嫌われた令嬢、ヒルダ・フィールズは終止符を打つ

第2章 2 父ハリスの計画

　ヒルダの見合いの話がピタリとやんでしまったハリス・フィールズは焦っていた。ハリスとマーガレットの間に子供はヒルダ1人しかいない。このままではフィールズ家の存続に関わるのでは無いか・・・？ハリスは本気で心配していた。

（おまけにヒルダは厩舎で働く男の息子が好きだとか言い出している始末だし・・・これは早急に何か手を打たねば・・・。）

そこでハリスはある一つの妙案を思いついた―。

「え・・・？馬術大会・・・ですか？」

マーガレットが怪訝そうな表情でハリスを見た。

「ああ、そうだ。3週間後に我がフィールズ家で馬術大会を開催するのだ。この付近に住む貴族達に声を掛けて集まって貰おう。早速今日から招待状を作成して送らなければ。」

休日のティータイム。ハリスはマーガレットとヒルダをサンルームに呼び出し、紅茶を飲みながら2人に熱弁を振るう。

「でも馬術大会って何をするの？」

クッキーを摘まみながらヒルダが尋ねた。

「よくぞ聞いてくれた。それは我がフィールズ家所有の牧草地帯を一周走り抜けるとうレースを行うのだ。例えば走る組を3組ずつに分けるなどして、速さを競い合う。馬に乗りながら我が領土も見学出来る。どうだ？素晴らしいアイデアだろう？」

「貴方・・・考えが見え見えですわよ。」

マーガレットは紅茶を飲みながら言った。

「な、何が見え見えと言うのだっ？！」

焦るハリスを他所にマーガレットは言った。

「ヒルダ、勿論あなたも参加するのよ？馬に乗る練習を今日からしなさい。厩舎のマルコにお願いしておくように伝えて貰うから。」

「え？マルコさんに？」

（ひょっとすると・・ルドルフの話が聞けるかも・・・！）

「あ、あの・・・私から直接頼んできますっ！」

ヒルダはそのままサンルームを飛び出して行ってしまった。2人きりになるとハリスが苦虫を潰したような顔で言う。

「・・・何故、そこでマルコの話を出すのだ？」

「そんなのは当然ではありませんか？厩舎の責任者はマルコですよ。彼にお願いするのが得策です。」

「だ、だが他にも厩舎で働く使用人はいるだろう？と、とに角・・あの男は駄目だ。」

「そんな事はヒルダに任せる事です。貴方は口を挟みすぎです。あまりヒルダの嫌がる事をすると・・・今に娘に嫌われますよ？」

言いながらカップに紅茶を注ぐマーガレットを見ながらハリスは言った。

「最近のお前・・・随分・・毒舌になったな・・？」

「いえ、私は昔から何も変わっておりませんよ？」

そしてマーガレットは2杯目の紅茶を口にした―。

「マルコさん。」

ヒルダは厩舎へとやって来た。

「ヒルダ様！またもやこのようなむさくるしい場所にいらっしゃるとは・・・。」

マルコは帽子を脱ぐと頭を下げた。

「むさくるしい場所なんて思った事無いわ。それで・・マルコさんにお願いがあるのですけど・・3週間後にお父様が馬術大会を開かれるそうなの。それで私にも馬術の練習をしてくるように言われて来て・・・。ここ最近はずっと馬車にばかり乗っていたから馬術の練習をしたいと思ってお願いに来たの。」

（本当は・・ルドルフが教えてくれるといいんだけどな・・・。ルドルフは馬に乗るのが上手だから・・・。）

「ええ、他ならぬヒルダ様のお願いです。お任せください。それでは今から早速練習をなさいますか？」

マルコが笑顔で答える。

「ええ。それじゃ私、着替えて来るわっ！」

ヒルダは嬉しそうに言うと、屋敷へと戻って行った。

しかし、この馬術大会によってヒルダの運命が大きく狂うきっかけになるとはこの時は誰もが想像していなかったのである—。