第11話:一馬、アイン、ニーヤ。三つの力を一つに合わせて!


 ニーヤはペタペタ歩き、一馬とアインは続いて行く。

 巨大なアインでも余裕をもって歩行できる大空洞に一馬達だけの足音が響き渡る。

思い返してみればニーヤのいた工房を出てから、不思議とモンスターに遭遇していないと思った。


「ニ、ニーヤ、まだか……?」


 歩き通しの一馬は疲れ始めていた。昼も夜もわからない大迷宮の中を、これまでずっと歩き通しだった。

 実際どれほどの時間が経過しているのかわからない。


「あと10キロほどで目的地です」

「じゅ、10キロ!? マジかよ……」

「マジです。ルート短縮の申請ですか? それは構いませんが、あまりお勧めは致しません。現在のルートは接敵を可能な限り回避しつつの順路になります」


 どうやらニーヤは一馬のことを考えて、なるべく安全に進んでいるらしい。それはありがたいのだが、流石に疲れと空腹が限界だった。


「わ、悪い、少し休ませてくれ……」


 さすがに限界を迎えた座り込んでしまう。するとニーヤは歩み寄ってきて、


「わわ!」

「これでいかがですか?」


 子供のように小さいニーヤは軽々と、一馬を抱えた。いわゆるお姫様抱っこというものである。

 ニーヤは小さな腕で、一馬をしっかりと抱えつつ歩く。さすがは人間の代わりに労働力としても扱われるホムンクルス。

だけども身体が小さいので、一馬の靴の踵ががりがりと地面に削られていた。


「もう良いよ、ニーヤ。俺が悪かった」

「何か問題でも?」

「靴が削れる」

「何か問題でも?」


 やっぱりニーヤはポンコツかもしれない。


「歩くよ。わがまま言って悪かった」

「とんでもありません」

「マスターの生命反応が僅かに弱まっています。このまま進むことを提案します」

「まぁ、言うことは分かるけど……」

「では、ワタシはどうしたら宜しいのですか?」


 ニーヤは少し困ったような顔をした。しかし並走していたアインを見上げて、顔が鉄面皮に戻る。

 

「飛びます。しっかり掴まってください!」

「わわ!!」


 ニーヤは常人離れした跳躍をし、アインの肩まで飛ぶ。

 そして一馬はアインのアーメットの脇にちょこんと乗っけられるのだった。

 

「これならいかがですか?」


 確かにアインに乗せてもらうならば、ニーヤにお姫様抱っこをされるよりも格段にマシだろう。

ていうか、さっさとそうしておけば良かった。

 

「お、おう。ありがと。これなら」

「いえ、良かったです。お役に立てて光栄です!」


 ニーヤはアインの細い肩の上へ乗っかりながら、鉄面皮を崩して笑顔を浮かべた。

 控えめに言って“素敵すぎる笑顔”だった。

 

 しかしニーヤはすぐさまは眉間に皺を寄せてアインから飛び降りる。

そして左右の手の甲から青く輝く光の刃を伸ばした。


緊急接敵エンカウント! 敵、来ますッ!」

「うおぉう! うおぉう!」


 闇の中から類人猿のような遠吠えがいくつも聞こえてくる。

 細い尾の先が“刀剣”のようになっている、猿型の魔物――セイバーエイプの集団が行く手を塞いでいる。

 しかも体長はアインの三分の一ほど。やりずらい相手である。

 

(ここはまずワームアシッドで牽制を……)


「ニーヤ、突貫しますっ!」


 ニーヤは元気な声を上げて飛び出した。

 

「殲滅っ!」


 青い軌跡が闇の中に浮かび、類人猿の悲鳴が響き渡った。


「起動直後のワタシとは違うんですっ! 本当はとっても強いんですっ!」


 ニーヤはアピールなのかなんなのか、そう叫びながら、小柄な体を生かして、跳んだり跳ねたりを繰り返してセイバーエイプ討伐を進めていた。

 さすがは迷宮深層で製造されていたホムンクルスである。戦闘力はポンコツではないらしい。

 更にニーヤに討伐されたセイバーエイプは魔光に代わって、どんどんアインへ吸収されてゆく。

 

(この分だとアインの出番はなさそうだな)


 不意に背後に鋭い気配を感じた一馬はアインを旋回させ、斬魔刀を構えさせた。

 空気の刃が鋼の剣に弾かれ、霧散する。

 

「キチチ!」


 背後から今度は巨大カマキリの登場。不意打ち。バックアタックである。

 

「キチチ!!」


 しかもかなり元気な個体なのか、奇声を発しながら、鎌を振り回して何発もエアスラッシュを放ってきている。

 一馬はアインを小刻みに動かしつつ、斬魔刀で空気をの刃を弾き続ける。

 だがカマキリの猛攻が激しく、それ以上の行動が取れない。

 

