第14話 緊急クエスト!!!

 ギルバートさんの昔話の後、俺はソロクエストにより精を出していた。


 なんとなくだが、あの人は過去の仲間を俺と重ねたのかもしれない。同じレンジャーだったそうだし。


 そして、ソロでのクエストにもだいぶ慣れてきたころ、俺の貯金は気づけば過去最高額になっていた。


 俺の部屋は、金貨・銀貨の詰められた袋に一角を奪われていた。嬉しい悲鳴だが、正直あまり使い道がないので困ってしまう。


 新しい装備というのも、この間買い替えたばかりだし。贅沢するにしても、休みの前に体力が回復していれば1~2件くらいの店で飲むくらいだ。そして、それもあんまり泥酔しないようにしている。人のふりをさんざん見てきたからだろう。


 現に、俺が今やっていることは、休日なのに武器の手入れだ。


 扱う武器については、鍛冶屋に手入れをお願いしたりするケースも多い。ラウルは大剣を3つほど使いまわしており、専属の鍛冶屋にクエストが終わるたびに手入れをお願いしていた。


 一方で俺が使うのは、短剣や弓矢といった、消耗しやすい武器だ。鍛冶屋にお願いすることでもないし、何より俺の使いやすいようにいじるのは俺が一番よくわかっている。なにより、俺までそんなことをしていると、さすがに生活が追っつかない。


「……いっそ、武器の手入れも鍛冶屋に頼むかなあ」


 そんなことを呟きながらも、俺は自分の短剣を砥石に擦り付けていた。


 その時、俺の部屋の扉を叩く音がした。扉を開けると、そこにいたのはレイラさんだった。


「よう、精が出てるねえ」

「ど、どうしたんすか?こんなところに」

「何、渡すもんがあってね。ほれ」


 そう言って彼女が俺にくれたのは、一枚の手紙だ。


「これって……」

「いや、ごめんね?前にお願いした鑑定士の返事、ちょっと前にあたしんところに来てたんだけどさあ。手紙に埋もれてて気づかなかったんだよね」


 そう言いながら、レイラさんは鼻を掻いて笑った。


「じゃあ、鑑定の依頼は?」

「うん、あたしさっき中見たけど、オッケーだってさ。今日は無理だろうから、次の休みにでも行って来たら?」


 俺は手紙を改めてみる。「都合のいい日に来てください」とあるので、具体的な日取りは気にしなくてもいいものだろうか。まあ、こちらの都合に合わせていくしかない。


「まあ、わかりました。わざわざすいません、届けてもらっちゃって」

「いやあ。もとはと言えばあたしが手紙に気づかないのが悪かったんだし」

「……埋まってたって、いったいどれくらい来てたんすか?手紙」


 俺はなんとなく気になって、レイラさんに聞いてみた。


「うーん、200からは数えてないや」


 そりゃあ、手紙の一つや二つ埋まるのも無理はないだろう。


「……こまめに整理してくださいね」


 俺がひきつった笑いを浮かべながら言うと、レイラさんはまた鼻を掻いて笑った。


***************************


 休みが明けて、俺はいつものようにギルドに向かう。クエストボードを覗こうとすると、エリンちゃんの姿を見つけた。彼女はどうやら、俺を探していたようだ。


「あ、コバさん!」

「おう、エリンちゃん。どした?」

「前言った引っ越しなんですけど……」

 エリンちゃんは、前に話した引っ越しの手伝いの打ち合わせがしたかったらしい。


「コバさんの次のお休みに合わせてやろうかと思ってるんですが、どうでしょう」

「え、わざわざ俺の休みに合わせんの?悪いよさすがに」

「いえ。コバさんはクエストをされる身ですから、お仕事の邪魔になるようなことはしたくないので」


 気を使っているんだろうけど、個人的には仕事扱いにできるから依頼にしてくれないかなあ、と少しばかり思ったり。まあ、言うだけ野暮か。向こうは真剣に親切だ。


「じゃあ、5日後にまた休み取るつもりだから、その日でいいかい?」

「はい!」


 よろしくお願いします、と頭を下げてエリンちゃんはギルドから出て行った。わざわざそのためにギルドまで来たのか。まじめな子だなあ。


 さて。向き直り、いつものように俺はクエストボードを眺める。手ごろな採集兼ちょっと修行も兼ねたモンスターが出そうなクエストを探し、適当なのを何枚か見繕った。


 それを受付に持っていこうとしたとき、ギルドの正面入り口が勢いよく開かれた。一人の職員が、息も絶え絶えでギルド内に入り込んだ。


「ま……」


 そこまで言い、職員は溜める。俺を含むギルドにいる全員が、その男を見ていた。


筋肉猪マッスルボアーが……出たぞおーーーーーーーーーーっ!」


 その叫びに、バレアカンの冒険者ギルドは騒然となった。


 筋肉猪とは。


 突然変異を起こし、魔物と化したイノシシである。


 イノシシと言っても、先日のビッグ・ボアとは比べ物にならない。ビッグ・ボアはせいぜいでかくても人間大になることはない。


 だが、筋肉猪は人間の身長を優に超える巨体だ。しかも、こいつは驚くべきことに二足歩行である。


 さらに、ビッグ・ボアよりも強靭な筋肉を持っており、はち切れんばかりの肉体を見せつけるように進むので、「筋肉猪」と呼ばれているのだ。


 その強さは、森の王者の座に近いとも言われ、冒険者からは恐れられる存在だ。


 なにしろ、かなり熟練の冒険者が苦戦するオーガを、筋肉猪は平気で殺せてしまうのだ。吟遊詩人の歌では、「勝手に戦い、滅びてほしい」とうたわれるほどである。


 ギルド職員の話では、そんな筋肉猪が、今まさにバレアカンの町につながる街道に出没したらしいのだ。


「すぐに子爵に連絡して、応援を要請しろ!ここにいる冒険者ども、動ける奴は全員来い!緊急クエストだ!」


 報せを受けて、飛び出してきたギルバートさんが叫んだ。


「参加報酬は一人金貨20枚!筋肉猪を町に入れさせるな!功績者には追加で報酬を出す!」


 金貨20枚、その言葉を聞いた冒険者たちが色めき立つ。通常のクエストではありえない、とんでもない報酬だ。さらにボーナスも出る。


 つまりは、それだけ緊急かつ危険なクエストということだ。


「冒険者歴の少ない奴は町の人の避難させろ!5年以下の若造はいても邪魔なだけだ!」


 若いものに任せるには、あまりにも荷が重いクエストであることを、ギルバートさんは案に伝えた。


 俺は9年なので、勿論参加する側になる。

 いやな汗が身体を伝い、腰の短剣を握りしめた。


「コバくん、聞こえたでしょ!?」


 マイちゃんが俺を見つけて、駆け寄ってきた。


「準備、急いで!」

「ああ。わかってる、マイちゃんも避難準備しなよ」


 俺はマイちゃんの肩を掴み、ギルドの外へと出た。

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