハア言いながらやって来た。


「父さん、ヒルダ様は?」


「ああ・・・ルドルフか。ヒルダお嬢様ならもう乗馬の練習に行ったよ。」


「え?一人で?」


「いや・・旦那様が今日から新しい乗馬の先生をヒルダお嬢様に付ける事になって・・・その先生と練習に行かれたよ。」


「え・・?そ、そんな・・・。」


その時、マルコは気が付いた。ルドルフの顔が青ざめていることを。


「どうしたんだ?ルドルフ。顔色が悪いようだが・・?」


「ううん、大丈夫・・・。少し・・ヒルダ様の様子を見てきます・・。」


力なくフラリと厩舎を出て行くルドルフをマルコは不思議そうな顔で見送るのだった。



青空の草原の下でヒルダはヨハネと一緒に乗馬の練習をしていた。


「そうです!ヒルダ様、いい感じですよ!」


ヨハネは手綱を引きながら笑顔でヒルダに話しかけている。


「本当ですか?先生のお陰です、ありがとうございます。」


ヒルダははじけるような笑顔をヨハネに向けている。その姿をルドルフはじっと悲し気に見つめていた。


「ヒルダ様・・・・。」


(どうしてヒルダ様が他の男性に笑顔を向けているのを見ると・・・胸が苦しくなってくるのだろう・・・。)


ルドルフはその気持ちが何なのか、まだ気がついてはいなかった―。

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