第2話 俺のパーティ遍歴
気が付いた時には、店に男たちはいなくなっていた。残っているのは、倒れた俺とラウル、俺のそばで座っているエリンちゃん、あとは食堂のオーナーであり俺たちが世話になっているおばちゃんのレイラさんだけだ。
ラウルは見るも無残にボコボコにされ、金も巻き上げられていたが、明らかに取られた量より多くの金貨が彼の周りに散らばっていた。
エリンちゃん曰く、「幸せになれよ、クソが!」と言って皆がぶつけていったらしい。変なところで気のいい連中である。
そして、花婿も命に別状はないようで、俺はどこかほっとした。まあ、巻き込まれて俺もあちこち踏みつけられて、なかなかにボロボロなんだが。
「俺の治療費は誰か出してくれた……?」
「コバさんの治療費はコバさんが出すんじゃないですか?」
俺はエリンちゃんの言葉を聞いて、がっくりと肩を落とした。人のこと蹴るだけ蹴っておいて、忘れられるとかありかそんなの。
昔からこうだったなあ、と俺は気絶したラウルをみて思い出す。こいつと俺は、ずっと一緒にいるけれど、なんだかんだと注目されるのはいつもラウルだった。
俺とラウルが初めて出会ったのは、確か俺が三歳であいつが一つ下の二歳だった時だ。俺たちの住んでいた村は小さい村で、村の子供はみんな一緒に遊んでた。そこにラウルが入ってきたんだったな。
ラウルは俺たちの世代では末っ子だったから、みんなにかわいがられた。まるで弟みたいだって言って。かくいう俺も、今まで末っ子扱いだったから弟みたいに可愛がった。
ラウルは村一番の力自慢で、大人も驚くくらい強かった。村に立ち寄った冒険者のおっさんたちが話してくれる冒険譚が大好きだった俺とラウルは、一緒になって話を聞いていた。そんな俺たちが、成長したら冒険者になりたいと思うのも当然だった。
「なあ、俺たち、冒険者になって一旗揚げようぜ!」
「おう、有名になって、父ちゃん母ちゃんを楽させてやるんだ!」
そんな話を切り出したのは、どっちだったろうか?もう9年も前のことだから、記憶も朧気になっている。だが、そう言いあって二人して村を出たのは、間違いない事実だった。
それで、俺たちは晴れてこのバレアカンの町で冒険者となり、華々しいデビュー……とはいかなかった。むしろ、順風満帆とはかけ離れた道をたどった、いや、今もたどっている真っ最中だ。
どういうわけか、俺とラウルが組んだ冒険者パーティは、長く続かなかった。
冒険者パーティというのは、3人から4人で、長いところだと20年以上一緒に冒険し続けるという。もちろん、クエストの失敗や全滅なんかでパーティが一日で崩壊するところもあるから、一概には言えないが。ギルドが統計している平均では5年くらいは続くそうだ。
ところが、俺たちのパーティはいずれも、2年続いたためしがない。どのパーティのことも、俺は鮮明に覚えている。
最初に組んだパーティは、俺とラウル、そして女の魔法使いと女のヒーラー。バランス的にも問題ないと思っていたのだが、このパーティは2年で解散となった。
理由としては、魔法使いとヒーラーがそれぞれ結婚してしまったのだ。それも、それぞれ故郷に残してきた幼馴染と再会し、そのまま故郷へ帰って来ないかと説得され、コロっと落ちてしまったのだ。
2番目に組んだパーティは、俺とラウル、そして男の武闘家と男の魔法使い。全員男で気の合う連中で組んだパーティだった。だが、このパーティも解散となった。
この時はダンジョン探索に失敗し、武闘家と魔法使いは死んだ。ダンジョンの毒ガスにやられてしまって、金がないからと準備を怠っていたのが原因だ。俺たちが生きているのが奇跡にも等しい。
3番目は特にひどかった。俺とラウル、そして男のウォリアーと女のヒーラー。この二人、何と自分たちの泊まる宿で美人局をやっていた。そして、俺とラウルは彼らの商売に巻き込まれてしまったのだ。結局、ラウルが二人をぶちのめしてギルドに引き渡し、彼らは冒険者の資格を剥奪され、町から追放された。
このころから、俺たちは「あいつらと組むとろくな目にあわず、パーティが崩壊する」という噂が広まってしまい、パーティを組みづらくなった。そんな中、必死に新人や若手の勧誘を続けて4番目に仲間になったのは、男のヒーラーと女のウォリアーの二人組だった。この二人は将来有望株として、ギルドから紹介を受けてパーティを結成した。
だが、結局この2人は、王都へと移っていった。俺たちと組んでいた2年弱でメキメキと実力をつけ、少なくとも俺のことは完全に追い抜いていた。この件についてはギルドから「彼らをパーティに縛り付けるつもりか」と言われて、解散となっている。この時、ラウルがキレかけたのを、俺が必死に止めたのだ。2人とはたまに手紙のやり取りをするが、今も冒険者として頑張っているらしい。
そして、本日解散となった5番目のパーティ。俺とラウル、エリンちゃんともう一人、男のタンクがいた。エリンちゃんももう一人もお金が必要ということで、なりふり構わずだったが俺たちのパーティに入ってくれた。
エリンちゃんは最初から貯金が貯まるまでの期間で、命に関わるようなクエストには参加を渋り、どうしても参加するときは入念な準備をしてから参加する子だった。
もう一人は俺達よりも年上だったが、金を少し稼いでも借金の返済とギャンブルですぐに手持ちがなくなり、よく俺に金を貸してくれないかとせがんできた。ラウルは金を貸していたようだが、俺は貸しても返って来なさそうなので貸さなかった。エリンちゃんにはさすがに頼まなかったらしい。
そして、昨日俺たちがいつものようにクエストをこなしてギルドに帰ってくると、黒ずくめの男たちがずらーっと並んで待ち構えていた。その瞬間、矢のように飛び出したうちのパーティの男を数で囲んで抑え込み、連れて行ってしまった。
「放せ……っ!放して……っ!」
泣きながら叫ぶ彼の顔は、悲壮感漂うものだった。俺も、もしかしたらああなってしまうのではないか、そう思うと背筋が凍った。
そして、彼が抜けた穴をどうしようかと話そうとしたら、この始末である。
パーティに残っているのは、今や俺だけという有様だ。
昨日の悪寒は、あながちすぐに現実になるかもしれない。そう思うと、なんだか膝が笑っているような気がする。実際、踏まれまくったダメージで、膝は本当に笑っていた。
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