迷宮深層へ叩き落されたマリオネットマスターの俺、それをきっかけに、巨大人形をどんどん強化して、ホムンクルス(美幼女)とイチャコラしながら突き進み己の道を切り開く。お前らなんてもう知らねぇ!

シトラス=ライス

一章

第1話:無能の烙印――“マリオネットマスター”


 ゆらゆら、かくかく。

粗末な巨人が危なっかしい歩き方で、天井が高く幅の広い洞窟ダンジョンを進んで行く。


 太い丸太の胴体。

木の棒で組んだ上下にしか振れない貧弱な腕部。

恵んで貰った鉄鉱石で成形した細い金属の脛が、粗末な石の脚部を蹴りだす

固い木の実の頭部は、何もないのは寂しいと思って取り付けただけで、実際飾り以上の機能はない。


 ずんぐりむっくりな、辛うじて人のような形をしている全高3mほどの“不格好な巨大木偶でく人形”


 しかしそんな人形であろうとも、目の前のオーク達には“脅威”にみえたらしい。

オークは唸りを上げると一斉に、巨大木偶人形へ、飛び掛かって行く。


(アインの腕を回転。そしてそのまま前進!)


 不格好な木偶人形の【アイン】は、“マリオネットマスター”である【木造きづくり 一馬かずま】の命に応じ、上下にしか振れない腕をブンブン回転させ始めた。

 棒切れの腕は飛び掛かってきた何匹かのオークを弾き飛ばす。

 だけども丸太の胴や、足元は腕の攻撃範囲外である。

すぐにそのことに気づかれ、アインはオーク達から集中攻撃を浴び始めた。


 木偶人形のアインは必死に腕を振り回し、オークを払いのけようとする。

しかし空回りばかりで、全くを攻撃になってはいなかった。


 次第にオークたちは、木偶人形のアインが全く脅威ではないと分かり、げらげらと笑いだす。

 

「もう良い! 邪魔だ!」

「うわっ!?」


 一馬の背後に居た“斥候”の同級生が一馬をゴミのように払った。

そして兵団の精鋭(エース)達が閃光を纏い、矢のような速度でゲラゲラと笑うオークの集団へ向かってゆく。


綺麗きらら、牽制を!」


 白銀の鎧を装備した色男で兵団の中心的存在――聖騎士の吉良きら 煌斗らいとは叫び、


「了解っ!」


 煌斗とお揃いに見えるローブを羽織った身目麗しい兵団のもう一人中心――魔法使いの吉川きっかわ 綺麗きららは魔法金属で成形された、立派な魔法の杖を突き出す。既に杖は激しく発光していた。


