第6話 「お代わり」
大きな街道を外れて脇道に入り、進むこと数時間。 夕闇が迫り馬車は停止した。 どうやら野外で一晩を明かすらしかった。
マリカたちに夕食として出されたのはパサついたビスケットと妙な臭いのする水。 食品と呼ぶのもためらわれる代物だ。 しかしマリカは栄養不足で体力が低下している実感があったので、ビスケットを水で飲み下すようにして食べ始めた。
ところが、ビスケットを半分ほど食べ終えたところでコップの水が尽きた。 コップ1杯の水では、パサついたビスケットを食べ切るのに十分ではないのだ。
マリカは床に置いたコップめがけて呪文を唱える。
「ヴィテーム・ウルビテーム・ラ・ウィータ」
すると、コップの中にみるみるうちに清冽な水が湧き出る。 が、湧き続ける水がコップの縁から
ともあれ水は確保できた。 マリカが再びビスケットを手にしたとき、横合いから女性の流罪人が声を掛けてきた。
「あなた魔法を使えるのね」
マリカはビスケットを齧ろうと開きかけていた口を開き直して答える。
「ええ」
すると女性は、人当たりの良い微笑みを浮かべてマリカに頼み込む。
「私にもお水を作ってくださらない? このビスケット、パサパサで食べにくくって」
見れば女性のコップはすでに空っぽだ。 ビスケットのパサパサさはマリカも痛感するところ。 マリカは女性を不憫に思い、《水生成》で女性のコップに水を満たしてやった。
「ありがとう」
女性は縄で縛られた両手でコップを持ち上げ、水を口に含んで飲み下した。 そして感心したように言う。
「あら、とっても美味しい」
《水生成》で作り出される水は純水で、口に含むと甘味すら感じられる。 保存容器の臭気が付いた古い水を飲んだ後では、ことのほか美味しく感じられるだろう。
「おい女、オレにも水を出せ」
そう言って傲慢顔の流罪人がマリカにコップを差し出してきた。 コップの
マリカを強姦すると宣言している以上、この男はもはや明確にマリカの敵である。 しかし、水を作るのを断れば殴られるかもしれない。 マリカはしぶしぶ彼にも水を作ってやった。 私の水でこの男がお腹を壊しますように。 そう願いを込めておいたが効果は期待できないだろう。
男はマリカの作った水をあっという間に飲み干すと、再び横柄にコップを突き出してきた。
「お代わりだ」
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