第五話 従魔は銃装備を入手する

 個人的にドラドには一緒に前衛の役割を担ってもらいたいのだが、ドッカン系がいいと主張するドラドを誘導するのは難しい。


 銃に前衛も後衛もないと思うかもしれないが、俺の食い扶持に大きく関係するはずだから無視できない。


 刷り込まれた知識によれば【落ち人】にまともな職業はなく、最終的に自分から奴隷になりに行くそうだ。

 その強制無職化の影響を受ける【落ち人】も、一応冒険者登録ができるらしい。下から二番目の階級になれば有効期限がない冒険者証と、迷宮探索資格を得られるそうだ。


 この迷宮探索こそが【落ち人】救済システムらしい。誰でも一攫千金を目指せるかららしいが、そもそも一番下から昇格できないし、迷宮に入ったら無法地帯をいいことに襲撃されるらしい。


 まさに天国からの地獄。


 希望を持たせた後に絶望に落とす鬼畜システムである。


 俺はこの迷宮探索を主軸に行動するつもりだが、銃撃から抜けてきた魔物や盗賊が接敵した場合、前衛がいるのといないのとでは生存率が大きく変化する。


 それに護衛依頼が舞い込んだ場合、依頼者を守る手段が必要になるだろう。


 ドラドの誘導が困難だと判断して、正直に考えを告げてみることにした。


「なるほどな! じゃあディエスの武器は何にするんだ?」


「メインは『FN P90TR』と『日本刀型振動ブレード』を、サブは『HK45T』と『魔法円盾』の構成かな」


「その左手についてる盾はバックラーだろ? どこがラウンドシールドなんだ?」


「ヘッドセットと連動していて、《起動》と言えば透明な障壁が展開してラウンドシールドの大きさになるんだよ。真ん中はそのままだから、相手にも気づかれにくいんだよ! 右手に振動ブレードを持てば、本物の騎士みたいに見えるでしょ? まぁ基本的にはP90TRを使うけどね」


 ちなみに、俺とドラドが話している間に女性陣は決めてしまったようだ。もちろん、俺の意志を汲み取ってくれた構成である。


 ティエラは魔法も併用する後方支援要員になった。俺にはあまり関係ないけど、回復魔法が使えるらしいから衛生兵扱いになるのかな?

 メインは「H&K MP7A2」と「ダネルMGL」という連射可能なグレネードランチャーだ。サブは「テーザー銃」と「サバイバルナイフ」で、町中でも防衛できるように考えられている。


 しっかり者は違う。完璧なまでに計画的だ。


 唯一冒険してるところはグレネードランチャーだろう。それも扱いはM134と同じでいいそうだ。臨機応変に対応するために一枠空けておくと言う。


 ついドラドを見てしまったのは仕方がないだろう。アサルトライフルかバトルライフルを持って欲しいのに、ショットガンを選んでいるんだからな。


 カグヤはしっかり者のお姉ちゃんがついていたから、あまり心配していない。個人的にはスナイパーが向いていると思う。

 下半身が蜘蛛だから安定しているし、上半身の筋力も人間以上にある。安定して立射できるんじゃないかと思う。


 森でゲリラ戦を仕掛けられたら絶対勝てないと思うな。無音格闘術を使えるそうで、ナイフを持たせるだけでも勝てそうにないのに、長距離狙撃が加わったら死神と喧嘩してるとしか思えないだろうよ。


 カグヤは偵察役になると言っていたから、スナイパーも同時に担当してもらおう。


 メインは「FN SCAR-H」と「バレットM82A1」を、サブは「HK45T」と「短剣型振動ブレード」の構成だ。


 銃には俺と同じくサプレッサーをつけることを想定しており、振動ブレードは普段はよく切れる短剣にも使える。

 しかも俺の液体魔力補充式という旧式ではなく、幻想地下世界の住人にも使える最新の魔力充填式だ。


 俺と同じブレード武器が欲しいって言ってくれたのだが、刀型は封印されている場所にしか売っていないから、今は短剣型で我慢してもらおう。

 転生した後の俺には、魔力充填式は無用の長物だからだ。使い潰してもらっても一向に構わない。


 バトルライフルと拳銃はティエラが選んでくれたらしいけど、バレットM82A1は俺が選んだ。是非とも使って欲しい。

 ドラドが大好きなドッカン系でもあるが、スナイパーライフルはドラドには不向きだろう。


「これにする!」


「……意外に普通だね」


「この弾丸を使いたいからな!」


「なるほど……。盲点だったかもしれないな」


「そうだろ!」


 ドラドが持っているのは、ポンプアクション式散弾銃の「M870」だ。そして使いたい弾丸というのが、テーザー銃の弾丸バージョン。

 一応町中を想定しているのかもしれないが、微妙に配慮しきれていないところがドラドらしい。というか、養母さんらしい。


「せめてサブは選ばせて!」


「……まぁいいだろう!」


 サブには拳銃や刃物、魔法武器くらいしか選べないんだけど、ドラドに任せたらデザートイーグル二丁持ちとかやりそうで怖い。


 元々MMORPGが好きな養父さんと、FPSが好きな養母さんがお互いに妥協し合って創ったゲームだから、主人である養母さんにそっくりなドラドがゴツい銃を選ぶのも無理はない。養母さんも同じだったから。


