クラスで2番目に可愛い女の子と友だちになった

たかた

第1話 クラスで二番目に可愛い女の子


 友達って、いったいどこからが『友達』になるのだろう、とたまに考えることがある。


 同じクラスで、よく顔を合わせて喋っていれば? 一緒に学食にいったり、昼食をよくともにしていれば?


 いや、違う。それはただのクラスメイトで、単なる『顔見知り』程度にしか過ぎない。俺はまだ学生なので想像の域を出ないが、例えば同じ会社などで同僚と雑談をしたり昼食をともにするのとそんなに変わらない気がする。


 同僚のことを『知人』と呼ぶことはあっても、『友人』とか『友達』とは言わないだろう。


 友達になるには、やはりプライベートでも付き合いがあるかどうか、が重要になると俺は思う。


 放課後どこかをあてもなく寄り道して遊んだり、休みの日に会う約束をして集まったり。


 そのラインを越えて初めて『知人』から『友人』になるのだ。


 そして、そこをラインとして考えると、俺、前原真樹まえはらまきには『友人』とか『友達』と呼べる人物はほぼいなくなる。


 まあ、こんなことを朝っぱらからうだうだを考えるヤツなので、お察しなのだが……小学校入学から高校入学の今まで、学校が終わればまっすぐ家に帰り、休日は用事がなければ家でゲームをして過ごしていた。


 もちろん、その隣には誰もいない。


「おはよう、前原君」


「ん、おはよう大山君」


 こんな感じで、俺に話しかけてくれるクラスメイトも、一応はいる。彼は隣の席の大山君といって、割と趣味や話は合うのでこうしてよく話すのだが、彼にも彼で中学時代からの友達がいて、昼は大体そっちのほうに行ってしまう。


 以前、一度か二度誘われたことはあったのだが、この通り俺はそこまで社交的ではないので、空気を気まずくするだけして終わって、それ以来、だいたい昼は一人で食べることがほとんどになった。


 こうして同じクラスになってそこそこ経つが、未だに苗字に『君』づけなので、仲に関してはお察しの通りだ。


「はー……だるいね。いい加減土曜日にならないかな。前原君もそう思わない?」


「月曜日の休み明けに木曜日みたいなため息つくね。まあ、同意だけどさ」


 とは言ったものの、月曜日だろうが週末だろうが、俺の行動パターンはあまり変わらない。授業を受け、終わったら真っすぐ帰宅して、後は寝るまでゲームをしたり漫画を読んだりだらだらする。


 休みの日はただ単に学校に行かなくていいだけで、毎週来る金曜日の放課後を心待ちにしているわけではない。


 ……以前までは、そう思っていたのだが。


「みんなおっはよ~! みんな、休み明けの月曜日でだるいけど、今週も一緒に頑張ろうね~!」


 クラスの皆が気だるそうに教室の中に続々と入ってくる中、一際明るい声が全体に響き渡った。


「お、おはよ~天海さん」


「よう天海」


「あまみん、おは~」


 彼女が教室に入ってきた途端、それまで静かだった教室の空気が一変して明るくなる。


「おうおう、みんなまとめておはよう! えっへへ~」


 太陽のような笑顔を振りまいて、クラスの重苦しい空気を吹き飛ばした女子の名は、天海夕あまみゆう


 祖母が外国の人ということで、クォーターという事らしいが、その血を濃く受け継いだのか、日本人らしい顔立ちをしつつも、金髪に碧眼という、まるでアニメや漫画の世界からそのまま飛び出して来たような容姿だ。


「相変わらずだね、うちのナンバーワンは」


「……まあね」


 大山君が言う通り、天海さんはクラスの男子の間で『クラスでナンバーワンの美少女』と呼ばれている。


 だが、天海さんに至っては、校内でも一、二を争うほどの美少女と言って差し支えない。

 

 容姿、そして性格――どれをとっても完璧に近い女の子。そんなわけで、彼女の周りには常に多くの人がいる。


「夕、元気なのはいいけど、遠くからも響いてるからもう少しボリューム下げてね。他のクラスの迷惑でしょ」


「おはよう、うみ! 今日も気持ちのいい朝だね」


「はいはいおはよ。でも、それもう今日三度目だから」


「え~、いいじゃん。海は親友だし」


「親友でも朝の挨拶は一度だけでいいから。そして理由になってないし」


「む~、海はつれないな~」


 天海さんの周りにはいろんな女子がいるわけだが、その中で、先程から天海さんと親しげに会話をしている、クールな雰囲気を纏っている女の子が俺の目に留まった。


 彼女の名前は、朝凪海あさなぎうみ――別名『クラスで二番目に可愛い女の子』。


「はい、朝礼はじめるよ~。みんな、早く席ついてね~。特に天海さん、あなたの席はそっちじゃないでしょ」


 チャイムが鳴り、担任の先生が教室に入ってきた。それを合図にして、クラス全員が自分の席へとゆっくりと戻っていく。


「うえ~ん、海~」


「はいはい。後でちゃんと構ってあげるから、もうちょっとだけ頑張りましょうね、夕ちゃん」


「私は犬か~!」


 朝凪さんが天海さんをあしらうと、彼女たちの取り巻きの人たちから笑いが起こる。


 これが、ウチのクラスで毎日のように繰り広げられる、いつもの朝の光景。


「はい、じゃあ出席を取ります……出席番号一番、朝凪さん」


「はい」


「そして二番、天海さん」


「はい元気です!」


 自分の席に戻りつつ、天海さんがしゅぱっと手を元気に上げる最中。


 クラスのほぼ全員の視線がクラスのマスコット的存在でもある天海さんに集中する中、二人だけ、違うところを向いている人間がいた。


(おはよ)


(……うん)


 クラス全体が天海さんに気をとられる中、朝凪さんが、少し離れた俺の席のほうを見ながら、こっそりと小さく手を振って挨拶してくる。


「あれ、なんか朝凪さん、こっちのほう見てなかった?」


「……気のせいでしょ」


 大山君に、そう誤魔化しつつ、俺はポケットからこっそりスマホを取り出した。


『(朝凪さん)ねえ、前原。今週の金曜の放課後、そっちに遊びにいっていい?』


 もし、先程の俺が考える線引きで『ただのクラスメイト』なのかそれとも『友人』なのか判断するのなら。


 朝凪海あさなぎうみ


 彼女こそ、『クラスで二番目に可愛い女の子』であり、そして、俺の初めての『友達』になってくれた人だった。

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