第38話 本戦出場者

フラフラになったおっさんがエントランスルームに降りてくる。

皆集合しているのだ。

昨日はあれからイリーナにこってり絞られたのだ。

パメラが負けたら身も心もおっさんに捧げるなんて言うからである。

丁寧にイリーナに事情を説明したおっさんだ。


今回武術大会をする上でロキとパメラにはおっさんとの間で約束事があるのだ。

ソドンとペルンのホテルで相談を受けてのことなのだ。

これは大会前日に2人にしたものである。

ロキとパメラに共通するものもある。

ロキだけのものもある。

パメラだけのものもあるのだ。


まず、ロキとパメラ共通する約束事についてだ。

2点ある。

1点目は武術大会において、仲間支援魔法は使わない。

これは、本人の実力で優勝すべきであるという考えである。

おっさんはロキとロヒティンス近衛騎士団長と試し合いにおいても仲間支援魔法は使わなかったが同様の考えである。


2点目は、1点目の相反することになるが、武術大会で命を落とすことがあるかもしれないという話だ。

大怪我をしても直せるが、命を落とすような事態になれば、反則負けになってもその前に回復魔法もかけるという話である。


次にロキに対してである。

今回の武術大会において、パメラを優先する。

パメラは獣王に遺恨があるという話だ。

何かロキとパメラどちらかに何かあればパメラを優先するという話だ。

これは具体的に何かあるという話ではない。

気持ちの話である。


最後にパメラだ。

これが、イリーナにアイアンクローを受けた話だ。

今回の武術大会で優勝しなければ、獣王の件は諦め王国で暮らすという話だ。

けじめを諦めて、新たな人生を歩んでほしいということである。

なぜ優勝しなければ諦めないといけないのかといえば、獣王は武術大会の優勝者である。

条件は同じなのだ。

例え優勝しなくても、王城に潜入する方法などいくらでもあるし、王都に潜伏することもできる。

しかし、それではけじめといえないという話だ。

パメラからは分ったと言われたのだ。

もし負けても内乱で亡くした両親や仲間たちの墓参りをさせてほしいとそれだけ言われたのだ。


(ロキとパメラに大事な話があるといったけど、皆にはその話を共有すべきだったな)


そんなことを思いながら、皆を見回すのだ。


「では、9時から本戦の開会式と対戦者の抽選会があります。そして、お昼から1回戦も始まりますね」


馬車を出してもらい、闘技場に向かうおっさんらである。

着いたところで、騎士が待っている。

朝早く言って席を取ってくれたようだ。

昨日同様に貴族及び王族席からの横の面に陣取るのだ。

貴族席からかなり離れている。


(ふむ、昔は花見のための席取りみたいなこともあったみたいだけど、俺はやったことないな)


観客席に腰を掛け、今日のスケジュールを確認する。


大会3日目のスケジュール

9時 本戦開会式

10時 本戦組み合わせ抽選会

12時 本戦第1回戦開始

18時 本戦第1回戦終了予定(21時まで延長)



「本戦の開会式も出場者32人全員闘技台に上がるんでしたっけ?」


「はい、予戦が終わった後そのように運営の担当者から言われました。何でも闘技台の上で抽選会をするという話です」


ロキがおっさんの質問に答えてくれる。


「4試合を同時にやってたんで、あまり見れなかったですよね。他30人誰が出るんでしょう?ブレインも本戦に上がったとのことでしたので、残り29人でしたか」


何人か場を盛り上げている者がいた気がするが、詳しくどうであったかなどはわからないのだ。

イリーナに締め上げられていて、それどころではなかったともいえる。


「おう、それなら今冒険者仲間に調べさせているから待ってくれ。正直1試合目は、抽選会から試合まであんま時間ねえからよ、よっぽど有名じゃないと分かんないぞ?」


ブレインの定位置になった席から声がする。

ブレインも本戦開会式にやってきているのだ。

ブレインに渡した白金貨5枚の一部を使って、冒険者を雇っているとのことだ。

参加者を調べている冒険者やそれを生業にしている情報屋も多いとのことだ。


(決勝まで合わせて5回試合があるんだっけ?32人のトーナメントだしな。ロキとパメラの2人だから最悪10人調べたらいいな。あんまり対戦しない選手のこと細かく書いても仕方ない気がするしな)


