第4話 クラスの皆には内緒


 ※※


 そこから現在に至り、本日もまた金曜日を迎えた。


「はい、じゃあ今日はこれで終わります。みんな、週末だからって遊び過ぎないように。もうすぐ中間テストってこと忘れないように」


 授業を告げるチャイムが鳴り、クラスメイト達が一斉に動きだす。


 すぐに帰る人、部活に行く人、教室に残ってこれからどこに遊びに行くか相談する人――などなど。


「じゃあね、前原君」


「また来週ね」


 大山君に挨拶をした俺も、続けて席を立った。


 まあ、俺はもちろん学校に用事なんかないので、すぐに帰る人なのだが。


 教室を出る瞬間、ちらりと朝凪さんたちがいる集団を眺める。


「えへへ、ねえねえ海~、今日どっかに遊びに行こうよ~。クラスの皆とカラオケ行こうって話になってるんだけど~」


「あ、ごめんね夕。今日は用事だから、すぐ家に帰んなきゃ」


「え~また~? 最近付き合い悪くないっすか?」


「って言っても、金曜日だけで、それも毎週じゃないでしょ。っていうか他の日は一緒にいるんだから、むしろベタベタしすぎだよ」


「そうかなあ、私はいつだって海とベタベタしたいけど~」


 いつものように犬みたいに甘えてくる天海さんを、朝凪さんがやれやれといった感じで冷静に対処している。


 朝凪さんが俺とたまに遊ぶようになってから、見られるようになった光景だ。


 約束していた通り、今日、朝凪さんは俺の部屋で一緒にだらだらする予定になっている。


 今日の予定はゲーム……ではなく、レンタルした映画を見るつもりだ。


 タイトルのほうは朝凪さんが選ぶということで、それは後のお楽しみになっている。


「私には私で色々と用事があんの。ほら、明日と明後日は遊んであげるから、今日は我慢すること。いい?」


「む~、わかった」


 俺と遊ぶ予定が入っている時は、天海さんからの誘いはこんな感じではぐらかしている。


 俺と朝凪さんがたまにこうやって遊んでいるのは、二人で色々考えた末、クラスのみんなには内緒にしておこうという結論に至った。俺がそうしてもらうよう朝凪さんに頼み、それを了承してもらった形だ。


 二人の認識として、俺と朝凪さんはあくまで『友だち』という関係だが、どうしてもヘンな勘繰りを持つ奴がこの世には存在する。アイツとアイツは出来てる、とかいう下世話な話ばかりをするヤツらが。


 天海さんに隠れているとはいえ、朝凪さんも相当可愛い。だから、俺と二人で会っていることがバレて、余計な迷惑をかけることはしたくなかったのだ。


『(朝凪さん)ごめん』

『(朝凪さん)ちょっと遅れるかも』

『(前原)いいよ、気にしないで』

『(朝凪さん)で』

『(朝凪さん)今日の晩餐は?』

『(前原)フライドチキンとハンバーガーにポテト。サラダなし』

『(朝凪さん)潔いね~』


 こっそりメッセージのやり取りをして、俺は学校を出る。


 火のないところに煙は立たない――そう言う意味で言うと、現在は俺はわりと大きめの火種を抱えているわけだが、しかし、こうなった以上は炎上しないように注意するしかない。


「さて……と。今日は何を頼もうかな」


 朝、テーブルに置かれていた二千円をポケット中に握りしめて、朝凪さんと一緒に食べるものをあれこれと考える。


 この状況を意外と楽しんでいる自分がいた。


『(朝凪さん)あ』

『(朝凪さん)そうだ』

『(前原)なに?』

『(朝凪さん)今日の映画のジャンルだけ発表しておくと』

『(前原)うん』

『(朝凪さん)サメ映画です』

『(前原)サメ映画』


 なぜサメ映画。俺のイメージだと人喰いザメが海にいる人々を襲って血しぶきがぶしゃー、という想像しかわかないのだが……そういうB級映画が好きなのだろうか。


「ねえ海……用事って、家の用事がなにか?」


「そうだけど、それが?」


「いや、な~んかその割には声弾んでるな~って気がして」


 一応、今のところ学校でもメッセージをこっそりやり取りする以外は会話すらほとんどしてないのだが、天海さん、鋭い。


「ん? 別にいつも通りでしょ」


 しかし、朝凪さんはそれに動揺することなく平然と返した。


「なに夕、そんなにウチの兄貴に挨拶しに行きたいの? 来るんだったら、連絡いれとくけど」


「げ」


「いや~、夕が兄貴に会うのなんて何年ぶりだろ。中1以来? だとしたらめっちゃ喜ぶだろうな~喜び過ぎて匍匐前進で迫ってくるだろうな~」


「うえ……」


 朝凪さんにお兄さんがいるのは初耳だったが、あの天海さんが気持ち悪がるぐらいだから、かなり強烈な個性の持ち主のようだ。


「で? どうする? 一緒に家に来る? やっぱりやめる?」


「……や、やっぱりやめます」


「そ、ざ~んねん」


「むぐぐ……」


 さすが朝凪さん、といったところか。冷静に対処しただけでなく、逆に天海さんを返り討ちにするとは。家の用事についてはウソの話だが、ここまで堂々としたはったりだといっそ清々しく感じる。


「じゃあ、明日は遊ぼうね」


「はいはい。きちんと埋め合わせはいたしますよ。夕お姫さま」


 二人で決めたこととはいえ、さすがに天海さんには事情を伝えたほうがいいのではと思うが、まあ、そこの判断は朝凪さんにお任せするとしよう。


 朝凪さんも、機嫌よさそうだし。

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