第4話
教室のドアが開き、黒髪と茶髪の美少女達が中に入ってくる。
「まだ来てないね、あのキモオタ。ねー、美夜。あいつに話しかけんのもう止めなよー!美夜が酷い事言われるのもう見てらんないって!いい加減、美夜が良くても周りが黙っちゃいないよー!」
前も同じクラスだった茶髪の元気っ娘で神崎の親友ポジションの巨乳、
以前神崎に暴言を吐いた時に一度、ガチのビンタをおみまいされた事がある。
あのなかなか止まらない鼻血の恨みは絶対忘れない。
「あはは…うん。できるだけ、皆の前では話しかけないようにするね」
文武両道の見た目クール美少女、見た目に反して人当たりが良いため皆に好かれている。
黒髪セミロングの貧乳、
関わりたくない度180%、その腐った口で話しかけてくんなって感じ。
「お、来たな。まだこっちに気づいてないっぽい。つーかもしかしたら、始業までお前だって気づかないんじゃね?俺と話してるくらいしか、前のお前と共通点ねーし」
気づかないならそれに越した事はない。
まだ上手く話せるかどうか、自信無いし。
心の準備と、頭の中で会話をシミュレーションする時間が必要だ。
教室の中に入り、他のクラスメートと挨拶を交わす女二人を観察していると最大の障害、神崎美夜と目が合った。
目を見開き、持っていた鞄を落として近寄ってくる神崎。
おう、何見てんだこのアマ。
ジロジロと人を見やがって、喧嘩売ってんのか?
「ユキ君…?ユキ君なの?」
何がユキ君だ。
昔みたいな呼び方してんじゃねーよ。
俺をあだ名で親しく呼んでくれる女性は、レンちゃんだけで十分だ。
「おい、凄いな幸人!幼馴染パワーってやつ?お前だって一発で気づいたぞ!俺も美少女の幼馴染欲しぃーっ!」
何が幼馴染パワーだ、この若白髪。
明日お前より早く登校して、マニアックなエロゲを机の上に放置する事にしよう。
現実の幼馴染とかろくなもんじゃねぇものを欲しがる親友への嫌がらせは確定として、今はこの状況を打破しなければならない。
馴れ馴れしくあだ名で呼んでくる神崎に、思わず暴言が口から吐き出されそうだ。
「美夜ー!今日みんなでカラオケ行くっ…何この超イケメン!?えっ?転校生とか!?」
状況悪化、神崎に話しかけようとした比田までもが俺に興味を持つ。
隣の親友は助け船を出すどころか、ニヤニヤしながら俺を観察してやがる。
腹立つわー。
親友パワーで察するに、どうせ無理だろ?早くいつもみたいに暴言吐いて楽になれって顔だろそれ。
上等ですわ。
見とけよ、レンちゃんを惚れさせた男ムーブ(LV1)を。
「ユキく…えっと。下谷君だよね…?」
「はぁ?美夜、目と頭大丈夫?あんなカメムシみたいな奴と一緒にするとか、失礼だよイケメンに」
ブッ飛ばすぞこの乳女。
臭いとキモさを兼ね揃えた絶妙な例えを出してきやがって!
…いや、落ち着け。
前の俺は蔑まれて当然、望んであんなキモオタカメムシ的存在になっていたんだから。
切り替えていこう。
レンちゃん、愛する我が真の
我に普通に話せる力を与えたまへ。
今まで画面の向こうでレンちゃんと話していた俺の半身。
そう、あれもまた俺。
つまり俺は、二次元では普通に女性と会話できるんだよ。
それを現実でもできないはずがない。
なぜなら俺という存在は、ギャルゲーの主人公でもあるのだから。
俺はギャルゲーの主人公、俺はギャルゲーの主人公、俺はギャルゲ………。
よし、キタ。
なにかが俺に降りてキタ気分だ。
これでいけるはずだ!
