第48話:白き巨人の蒼き拳


 ようやく地下水道の中でも比較的広いところに出られて気分が晴れたのも束の間、奥から続々と見上げてしまうほど巨大なゴーレムが続々と姿を現す。

 

 地上で出会ったゴーレムはどれも不格好だった。腕を前足代わりにして、まるでゴリラのような歩き方をしていた。

しかし、今目の前に現れ続けているゴーレムはゆらゆらとしつつもきちんと二本足で立っていた。

姿も人に近い形になっていて、どことなくドラグネットが作っていたギルバートにも似ているような気がしてならない


(こんなでかい相手、ニーヤがまともに戦えないのなら、まともに叶う筈がない。だったら!)


「ニーヤ、念のためにV-MAXでこの場を切り抜けよう!」

「レディ!」

「あ、いや、ちょっと早い」

「そうなのですか?」

「うん。俺が“発動!”って言ったらだな……」


 そんなくだらないことを話している間に、ゴーレム軍団はずしんずしんと重い足音を響かせながら近づいてきている。

 

「じゃあ行くぞニーヤ。準備は良いな?」

「はい!」

「そんじゃ……ニーヤ、V-MAX発動っ!」

「レディ!」


一馬は走り出し、背中のニーヤは青い障壁を展開。

二人は蒼き流星のようになり、駆け抜ける。


今のところゴーレムからの攻撃はない。このまま足の間を潜り抜ければ逃げられる。

そんな中、脇のどぶ川にいくつもの黒い影が見え隠れする。


「「「SAHAAA!!」」」


 どぶ川から複数体のサハギンは飛び出し、揃って水鉄砲を吐き出す。

 蒼い障壁は水鉄砲を受け止め蒸発させる。させはするのだが、

 

「ぐわっ!?」


 水鉄砲の水圧が、一馬を弾き飛ばした。障壁の力を、一気に複数放たれた水鉄砲が勝った影響だった。

 

(本格的にマズいぞ、これ……!)


「マスター、降ろしてください! マスター!」


 背中のニーヤはじたばたしているものの、相変わらず右腕しか動かしていない。

 

 唯一の攻撃手段のV-MAXも破られた。ニーヤは未だに傷が癒えていない。

 

 そんな一馬とニーヤへ向けて、無慈悲にもゴーレムとサハギンの混成軍が迫ってくる。

 

(くそっ……! アインさえ、あれば……!)

 

 

●●●



 一方その頃、地上では――

 

「ドラ、三番の工具を」

「これぇ?」

「そうそう、それ。ありがとう」

「ねぇねぇ、この辺りを少し削れば可動範囲が広がるんじゃないかな?」

「ん? おお、そうか。なるほど! アイディアをありがとう。さすがドラは優秀なゴーレム使いだな」

「でへへ! でしょでしょ?」

 

 瑠璃とドラグネットは巨大人形アインの上に昇って、いつ一馬が戻ってきても良いように各部の整備を行っていた。

 ついでに背中にも瑠璃のアイディアで新たに錬成した筒状の“噴射口”が取り付けられている。


「ん……?」


 肩の補修を行っていた瑠璃は足元にわずかな揺れを感じて顔を上げる。

 すると、アインの頭部に相当するエッジのかかったアーメットから赤い輝きが漏れ出した。

 

「ヴォッ!」

「動くだと!? ドラ、しっかりと掴まれ!」

「うわわわ!!」


 きっと一馬がアインを呼んでいる。

 そう確信した瑠璃は肩へしがみついた。ドラグネットも必死にアインの二の腕へ抱き着く様にしがみついている。

 

 白い巨人となったアインはこれまで見たこともない速度で廃都市を駆け抜けてゆく。

 途中、ゴーレムが行く手を塞いだ。アインは右手に戦闘用アームカバーを展開し、左手のシールドバンカーを構える。

 

「ヴォォォォッ!!」


 そしてまるで“邪魔だ!”と言わんばかりにゴーレムへ腕を突き出して突進し、突き飛ばす。

 ただそれだけで走るのを止めようとはない。

 

(妙な動きだ……まさか一馬に何かが!?)