「そうなんですね。情報屋もいるなら、助かりますね。皆、本戦に上がりたくて必死なんですね」


「なんだ?お前らもそうだろ?白金貨10枚も使っているじゃねえか?」


ブレインはおっさんの仲間を優勝させたくて、ブレインを雇って情報を収集していると思われているようだ。

ブログのネタにしたいなどと、想像できるはずもないのだ。


「まあ、確かにそうですね。優勝しても何ももらえないと聞いたのですが、ムフタさんは本戦にいってAランクに上がったそうですね。本戦にいくとAランクになるんですか?」


おっさんもわざわざ、ブログのネタですよと否定はしない。

そして、パメラとムフタが予戦決勝で戦っている際、総司会ゴスティーニがムフタはAランク勝ち取ったと言っていたのだ。


「もちろんあるぜ、それを餌に他国からの挑戦者を集めていると言っても過言じゃないぜ」


ブレインがおっさんに本戦出場による冒険者ランクの特典に着いて教えてくれる。

本戦に出場し、勝ち上がっていけば、冒険者ランク上昇のポイントになるという話だ。

これはウガルダンジョン都市でダンジョンに入った階層で冒険者ランクを簡易的に評価し上げるのに似ているのだ。


冒険者は強くなければ、仕事ができない。

高ランクには高ランクの仕事があるのだ。

当然、本人の素行や貢献も評価の対象であるが、それ以上の価値がこの本戦に勝ち上がっていくことにあるという話だ。

元々Bランク以上と条件を絞った上での本戦出場であるからだ。


本戦に勝ち上がり、32人から16人、8人と勝ち上がっていくと、その回数によって以下のようにランク上昇の評価となるのだ。


・Aランクの条件

本戦出場(32人)を4回達成する

2回戦出場(ベスト16)を2回達成する

3回戦出場(ベスト8)を1回達成する


・A(・)ランクの条件

準決勝戦出場(ベスト4)を4回達成する

決戦出場(ベスト2)を2回達成する

優勝する


シングルスターになるのは基本的に生まれて活動をしたそれぞれの国である。

では2つ目のAランクの点を貰うためにどうするかというと他国で活動をし、功績を残さなくてはならない。

自由な冒険者であったとしても、国に帰属する部分が多いので活動拠点の国を変えるのは難しいことが多い。

国に貢献し、シングルスターまで上り詰めた冒険者ならなおさらである。

そこで獣王武術大会だ。

優勝すれば、Aランクの点がもらえるのだ。

Sランクを目指す冒険者は、自国でまず点をとり、次に獣王国の武術大会での優勝を目指すのだ。


【ブログネタメモ帳】

・Sランク冒険者への道 ~点を勝ち取れ~


(ふむふむ、俺は出場しないけど、ロキやパメラはベスト8に上がればAランク、優勝できればシングルスターになれるのね。配下のロキにランクで並ばれちゃう。ぐぬぬ)


ブログネタが増えて、タブレットの【メモ】機能に記録していると、武術大会の運営担当者がやってくる。

まもなく本戦の開会式なので、闘士控室まで来てほしいとのことである。

ロキ、パメラ、ブレインが運営担当者に連れられて行く。


そして、待つこと15分


総司会ゴスティーニが今日も道化のような格好をして、闘技台に上がっていく。


『大変長らくお待ちしました。それでは、5126人という過去最大規模の闘士の中から選ばれた32人の闘士達の入場です!』


観客席から歓声が聞こえてくる。

2列になって入場してくる本戦出場者だ。


「さすがに、先頭は獣人ですね」


「まあ、獣人の大会だからな」


おっさんの感想にイリーナが返事してくれる。

体育会系のイリーナはもうパメラの件は根に持っていないようだ。


「ん?王族でしょうか?あ!セルネイ宰相が貴族席にやってきましたね」


「うむ、本戦開会式には王族はこないが、宰相が参加するのが習わしであるな。審判では判断がつかない試合もあるのだ」


今度はソドンが答えてくれる。


「あれ?そういえば、貴族席に獣人以外の方もいますね。王国からの招待客でしょうかね」


「うむ、本戦からは、他国の賓客も招くであるな。獣王国にとって武術大会は大切な外交の場であるな」


本戦からは、獣王国の力を示すために、帝国、王国、聖教国の賓客を招くのだ。

1人の力が言葉のとおり100人力になる世界だ。

100人力、1000人力になった獣人の力を外交官等、賓客に見せつけるのである。


『それでは、本戦に出場する32名を紹介したいと思います!!皆様予選で敗退したAランク冒険者が20名を超えました。過去にこのようなことがあったでしょうか!本戦出場者は過去最高の猛者達であることをこのゴスティーニ!お約束します!!』


「お、いいですね。何か対戦相手の特徴とか分かるかもしれませんね」


「うむ、そうであるな。しっかり聞くとするである」


おっさんの言葉で、ソドンも総司会ゴスティーニの言葉に集中するのだ。


『前人未踏のダンジョンであるウガルダンジョンを攻略せし、王国最強の槍使いロキ闘士!本戦も華麗な槍捌きを見せてくれるのか!』


総司会ゴスティーニがロキに近づき観客席に紹介するのだ。


「なんか1ブロックから紹介するみたいですね。ちょっとタブレットで紹介内容を記録していきますね」


おっさんが獣人ではなく、ロキからの紹介なら1ブロックから32ブロックの順番で紹介すると推察したのだ。

皆の紹介内容から何かわかるかもしれないので、タブレットの『メモ』機能に記録していく。


(うは!ついでにブログにしちゃうんだから)


【ブログネタメモ帳】

・本戦開会式 ~対戦者はだれだ!~


「うむ。」


『今は亡きメクラーシ公国よりやってきた死神、戦血のエルザ!ダブルスターの刃の向かう先は誰になるのか!?』


(貫頭衣に1枚に素足なのね。相変わらず防御力0な件について。武器持ってないけど、素手なのかな?ダブルスターってことはかなり強いんだろうけど)


ゴスティーニの紹介に一切反応を示さず、虚空を見つめるエルザ。


『その拳に込めるのは祈りか!?裁きか!?魔闘士クリフ!聖教国のシングルスターがまたやって来ました!今年も大会を盛り上げてくれるのか!!』


(サラダボウルだ。まんま教会にいる神官な件について。武僧ってやつなのかな?魔闘士ってなんぞ?)


