第04話 訓練②
おっさん以外は今日も近衛騎士の訓練に参加するとのことである。
おっさんも含めておっさんの仲間は自由人の無職ではないのだ。
貴族であり、騎士であるのである。
貴族の務め、騎士の務めがあるのだ。
王都に滞在している間なるべく訓練に参加させる予定であるのだ。
(まあ、これでパッシブスキルの力や素早さなどが上がればいいんだけどね。1週間やそこらでは厳しいか)
「では、午後からはしゃべる鎧さんのためにセリムの魔力を上げにきます」
『うむ、かたじけないでござる』
セリムの魔力だけでは1回しかしゃべる鎧を召喚できないため、仲間支援魔法で今日も魔力を上昇させるのである。
これで3回から4回召喚することができるのである。
近衛騎士にも話を聞いたところ、動きの助言もしてくれて見学だけでもためになるということでかなり好評であるとのことだ。
そして、王城に入るおっさん1人である。
受付の先で赤いローブを着た宮廷魔術師が迎えに来ているようだ。
「ヤマダ子爵様お迎えに上がりました。ご案内します」
仰々しく頭を下げられるおっさんである。
今日は宮廷魔術師の訓練に参加するのである。
不安を覚えるおっさんである。
王城の一角に設けられた広い訓練施設に案内される。
「「「本日はよろしくお願いします。ヤマダ子爵様」」」
「は、はい。こちらこそよろしくお願いします」
直立不動で一列に並び90度近く頭を下げられるおっさんである。
(え?こんな感じなの?話なんて聞いてやらないぞって感じではないの?思っていたのとは違うな)
おっさんは宮廷魔術師から強い反発を受けることを期待していたようだ。
異世界ものあるあるでは、魔力に秀でた主人公が宮廷魔術師との間での対立がよく描かれているからである。
しかし、これはオーガの大群を倒した後、すぐならそのような対立もあったからかもしれない。
しかし、おっさんは1年近くダンジョンに通い、前人未踏の成果を示してきたのである。
宮廷魔術師達にとって、いつ王命が下りおっさんが主席宮廷魔術師になるかもしれないと考えているのだ。
失礼な態度など、取れるはずもないのである。
【ブログネタメモ帳】
・宮廷魔術師との訓練 ~生まれぬ対立~
「ケイタ様お待ちしていましたわ」
宮廷魔術師の真っ赤なローブを着たシアンルティーヌ王女がおっさんに寄ってくる。
「これはシアンルティーヌ王女、わざわざお越しいただきありがとうございます」
「いやですわ、王女など。ぜひシアンとお呼びください。私もケイタと呼ばせていただきますわ」
「いえさすがにそれはできかねるといいますか」
(なんか、シアンルティーヌ王女びっくりするくらい距離が近いな。たまにいるよね、距離感がすごい近い人。どこの国だっけ?ヨーロッパでやたら距離感の近い国があったような)
おっさんは国王がシアンと呼んでいたため、シアン殿下だと思っていたが、イリーナからシアンルティーヌ王女であることを食事会から帰ってきた後教えてもらったのであった。
イリーナはおっさんが絶対名前間違えて覚えると思ってフォローしたのであった。
宮廷魔術師達はこの会話を聞いて驚愕するのである。
王女だけの判断でこのように親密になろうとする会話をするはずがないのだ。
王家であり国王が、全力でおっさんを取り込みにかかったと思われても仕方がない会話なのである。
王族のなかで、一番魔力に秀でたシアンルティーヌ王女をおっさんの相手に選んだのであろうと思うのであった。
今回のやり取りで主席宮廷魔術師ではなく、将来の王配になるかもしれぬのだ。
より緊張感を持って接しようと思うのであった。
「シアンルティーヌ王女、宮廷魔術師って全部でこれくらいでしょうか?50人くらいですかね」
「今回の訓練では50人ですが、宮廷魔術師は200人ほどですね」
「200人ほどですか。どうしたら宮廷魔術師になれるのですか?」
(ふむふむ、200人のうち50人が訓練ということは、4日のうち2日は護衛、1日は訓練、1日休みとかそういうサイクルかな)
「はい、宮廷魔術師になる方法は基本的に推薦です」
シアンルティーヌ王女の話では、各領で秀でた冒険者や魔術師の家庭教師をしているものを、各領を治める貴族が推薦し、宮廷魔術師にするとのことである。
自分の貴族の子供を推薦することもあるが、魔術師としての素質がないと判断すると家元に返されるとのことである。
(シアンルティーヌ王女が説明をしてくれるのね。恐縮しちゃうんだけど)
午前中の訓練は、座禅して瞑想するとのことである。
魔力の上昇につながるとのことであるので、皆長い時間をしっかりするのである。
(ほうほう、魔力のパッシブスキルは瞑想すれば上昇するのか。知力は何をすれば貰えるのかな)
宮廷魔術師も食堂で、皆で食事をするとのことである。
オーガやダンジョンの話を聞かれるのだが、魔術師としての戦い方についての質問が多く新鮮に感じるのであった。
午後からは魔法を使った訓練に入るとのことである。
その前にセリムに魔力支援魔法を懸けに行くのだ。
訓練場が併設されているので、歩いてほどなくして、騎士の訓練場につくのだ。
魔力を増やしたら、宮廷魔術師の訓練をするのだ。
高台に案内されるおっさんである。
(ここは昨日ロヒティンス近衛騎士団長が見学していたところだよね)
「今日はここで水魔法の訓練をしますわ」
高台の中央に深めの凹みがあり、そこから水がどこかに流れるようになっている。