「きゃっ!!」


 後ろからニーヤの悲鳴が聞こえた。

 ニーヤがセイバーエイプの刃の尾に肩を貫かれ、膝を突いていた。


「ワタシを痛くしていいのは、マスターだけですっ!」

「WOU!?」

 

 ニーヤはすぐさま立ち上がり、光の刃で肩を貫いてきたセイバーエイプを切り倒す。

 休まずにセイバーエイプの集団に立ち向かい続けているニーヤにも疲れの色が見え始めていた。

 

 本来ならばニーヤの救援に向かうところ。しかし一馬とて、カマキリのエアスラッシュを弾くのに精いっぱいだった。

 

(どうするか。この状況……)


 その時、カマキリのエアスラッシュを弾きつつ、セイバーエイプの魔光を吸収し続けていたアインが、ひと際強い輝きを発した。

 

 

【スキル取得】 *セイバーアンカー



 僥倖であった。名称からどんなスキルなのかは、だいたい予想がつく。

 

 一馬はカマキリのエアスラッシュを斬魔刀で弾き、すぐさま空いている左腕をアインへ掲げさせた。

 

「セイバーアンカー、シュート!」

「ヴォッ!」


 一度、叫んでみたかった言葉が洞窟に響き渡る。


 アインの左手から紐のようなものに繋がれた刃が飛び出した。

 同時にカマキリはエアスラッシュを、アンカーへ向けて放つ。

 

 一馬はアンカーへ意識を注いだ。

すると、紐で繋がった刃は一馬の意志に従ってエアスラッシュを器用に回避し飛んで行く。

 

「キチチ――っ!?」


 縄で繋がれた刃が、カマキリの腹を貫いた。ダメージは与えた。一撃必殺ではない。

しかしカマキリの腹を貫いたアンカーは、相手の甲殻に引っ掛かっている。

 

(これは使える!)


 一馬は踵を返した。

 

「ニーヤ! 自由行動中止! 今すぐ俺のところへ戻れ!」

「イエス! マイマスター!」


 ニーヤはセイバーエイプを蹴倒し、アインの肩へ飛び乗った。

 

「一網打尽だ! そぉぉぉれぇぇぇ!!」

「キチチチっ――!?」


 一馬の意志を受けたアインが左腕を持ち上げれば、セイバーアンカーで繋がれたカマキリが宙に浮かんだ。

 カマキリは大きく弧を描いてアインの頭上を飛んで行く。


「キチッ!!」

「WOUUU――……!」


 地面へ叩きつけられたカマキリの巨体が砂塵を巻き起こし、セイバーエイプの断末魔が響き渡る。

 ニーヤが数を減らしてくれたおかげで、セイバーエイプの集団は、巨大カマキリに押しつぶされ壊滅状態となった。

 しかし戦闘は未だ終わってはいない。

 

「キチチ!」

 

 カマキリは忌々しそうにアンカーを鎌で切断し、起き上がる。

 

「遅いッ!」

「キチッ!!!」


 素早くアインをカマキリの懐へ飛び込ませ、斬魔刀を胸部へ突き刺す。

 巨大な刃が背中から飛び出すも、未だ足りない。

 しかしこれも予想済み。

 

「ニーヤ、今だ!」

「イエス、マイマスター!」


 ニーヤは斬魔刀の上へ器用に飛び乗った。斬魔刀を橋代わりにし、両手の甲へ青い光の刃を発生させたまま、矢のような速度で駆け抜けてゆく。

 

「ワタシの真の力、思い知れ! 殲滅っ!」

「キチっ――……!!」


 ニーヤの青い光の刃がカマキリの巨大な頭部を過った。

 カマキリの頭は身体から切り離され、地面へ落ちて潰れる。

四肢から力が抜け、カマキリは崩れるように倒れこんでゆく。

 

 完全勝利、大勝利だった。

 

「や、やった、勝てた……!」


 ずっと気を張りっぱなしだった一馬は、急激な虚脱感に襲われ、アインの上で座り込む。

疲労も、空腹も、喉の渇きも限界だった。更に眠気も襲い掛かって来ていた。

 

「どうかしましたか!? お怪我をされたのですか!?」


 ニーヤが慌てた様子で舞い戻ってくる。

そしてかわいらしいホムンクルスの顔を瞼に焼き付けつつ、一馬は意識を失うのだった。


 

 

【木偶人形:アイン】現状(更新)



★頭部――鉄製アーメット


★胸部及び胴部――丸太


★腕部――伸縮式丸太腕部×2

*攻撃スキル:ワームアシッド

*攻撃スキル:セイバーアンカー *NEW!


★脚部――大クズ鉄棒・大きな石


★武装――斬魔刀×1

*必殺スキル:エアスラッシュ *威力向上


★武装2――ホムンクルスNO28:ニーヤ×1




*次回からは一日一話更新となります。


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