 やがてアインは、廃都市の中心にある枯果てた巨大な噴水エリアに達する。

 

 ようやく立ち止まったアインは左腕のシールドバンカーを掲げた。

 

「ドラ! 衝突と同時に魔法を!」

「ええ!?」

「良いから、頼むっ!」

「ヴォォォォッ!!」


 アインは迷わずバンカーで地面を穿った。深く突き刺さった巨大な杭は砂塵を巻き起こし、地面へ縦横無尽に亀裂を発生させる。

 

「ファ、ファイヤエクスプロージョンっ!!」


 安全圏だろう肩にまでよじ登ってきたドラグネットは指を鳴らした。

 シールドバンカーの裏に装着された赤い魔石が輝き出し、その輝きは杭を通じで地面を真っ赤に染める。

 

「ドラ、口を閉じるんだ! 舌を噛むぞ!」

「わか……ひぎっ! 噛んじった……」

「……」


 地面が崩落し、瑠璃とドラグネットを肩に乗せたアインが沈み始めた。

 

 

●●●



「――っ!!」


 突然、背中のニーヤがじたばたするのを止め、頭上へ障壁を展開する。

 刹那、激しい爆発が頭上で発生した。

 

 瓦礫が豪雨のように降り注ぎ、目前のゴーレムを打ちのめし、何匹ものサハギンが押しつぶされる。

 そしてニーヤの障壁で守られている一馬の目前へ、巨大な影は降り立った。

 

「ア、アイン!? 命令していないのにどうして!?」


 いきなりのアインの登場にさすがの一馬も驚きを隠しきれなかった。

 

「あーっ!! ニーヤ、なんでカズマにおんぶしてもらってるのぉ!?」


 アインの肩から飛び降りてきたドラグネットは、接地の瞬間足元に魔法陣を発生させてさらりと衝撃を和らげる。

 そんな凄技を見せたのも束の間、一馬の背中に回っておんぶされているニーヤへ「なんで!?」「ずるい!」「あたしもあたしも!」などとキャンキャン吠え始めた。

 

「一馬、無事か!?」


 次いで、アインに括り付けたロープを伝って、瑠璃が降り立つ。

 

「どうして二人も一緒に?」

「整備中に突然アインが動き出したんだ。一馬が呼んだのではないのか?」

「いや、そんなことは……」


 しかし現にアインはこうして一馬の危機を知ってか駆けつけた。

 理由は不明。それでも頼もしいと感じる想いに変わりはない。そしてこの状況では僥倖でもある。

 

 ニーヤと共にここまで一緒に駆け抜けてきたもう一人の相棒を一馬は見上げた。

 

「行くぞ、アイン! ゴーレムを叩き潰すぞっ!」

「ヴォッ!」

 

 天井が高くとも、ここは狭い空間。長大なアクスカリバーを使うのは得策ではない。

 