「メガサンダー!」


 綺麗の鍵たる言葉をもって、洞窟の暗闇に激しい稲妻が迸った。

雷撃はその下にいた複数のオークを吹き飛ばし、地面を激しく穿つ。


 木偶人形のアインに夢中だったオークたちに隊列を組みなおす暇は無し。


「行くぞ、みんなぁ!」

「「「「おうっ!!」」」


 煌斗の号令に、皆は気合に満ちた返事を返した。


 弓使い、槍兵、魔法使いに、聖職者。

多様な特性と特技を持つ、10代の少年少女は勇ましく、オークの集団を切り崩しにかかった。


 弓は一発で敵の心臓を貫き、槍は一薙ぎしただけで、複数のオークを紙きれのように吹き飛ばす。

 魔法使いは四元素由来のあらゆる魔法で前衛をバックアップし、聖職者は祈りを捧げて常に回復を怠らない。


 誰もが戦う術を持つ戦士たち――現世から去ることを条件に、超人的な力を与えられた彼らこそ、煌帝国こうていこくが召喚に成功した【転生戦士】である。


 戦況は圧倒的に優位。しかし、突如響き渡った地鳴りに、彼らは一様に息を飲む。


「煌斗! トロルよ!」


 綺麗は魔法を放ちつつ、闇の奥から現れた角無し巨人の登場を叫んで知らせた。


「みんな下がってくれ! 一気に決めるぞッ!」


 煌斗の勇ましい声が響き、仲間たちは超人的な膂力で飛びのいた。

 偉大なる力を秘めた“聖騎士の煌斗”は抜刀する。


「光は希望。輝きは未来。万物の恵みたる光の力! 今こそ魔を退け、邪を滅せる力とならん!――ゴールデンスラッシュ!」


 煌斗が剣を振り落とすと、三日月のような衝撃波が疾駆する。

駆け抜ける光の刃はオークを焼き尽くす。そして出現したばかりのトロルさえも光属性の力で爆散させる。

そして一馬の木偶人形:アインもその爆発に巻き込まれ、光に呑み込まれる。


 しかし光が捌けた先に、一馬は辛うじて自分の木偶人形:アインの姿を確認し、ほっと胸をなでおろす。

とはいえ、頭が焼け落ち、腕は吹き飛んで、無残な状態だった。


「お、やった! スキル獲得!」

「良かったね!」

「煌斗がここまで引っ張ってきてくれたおかげだぜ!」

「さすが、現世でもここでも頼るべきは煌斗だよね!」


 綺麗は煌斗の腕へ抱き着いた。そうされた彼はまんざらでもない笑顔を浮かべて、そんな彼を周囲は微笑ましくからかう。

和気あいあいとした楽し気な空気と空間。


 現世でも、そして異世界ここでも、友達が一人もいない一馬にとっては縁のないものだった。


「本日の探索は終了だ! 撤収!」


 帝都から派遣されている、彼らの監察官【ゲオルグ】の野太い号令の声が響き渡った。

 まだ戦い足りない様子の吉川 綺麗はぶつぶつ文句を言いながらも、煌斗に優しく諭され、渋々撤収の準備に取り掛かる。

 他の戦士たちも、煌斗が始めるならば、と撤収作業を始めた。


「ねぇ、木造君さ、一人だけ撤収作業サボらないでくれる? 空気読めないのかなぁ?」


 八つ当たりなのか、綺麗は蹲ったままの一馬へ冷たい声を浴びせかけ、


「そういうなよ、綺麗」


 煌斗はかがみこみ、一馬の肩を叩く。


「また素材を分けてあげるから、次もよろしく頼むよ、木造君」


 煌斗は悪人ではない。友達ではないが現世では中学の頃からの顔見知りなので、それは良くわかっている。

ただ少しばかり、周囲を気にする癖があって、少数よりも多数を尊重するきらいがある。

だからこそ彼は今も昔も、どうでも良い存在として捉えられていた一馬へは必要以上に関わらない。

それでも良心の呵責があるからなのだろう、こうして一馬へアインを破壊してしまったことを、遠回しに謝っている。


 そんな中途半端な煌斗のことを、一馬は少し苦手だった。

 本当に謝る気があるのならはっきりと「壊してごめん」と言って欲しかった。

しかし底辺の一馬が人気者の煌斗へ、きちんとした言葉を要求するのは無理なこと。

むしろ、こうして声を掛けられたのだから、何か言葉を返さねばならないのは一馬の方。


「……ありがとう……次も頑張る」


 一馬は絞り出すように返事を返す。

 綺麗は不愉快そうに一馬を見下し、煌斗は苦笑いを浮かべつつ、彼女の手を引いて離れていった。


 現生も、異世界ここも、彼の安住の地では無かった。

こんなことになるのなら転生戦士になどならず、素直に昇天していれば良かったとさえ最近は良く思う。


「一馬、ご苦労だった。撤収作業を手伝え」


 再び聞こえた労いの声。だけど煌斗のものとはまるで違う、優しく、慈しみを感じさせた。

陰鬱な気持ちが和らいでゆく。


「……わかりました」


 一馬は声をかけてくれた監察官のゲオルグへ、素直に従う。

そして立ち上がり、ボロボロになった木偶人形のアインを見上げて、虚しさを覚えた。


 異世界の一国家、煌帝国こうていこくに転移転生させられて半年が経っていた。

その期間に、一馬の役割ははっきりと決まってしまっていた。


 周囲の期待を裏切った、マリオネットマスターである一馬の役目――それは巨大木偶人形アインを操って、みんなの“弾除け”以外に無かったのである。



【木偶人形:アイン】現状



★頭部――硬い木の実(大破 *欠損、要交換)


★胸部及び胴部――丸太


★腕部――木の棒(中破)


★脚部――クズ鉄棒、大きな石


★武装――なし



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