不確定性原理によるアリバイの崩壊


 この度、証人殺害事件で起訴された大物政治家の秘書であるK氏は当局に依って身柄を拘束される事となった。

 この事件は既に報道されているが、K氏のアリバイは大物政治家お抱えの敏腕弁護士によって立証された。


 今回の大物政治家の起こした疑獄事件で、殺害された証人のNさんには世間の多くの同情が集まっていた。だが、今回も限りなくブラックゾーンに近い大物政治家は法をすり抜け、いけしゃあしゃあと政治の舞台に返り咲くとの論評が各紙面を飾っていた。


 が、それも束の間でK氏の無罪放免という予想が見事に裏切られた。


 なんでも検察側は新法、不確定性原理導入法によってK氏のアリバイを崩したという事が顕かになった。


 世間が不確定性原理導入法に注目したのは言うまでもないが、これを簡単に述べると以下の通りだ。


 K氏は某月某日、Yカントリーで秘書仲間とゴルフをしていて、多くの目撃者や証人が存在するのだが、新法によるとK氏は殺人が行われた同時刻に、ゴルフ場にも殺人現場にも同時に存在した可能性があると言うのだ。


 もっと言えば、K氏の振る舞いは不確定であり、同日ゴルフをやっていたからと言って、殺人現場に存在し得ないという確定はされないという事になる。




 これに対し、感情的になったK氏が控訴したのは当然と言えば当然だが、この裁判の判決が下りるのがいつの日になるのか、予想もつかない状況が続きそうだ。




 判決も不確定と言えないでもない。





                  了

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