「魔闘士って何でしょうね?拳ってことは、拳闘士みたいな感じでしょうか」


「うむ、某も初めて聞くな」


ソドンも知らないようだ。

疑問に思うが、32人もいるので、どんどん紹介してくる。

開会式から1時間後は抽選会なのだ。

『聖教国よりやってきた闘槍ルグル!神の祝福はもたらされるのか!?』


(こっちはなんか、神官の法衣の上から鎧をきている感じかな。ハルバートを持ってパラディンって感じだな)


『ウガルダンジョンを攻略せし、仮面の拳闘士。その仮面の下に何を思うのか!?パメラ闘士!我々は本戦でパメラ闘士の本気を見ることができるのか!!』


パメラについても、しっかり紹介する。

パメラは反応せず棒立ちである。

エルザとパメラ以外は、紹介されたら観客席に手を挙げている。


『剣鬼と言われし、ダブルスターのルーカス!帝国の剣士ルーカスは本大会優勝候補の1人です!!』


(お?優勝候補だと?帝国のダブルスターか。フルプレートの両手剣か。ん?同じダブルスターの戦血のエルザは優勝候補ではないのかね?)


『帝国からの刺客ゼキ闘士!シングルスターが武術大会に挑戦しにきました!!』

『なんと今年は3名もの帝国からの刺客がきました!初出場ながら怒涛の勢いで本戦に上がってきましたビヒム闘士!!』


(3人もいるのね。帝国からどんどん参加が来るのね。帝国とは戦争状態だけど、その辺は関係ないのかね?)


『国を持たない旅人。獣王国は定住先になるのか!?果て無き旅人レイ!!』


「あれ?弓を持っていますね。弓使いも参加できたんですね」


「ほ、本当です」


おっさんの言葉にコルネが反応する。

短弓を肩に下げ、腰に短剣を装備している。


『過去最高の3度優勝をした獣王国最強の男ヴェルム!獣王親衛隊長が闘技台に戻ってきました!』


歓声が一気に大きくなる。

武術大会ファン達の英雄であるようだ。


「結婚式に来てくれた人ですね。獣王国最強だったんですね」


「うむ、今は親衛隊長をやっているが、たしか元冒険者であったな」


ソドンも知っている。


『過去2回の決勝まで進出した獣王国のシングルスター、剛腕ゲオルガ。今年こそ悲願の優勝は成るか!!』


(ふむ、どうやら他国の紹介は終わったな。ということは、ここからがずっと獣人か)


「獣王国はシングルスターからなんですね。ダブルスターはいなさそうですね」


「獣人はあまり他国で活躍しようと思わないからであるからな。ランクもどうでもいいと思う獣人も多いであるしな。大会に参加していて自然とランクが上がっていく感じである」


ソドンが、獣王国からの闘士の獣人にダブルスターがいない理由について教えてくれる。


『今年もお祭り男がやってきました。ガルガニ将軍です!去年念願の優勝を果たした将軍は今年も参加します!いつになったら現役を引退するのか!!今年も大会を盛り上げてくれるのは間違いなしです!!』


「将軍も参加するんですか?」


「うむ、まあ将軍になっても、参加するのはガルガニ将軍だけであるな」


歓声がとても大きい。

ガルガニ将軍の人気が伺える。

両手を挙げて、歓声に答えるガルガニ将軍である。



そこから、間をあける総司会ゴスティーニである。

どうやら、今までの参加者以上に誇張して紹介したい本戦出場者がいるようだ。


『今だに現役であったのか!?生きる伝説!拳聖カロンが50年ぶりに武術大会に帰ってきました!?50年前の優勝者は何を思い戻ってきたのか!?皆さん今年は運がいいです。獣王国の歴史に刻みし拳聖の試合を見ることができますよ!!』


(おじいちゃんがいる件について。遠くていくつか分からないけど、腰が完全に曲がっているな。ゆるい武胴衣を着たおじいちゃんか)


「拳聖カロンまで出場するであるか…」


ソドンも絶句している。

獣人ならだれでも知っているその名を聞いて騒然とする観客席である。


『疾風の銀牙ブレイン。今年も闘技台の上を駆け抜けます!!今年は優勝を目指すとのことです!!』


「お、ブレインも紹介ありましたね。どうやらブレインは速さがウリのようですね」


どんどん、獣人達の本戦出場者が紹介されていくのであった。

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