 ドラドの視線が痛い……。


 これは銃以外を選んではいけないやつだ。どうしよう。


「一つ目は『FN Five-seveN』ね。ロングマガジンを使用すれば装弾数が三十発だよ! 活躍すること間違いなし! あとはサバイバルナイフかな……?」


「ナイフ……」


「……それは冗談で、『デザートイーグル』という大型自動拳銃なんかどうだろう? サブのサブで!」


 モフモフの悲しい表情に屈してしまった。


「大型自動拳銃……! いいな! さすがだ! 任せて良かった!」


 さっきの絶望の表情が幻だったと思うほど、満面の笑みで喜ぶモフモフが可愛くて仕方がない。


 ようやく終わった。それぞれに弾薬を配ったり、スリングを取りつけたりの作業も全て終わった。


「ポーチが小さい! 弾がすぐになくなるぞ! 薬はいいから、弾をくれ!」


「あぁ。弾薬用と消耗品用の二つは共有ポーチって言って、俺のポーチと連動しているんだ。俺のポーチは事前に設定してある《コンテナ》と連動しているから、ポーチ内は自動補充される仕組みになっている。弾薬や四種類の消耗品は言ってくれれば補充するよ」


「手榴弾を入れたらパンパンになりそうな大きさだぞ?」


「ポーチに手を入れてみて。リストが頭に浮かぶはずだから、欲しい物を念じれば取り出せるよ。ベストにガチャガチャさせずに済むからね。でも消耗品の上限が四種類各三つまでだから、なくなる前に言って。俺もチェックするけど一応ね!」


「『魔法鞄』か! すごいな! 魔力関係なく使えるんだな!」


 まぁそういうシステムだからな。アバターに表示してたらPVPで手札バレしてしまう。心理戦も何もなくなるというものだ。


「もう一つは強化素材を使ってるし、ナノマシン認証式らしいから財布や私物用にして。少し大きめだし、共有はしてないから自由に使って」


「分かった!」


「ねぇ、ディエス。赤いものはない?」


「何で?」


「従魔の証で赤いものを身につける必要があるのよ。その赤いものに自分の魔力を込めた飾りをつけるんだけど……あなたはどうするの?」


 そうだ。俺は魔力がないんだった!


 ――ピロリン!


『《PX》で従魔証を購入できるようになりました』


 ……ナイス、サイコパス神!


 デフォルメされたサイコパス神がドヤ顔をしているけど、今日は許そうではないか。


 ――《PX》


「さぁ、好きな従魔証を選んで!」


「おれはバンダナを首につけようかな!」


「わたしはブレスレットにしようかしら!」


「カグヤもブレスレットがいい! 服で隠せるもんね!」


 なんと! 狙撃の時に邪魔にならないようにと考えているらしい! 賢くて可愛い! 天使だ!


 三体とも俺の従魔ではあるが、カグヤは名付けも俺が初めてだから余計に可愛い。


「じゃあ今日はここまでにして夕ご飯にしようか。全然魔物いないし、船は勝手に爆走してるしね!」


「仕方がない。作るか!」


「ん? ドラドが作るのか?」


「……おれの仕事だからな」


 地雷か? これは地雷だったのか?


「じゃあキッチンに案内するよ」


「おう!」


 ◇


 俺の目には異世界らしい光景が映っていた。


 エプロンをと手袋、コック帽をつけた太った虎さんがキッチンに立っているのだ。

 慣れた手つきで包丁を使ったり鍋を振るったりと、まるで絵本の中に入り込んだみたいで驚いている。


「今日は簡単な野菜炒めしかできないからな。あんまり期待するなよ!」


 といってた割りには、めちゃくちゃ食欲をそそる香りが漂っている。ヨダレがジュワッと溢れ出し、食べる準備をすでに始めているくらいだ。


 カグヤも楽しみなのか、そわそわして落ち着かない様子だ。ティエラは一見落ち着いて見えるけど、尻尾がブンブン振られているから楽しみではあるようだ。


「初めてみた調味料があったから使ってみた! ほれ、出来たぞ!」


 大皿をテーブルに置いた瞬間、暴力的な香りが胃袋を刺激する。


 これはソースだ。ソースの香りに間違いない!


「それでは手を合わせて……いただきます!」


「「「いただきます!」」」


 大皿から小皿によそって一口。


「うまぁぁぁぁい!!!」


 野菜は船にあったキャベツとかだけど、肉はドラドが収納魔法から取り出していたはず。豚バラみたいなんだけど、脂身がプルプルで臭みもクセもなく、甘みと旨みが詰まっている。

 肉自体もモチモチとほどよい弾力があり、食べ応え抜群のお肉だ。


 味付けもちょうどいい濃さで、手が止まらない美味さである。コッペパンに切り込みを入れて挟んで食べても美味かった。


 料理の美味さに気を取られ、収納魔法のことはどうでもよくなった。


「喜んでもらえて何よりだ!」


「これからも料理長として頑張っていただきたい!」


「いいだろう!」


 食事の後は風呂だ。このクルーザーには湯船がついている。水の使用に気を遣う船上だが、ドラドが水もお湯も自由に創れるということで風呂に入ることにする。

 初回だからみんなで入ることになったが、さすがにとても狭かった。


 次回からは男女で分けることにする。まぁこの船に乗ることがあればだけど。


 そしてついにお楽しみの時間がやってきました。モフ抱き就寝の時間です。

 ドラドの横で寝ることになったわけだから、寝相を装って抱きついても問題はないはず。待っててね。俺のモフモフ。


 ……と行き込んだのはよかったが、時差ボケならぬ異世界ボケのせいか横になってすぐに寝落ちしてしまうのだった。


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