 一馬はアインの右腕へスパイクの付いた戦闘用アームカバーを装備させ、ゴーレムへ突っ込ませる。


 アインの拳が、ゴーレムの頭部へ一撃必殺(クリティカルヒット)! 弱点である頭部を破壊されたゴーレムは、後ろに控えていた別のゴーレムを巻き込んで倒れてゆく。

 傍にいた別のゴーレムがアインへ拳を掲げて殴るかろうとする。

すると、ゴーレムの拳の前を蒼い輝きが流星のように過った。


「撃滅っ!」


 両腕に青い光の剣を現したニーヤはゴーレムの腕をあっさりと切り裂く。

 間髪入れずにアインがシールドバンカーをゴーレムの胸へ叩き込み瓦解させる。

 ニーヤはシールドバンカーをステップにして跳び、一馬の前へ綺麗に着地をしてみせた。


「お待たせしましたマスター! 手足の修復完了です。なんなとり御命じくだ――ふえっ!?」

「ありがとう。だけど、病み上がりなんだからもうちょっと自分の身体には気を使ってね」


 そう伝えつつ頭を撫でると、ニーヤの鉄面皮へ僅かに朱が差し込んだ。


「ニーヤばっかずるいずるいずるいぃー! あたしもカズマのなでなで欲しいんだからぁ!!」


 背後から突然、ドラグネットの叫び声が聞こえたかと思うと、一馬の脇を無数の鳥ゴーレムが過ぎって行く。

 鳥ゴーレムは一馬とニーヤへ飛びかかろうとしていたサハギンを啄み、或いは鋭く尖った翼で切り裂き、吹っ飛ばす。


「おっしゃー! 魚人げきたーい! ねぇ、あたし凄いよね? ねぇねぇ!!」


 と、嬉々とした様子のドラグネットの脇で爆風が起こり、彼女を吹き飛ばす。

 煙の向こうには美味しそうに焼けたサハギンが倒れていた。


「瑠璃、いきなりぶっぱなさいでよ! 危ないじゃん!!」

「ドラ! 今は敵に集中しろ!」


 瑠璃は投射機グレネードランチャーへ筒爆弾を再装填し、迫るサハギンの集団へ迷わず撃ち込む。

 ドラグネットは不満げにぷっくり頬を膨らませながらも、鳥ゴーレムへ指で指示を送り、サハギンを相手取る。


「一馬! サハギンは私とドラでなんとかする! 君たちはゴーレムを!」

「おう! ニーヤ、アインでアレをやってみようか!」

「アレですね! 了解ですっ!」


 細かく言わずとも、心は通じ合っている。

 ニーヤは元気よく、高く跳び、アインの肩へ着地した。


 一馬の意思を受けて、アインは右腕を大きく引く。

ニーヤはタタっと、軽快な足取りでその上を駆けて、アームカバーの先端へ、腕を組んで堂々と立つ。


「ニーヤ、VーMAX発動っ!」

「レディ!」


 そんな一馬のニーヤのやりとりに気づいた瑠璃は、嬉しそうな顔をしてサムズアップを送った。

やはり瑠璃はよくわかってらっしゃる。


 拳を引いたアインが走り出し、拳の先端でニーヤが青い魔力障壁を展開する。


 走ることによりニーヤの障壁がアームカバーを包み込み、拳を蒼く輝かせた。

 

「「撃滅鉄拳! メガトンアインパンーチっ!!」」


 一馬とニーヤは同時に魂の叫びを放ち、アインは目前でたじろぐゴーレムを蒼い拳で叩いた。


 拳は最初の一体をあっさりと砕く。しかし勢いは衰えず、二体、三体、四体と次々と打ち砕く。

アインの背後には崩壊したゴーレムの残骸が折り重なり、山を形作る。

 全てのゴーレムはアインの蒼い拳によって全て叩き潰されたのだった!


「しかし、これはVーMAXではなくダイダロスアタックかピンポイントバリアパンチ……いや、シャイニングフィンガーか!?」

「なにそれなにそれ! すんごくかっこいい名前ばっかなんだけど!!」


 瑠璃の呟きを拾ったドラグネットは嬉々とした様子で興味を示す。


 そんな2人の目の前で、一馬とアインから降り立ったニーヤはハイタッチを交わすのだった。


「――っ?」

「どしたの?」


 突然、ニーヤが険しい表情を浮かべて踵を返し、一馬は首を傾げる。


「生体反応を感知……何かが来ます」


 闇の向こうでゆらりと影が揺れている。

 そして、目の前に現れた影の正体に、瑠璃は息を飲んだ。

 

「ど、どうしてここに……?」

「久しぶり、瑠璃姉!やっぱり俺の鼻は凄いよ。瑠璃姉のことを匂いだけでわかっちゃうんだもん」


 立派な鎧を装備したかつての同級生であり、兵団の中心人物だった彼――吉良 煌斗は、不気味な笑みを浮かべる。

 

「ずっとずっと逢いたかったよ、瑠璃姉ぇーっ!!」




【白き巨人:アイン】現状(更新)


 

★頭部――龍鱗アーメット

*必殺スキル:竜の怒り


★胸部――丸太・魔石×1

*補助スキル:魔力共有


★腹部――丸太


★各関節――アコーパール×10

*補正スキル:魔力伝導効率化


★腕部――鎧魚の堅骨・球体関節式右腕部・魔法上金属(素材追加)

*攻撃スキル:ワームアシッド

*攻撃スキル:セイバーアンカー

*攻撃スキル:スパイダーストリングス

*必殺スキル:アインパンチ

*補正スキル:オーガパワー


★脚部――鎧魚の堅骨・魔法上金属(素材追加・交換)

*補正スキル:水面戦闘

*補正スキル:オーガパワー


★武装――斬魔刀アクスカリバー×1

*必殺スキル:エアスラッシュ

*必殺スキル:フレイムアクスカリバー

*補正スキル:斬鋼(切れ味倍加)


★武装2――ホムンクルスNO28:ニーヤ×1

*補助スキル:魔力共有

*攻撃スキル:障壁突撃(V-MAX) NEW!


★武装3――虹色の盾×1 

*防御スキル:シェルバリア


★武装4――戦闘用アームカバー

*必殺スキル:撃滅鉄拳メガトンアインパンチ NEW!


★武装5――パイルバンカー


★武装6――白銀の鎧


★ストックスキル

 なし


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