第4話 (悲恋編)海の家まで

高校一年の夏は、父惣一の都合が付かず、何時もの海へは三人だけで行く事になった。例年なら車に荷物を積み込むだけで済んでいたが、自分達だけとなると、結構な荷物を持って行かなくては成らなかった。それでも三人は何とか荷造りして、それぞれにリュックを背負い出かけた。折角の電車旅行ならと言う事で、誠司が途中の大型の遊園地へ寄る計画を立てた。そこは海に突き出た島の上に作られた施設で、島全体に水族館や観覧車やジェットコースターなどがあり、近隣では結構有名な遊園地だった。夏休みでもありそれなりに込んではいたが、人気のアトラクションを除けば、すんなり乗車出来ていた。三人は比較的大人しい幾つかのアトラクションに乗った後で、二人がシオリの異変に気づいた。

「シオリ大丈夫か?」誠司が心配そうに顔を覗き込んだ。

「気持ち悪い。車や電車には酔わないのに、こう言うの駄目かも。私此所で休んでるから、二人で楽しんで来て。」顔色が冴えないシオリは、そう言って日陰のベンチでぐったりしていた。

「折角、シオリの為に計画したのにな・・・」誠司は、シオリの事を気にしながら、二つ三つのアトラクションを回ってから健司と合流し、シオリの元へ戻って行った。そんなシオリの回りに数人の同世代に見える女子達が取り巻いていた。二人が近づくと、シオリは気分が戻ったのか、手招きしながら、二人をその女子達に紹介した。彼女たちは、シオリの高校の同級生と先輩だった。

 その頃、シオリには、良く面倒をみてくれる一つ上の恵子と言う先輩がいて、シオリも初めて気を許せる同性の存在が出来た。その時、恵子が生徒会会長をしていた事もあり、シオリも自然とその仕事を手伝う様になっていた。そんな経緯もあって、受験の為に引退した三年を除いた一―二年が生徒会を運営する中、時期会長候補としてシオリは注目されていた。

「兄達です。私達は三つ子で、兄達は双子なんです。私だけ付いて無いまま生まれたんで女なんですけど。」一同の笑いを取りながら、二人に目配せした。

健司と誠司も適当に話を合わせながら、彼女達の紹介を受けた。

「一年上の恵子先輩、同じクラスの幸子さんと生徒会で一緒のお仕事している梢さん。恵子さんは、現在の生徒会長さんです。」

「東堂健司です。妹がお世話になっております。なにぶん女子校なんで、見に行く訳にもいかず。此奴おてんばなんで、迷惑かけてなきゃ良いんですけど。」

シオリが少しふくれ面をする中、健司は長男らしい発言で場を纏めていた。

「結城恵子です。もしかして健司君て、西郡君の後輩じゃ無い、テニス部の。」

「ええ、西郡は部長ですが、あっそうかそう言えば、今度うちの高校の生徒会長に成るんでしたね。」

「ああ、これは良い伝が見つかったわ。南校の生徒会とは今年の秋のイベントで色々打ち合わせしなきゃ成らないのよ。一々お互いの学校を通してだと面倒だから、何か良い伝は無いかと探してた所なんだ、シオリのお兄さんならバッチリOKね。」恵子は勝手に話しを進めながら、それぞれのグループがここへ集う事になった経緯を話し始めた。恵子は友達である梢の姉と梢とで此所に来る事に成っていたが、梢の姉が急用で欠席となり、梢の友達の幸子が代理で参加したと言う状況だった。健司達は、伊豆の親戚の所へ行く道すがら、シオリのたっての願いで此所に寄ったが、シオリがアトラクション酔いする事が解り、一人で休んでいた所であったと健司は説明した。そんな状況の中で、結局、恵子とシオリが残り、四人が再び出かけて行った。

幸子は、誠司が気に入ったらしく、仕切りと話を弾ませていた。特に彼が同じ天文部と言う事を聞いて、観測会の企画などを話していた。

「シオリにあんなハンサムな兄さんが二人も居るとは知らなかったな。」売店に残った恵子とシオリは、アトラクション組の話を始めた

「うん、うちは女子校だからね。中学時代の友達は勿論知ってる事だけど、身近に居なかったですね。男子校なんで、女の子の知り合いが居なくて、彼女でも出来てくれると助かるんだけどね。」

「シオリは何だか、母親みたいな事言ってるね。」

「大変なんですよ。面倒見るのも。」

「何の面倒見るの?」

「え・・部屋の掃除とか、人生相談とか・・・」

「ふん、何だそれ、もう出てて居ないけど、私の兄なんて、部屋には入らせてくれなかったぞ。変なもん一杯隠してたから。」

「変なもの?」

「Hな本とか、変なグッズ、お宅みたいな。」

「ふーん・・・」シオリはふと考えて、そう言えば、健司達の部屋には、そう言う物は無かったなと思った。

恵子との話は弾み、尽きることが無かったが、昼頃になって戻って来た、四人と再び合流して、お昼にする事にした。一行は、二回がゲームセンターに成っている食堂に行くと、食事の展示見本の前で品定めを始めていた。シオリは誠司はそれとなく近づいて

