偽物
陰陽由実
自分とは
性同一性障害。
簡単に言えば心の性と身体の性が不一致である障害のこと。
僕はそれに当てはまる。と、思う。
医師から診断を受けた訳ではない。
でも物心つく前からこうだった。
外見は女なのに自分は男であるようにしか思えない。
そんな日々。
誰かに相談はしていない。
することは出来ない。
「おーい、聞いてるー?」
「聞いてなかった」
「潔いな!」
「で、なんだっけ」
「だから部活の後輩が最近生意気な話だってば。言うこと聞いてくれないんだってば! どうすりゃいいんだって話だってば!!」
「……私帰宅部だから詳しいことはよく分からないけれど、後輩ちゃんたちにもそれなり理由? があるんじゃないかなぁ……」
「華奈、多分恐らく気のせいかもしれないけれど、私が欲しかった答えはそれじゃなかった気がする」
「……あれ?」
さらに、いつも他者と話すときには深い海に沈んで遠くから相手を見つめているだけのような感覚になる。
口は勝手に動いている。まるで他人のように。まあ、答えに困ることもあるから助かっているけれど。
ああ、そういえば。
独り言のときは例外だっけ。
◆◆◆
「ただいま」
ガチャリとドアを開けて夕焼けと共に帰宅した僕に返ってくる返事はない。
逆に返ってきたらそれはホラーにあたる。
静かな家の中、僕はカバンをドサッと置いてそのままソファーに寝転がった。
ため息ひとつ。
「人間って、僕ってなんだろ」
明日もまた同じ日を繰り返す。
まるで人任せのような時間を。ひたすらに。
だから変わることもない。ひたすらに。
でもやっぱり人として生きている限り人生と言うようで。
山のときがあって谷のときもあって野のときももちろんあって。
……だから、あんなことも起きてしまった。
人生だから。
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