真剣な顔で比田に近づき、話しかける。
「へ!?え、ちょっ!近っ!?」
やべ、緊張したせいか近づき過ぎた。
比田も後ろに机があるため、無理に離れようとはしない。
まぁ、御自慢の乳には触れるような距離じゃないし大丈夫だろ。
なんか比田の顔が赤くなっているが、スルーだスルー。
「比田さん。俺が下谷幸人で合ってる。信じられないかもしれないけど。春休み中に好きな女の子の為に自分を変えたくて、頑張ってみたんだ。もうビンタされる様な事はしないよ、今までごめん。それと俺にあまり良い印象無いだろうし、前みたいに無視してくれて大丈夫。嫌われるのは仕方ないから」
よし、上手くできた気がする!
真っ直ぐ目を見て、真剣に話す事に成功!
それに自分だと話すついでに、今まで通り無視してくれという思いをちゃんと話せたぞ!
「あっ…え、本物!?…え、と!うん!ビンタはね!あたしもやりすぎたかな!こっちこそ、ごめんね!そっかぁ!好きな人の為にかぁ!凄い変わったねぇ!…うぅ、そんな近くで見ないで…ちょ、ちょっと暑いから涼んでくるっ!!」
比田真理、顔を真っ赤にして教室から逃走。うむ、ギャルゲーっぽい反応。
ギャルゲーの主人公ムーブがちゃんとできたようだ。
ひとまず大成功とみていいだろう。
ギャルゲーなら今ので好感度が上がったかもな。
だが俺の心はレンちゃん一筋。
俺から比田をデートに誘ったり、イベントを一緒にこなす等する気は無いので、好感度が上がりに上がってギャルゲーみたいに比田真理ルートに突入する事はない。
それより問題は去っていった友人を気にする事なく、こちらを無表情でガン見している神崎だ。
なにそれ、怖いんだけど。
まばたきくらいしろし。
「ねぇ、下谷君。なんか、昔に戻ったみたいだね」
そりゃ昔も女の為に努力して自分を磨いていたからな。
あの頃の俺がそのまま成長したら、こんな感じの見た目になるのは当然だろう。
あの頃の努力は無駄だった訳だが。
「ああ、そうかもな」
「さっき、真理との会話が聞こえたけど。好きな女の子ができたの?」
好きな女の子ができたからなんなの?
お前に関係無くね?
その腐っ…と、いけない。
俺は変わったのだ。
いかに大嫌いな女であろうと態度や口に表してはいけない。
レンちゃんに嫌われるような男になってはならない。
「まぁ、そうだな。さすがにあんな俺じゃ嫌われちゃうからな。神崎さんにも酷い態度をとって悪か…」
「どんな女の子?」
人が謝ろうとしてたのに、なんなのコイツ。
人の話は最後ま…
「ねぇ、どんな女の子?歳は?同じ学校?私の知ってる女の子?どんな髪型?どこに住んでるの?名前は?」
「…………」
絶句ですわ。
心の声すら遮ってきやがったよ。
なにそれ怖いんだけどが倍ドンなんだけど。
「ねぇ、教えてよ。ユキ君…ねぇ…」
目がマジなやつだ。
徐々に近づいてきてるよ。
え、何このグサッと逝かされそうな感じ。
どこで死亡フラグ立てたの俺?
なんて答えるのが正解なんだ?
病み系ギャルゲーとかやった事ないんだけど!
「あ!!もうそろそろ先生くるじゃん!ごめんね神崎さん!コイツと俺さっきから小便我慢しててさー!漏らしたら洒落にならないし、また後で!ほら、幸人!トイレにゴーゴゴー!」
親友マジ親友!
俺はお前がこの状況を打破してくれると信じていたよ!
エロゲは普通に返してやろう!
「お、おう!悪いな神崎さん!雄信の言う通り、実は膀胱が破裂寸前なんだ!じゃあまた!」
「あ…ユキ君…」
去り際に神崎から悲しそうな声が聞こえたが、急いで教室から脱出して男子トイレに逃げ込んだ。
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