「随分仲が良いじゃない。幸子、誠司に気があるわよ。」少し茶化し気味に小声で言うと

「お前焼き餅やいてるのか?」と悪態をついて来たので、シオリは誠司の足を軽く蹴飛ばした。シオリは無理を言って、お子様ランチを頼んだのがきっかけで、同級生三人は同じメニューに成った。恵子は和食の定食で、健司と誠司は、ボーリュームのあるハンバーグ定食を注文した。賑やかな一同が籍について、ふと気づくと、誠司の隣に、幸子がちゃっかり座っていた。大抵の場合、東堂の三人は自然とシオリを真ん中にして、左が誠司で右が健司と言う配置になる事が普通であった。今回、そんな配置が崩れた為か、シオリは恵子の横に行き、対面する場所で誠司の左に幸子がいた。あぶれた様な形で、健司と梢が隣どうしとなった。

そんな配置を見て取ったのか恵子が

「何だか、見せつけてくれるね。」と茶化していた。

それぞれの、デザートが出て来るころ、梢が学校でのシオリの評判を事務的な口調で話していた。

「次期会長はシオリちゃんで決まりて所ですね。恵子さん。」

「ああ、その線で行くつもりだ。あっそうだ、その前に、シオリと梢には、折り入って頼みがあるんだ。」恵子はそれぞれの顔見ると

「南校の生徒会から、体育祭にゲストとして呼びたいと言う申し出が来ていて、まあ例年の事なんだが、応援団に参加して欲しいとの要請なんだ。」

「応援団?」シオリが訊くと、健司が補足説明と言いながら話始めた。

体育祭の時は、全校でクラスを奇数と偶数に分けて紅組、白組にし、それぞれの競技の成績で得点を競う事になる。紅白はそれぞれ応援団を結成し、応援合戦も含め各競技の応援をするのだが、毎年その応援団に西高の女子を招いていたとの事だったが、ここ数年それが途絶えていると言う内容だった。恵子は健司の説明に付け加える様に

「南校の会長からも、西郡からもしつこく依頼が来てるんだ。」

「西郡に至っては、出来ればコスプレをして欲しいだの、衣装は此方で調達するからスリーサイズを教えろとかの馬鹿な要求までしてくる始末だ。」

「ははは、西郡先輩ならやりかねないね。」と言って健司は苦笑していた。

「うちの生徒会は、一学期まで三年が仕切る事になって居ますが、それは名目だけで、学期末の会長選挙が終わると、次期会長が実権を掌握しているのが実態なんです。先輩ならかなり強引な手を使ってでも事を進めて来るでしょう。

親が地元の名士ですから。」

「そこが頭が痛い所だ、此数年、うちからは出場させて居なかったんで弱みもあるし。で、シオリと梢に頼んでる訳だ。」

「コスプレてどんな格好するんですか?」

「まさか、バニーガールやアニメのキャラ物の格好させる訳にはいかないしな、彼奴の資料にもっともらしく、写真入りでそんな候補が添付してあったけど。まあ、学ラン、学生服姿のオーソドックスな所に落ち着くと思うが。」

「ああ、俺見てー、バニーガール姿!」誠司が感極まった様な声で言うと

「馬鹿か?」シオリの罵倒する声に一同が笑い出した。

「まあ、誠司の反応に気を悪くしないでください。男子校なんで、多かれ少なかれ、そんな願望を持ってるのは事実なんで、西高のゲストの方々が拒絶反応を示さない様に、その辺の話は、西郡先輩にアドバイスして置きますから。」

「ああ、有難い、頼もしい伝が出来て安心するよ。な、だからお二人さん考えて置いてくれ。」恵子が話しを纏めた。

食事を終えてから、一同は幾つかのイベント会場を見て回っていた。

「大丈夫なのか、応援団なんかに参加させて、あんまりシオリを見せたく無いな、特にうちの学校の奴らにはな。」誠司が心配そうに健司に小声で言った。

「ああ、でも成り行き上仕方ないだろうな。ともかく目立たせない様にしないと。彼奴変に男慣れしてる所とかがあるからな。」

「俺達のせいでか?」

「まあ、そうだろう。あの年で男を手玉に取れる女はそうは居無いからな。」

シオリは少し名残惜しそうだったが、ナイトショウまで居ると言う恵子達を後にして電車に乗った。

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