「ここで作った水をどこかに逃がすのですか?」
「はい、畑の水になりますわ」
訓練を始める宮廷魔術師達である。
代わるがわる水魔法を凹みに作成する。
水魔法で作成した水は凹みから続く水路に流れていくのである。
詳しく話を聞くと、この水路は王城裏手に続いており、王都のすぐ近くにあるため池に繋がっているとのことである。
ため池の水は畑に使われるとのことである。
以前は見栄えの良い火魔法を多く訓練していたのである。
しかし、折角魔法の訓練をするなら、ためになる訓練をするようにという王命により、水魔法で訓練する場合は、ここで水を作成し、ため池の水として貯めるとのことであるのだ。
特に昨今日照りが続くこともあるので、少しでも畑の水やりの足しになるようにと、訓練による魔法は水魔法が一番多いとのことである。
「1日50人も宮廷魔術師が訓練するとなると、ため池が溢れないか心配ですね」
「それは大丈夫ですわ。ため池が溢れたら予備のため池に流れるようになっていますわ。それに1日の訓練で1つのため池の3分の1も貯まりませんわ」
宮廷魔術師達が30cmほどの水魔法の塊を生成しているようだ。
詠唱を行い、10数秒後に水の塊ができ、凹みから水路に流れていくのである。
「では、わたくしも」
シアンルティーヌ王女が詠唱を始める。
「「「おおお!!!」」」
見ていた宮廷魔術師から感嘆の声が上がる。
50cmほどの4つの水玉が発生するのだ。
(お、水魔法レベル3か。この訓練は魔法レベル上げるのに効果がありそうだな。レベル3に達している宮廷魔術師はほかに5人くらいいるな)
「すばらしい水魔法ですね」
「はぁはぁ、ありがとうございます。ケイタ様もぜひ、みなさんの見本を見せてください」
どうやらいい所見せたくて頑張ったようだ。
「では」
(みんなで囲って魔法使えるように結構広い溝だな。これなら魔力支援魔法でINT3000越えでもまあ、大丈夫だろ。まあ水なんで多少溢れてもいいしな)
仲間支援魔法で知力を上げるおっさんである。
手を水平より高めに掲げ魔法を唱える。
「ウォーターボール」
「「「………」」」
直径4m近い水の塊が発生する。
丸い溝に落ちた水は水路をたどってすごい勢いで流れていく。
多少溢れたが概ね水路に流れていったようだ。
息を飲む宮廷魔術師である。
現宮廷魔術師最強であるリンゼ主席宮廷魔術師の3倍以上の大きさだからである
「ふむ、やはり少し溢れてしまいましたね」
「だ、大丈夫ですわ」
動揺を抑えてシアンルティーヌ王女がフォローをしてくれる。
「この先のため池はいくつ繋がっているのですか?」
「えっと5つです」
「では、せっかくなので全て満タンにしましょうか」
「は、はい…」
その言葉、改めておっさんの魔力がすごいことを思い知らされるのだ。
宮廷魔術師が200人全員動員しても、1つ目を満たんにし、2つ目のため池を貯めている途中で魔力が全て尽きるのである。
その後、水魔法の訓練や、おっさんがどのようにイメージして魔法を使っているのかについて説明を受けながら訓練は続いたのである。
水の貯まり具合を確認するため、騎士が馬に乗ってため池の貯まり具合を確認するため、往復するのであった。
そして、訓練も終わり、国王との食事に誘われるおっさんである。
(食事に結構誘ってくれるのね)
騎士の訓練に参加したことも当然知っている国王であるが、宮廷魔術師の訓練は感想を聞きたいと思う国王である。
いつものように応接室で食事の案内を待っていると、イリーナたちもしっかり呼んでくれたのか、イリーナ、セリムが応接室の中に入ってくる。
そして、
「ちょ!!ロ、ロキ…ロキだよね?」
(こんなになるまで、無茶しやがって!)
そんなどこかで見た場面が頭をよぎるおっさんである。
「す、すいません。私はやはり食事を辞退したほうが…」
ボロボロになって足がおぼつかないロキが遅れてやってくる。
どうやら、今日もしゃべる鎧にしっかり揉まれたらしい。
「いま、回復魔法をかけますね」
『ぬ、回復魔法は不要である。このまま、自然に回復させた方が訓練の効果はあるでござるよ』
おっさんの回復魔法はしゃべる鎧に止められるようだ。
(ふむ、やはり訓練中の回復魔法は、あまりよくないか。この辺も定期的に戦闘中に回復魔法をかけていたダンジョンの中で、力や素早さのパッシブスキルが生えなかった理由だったかもしれないな。それにしても2日連続過酷な訓練か、あまり長くするとかえって体に悪いかもな。明日は休ませるかな)
ボロボロになったロキを見て考察するおっさんである。
「では回復魔法はやめておきますね。まあ一言伝えておきますので、気にせず食事にお呼ばれしましょう」
「す、すいません」
食事前に湯浴みで綺麗にしてくれるようだ。
侍女に連れていかれるロキであった。
おっさんらが前回と同じ食事をする部屋で待っていると国王がやってくる。
新年の準備でまだ忙しいとのことである。
今回はロヒティンス近衛騎士団長、リンゼ主席宮廷魔術師、マデロス宰相も食事に参加するようだ。
シアンルティーヌ王女が前回同様、おっさんの前に座るのだ。
「どうであったか?宮廷魔術師の訓練は?」
「素晴らしい訓練でした。さすが王国を守る宮廷魔術師です。そして、訓練をしながら民草のために水をため池に貯めるなど、やさしさに溢れ、理にも適っていて素晴らしいと存じます」
「ふむ、世辞もありがたいのだが、きたんのない意見が聞きたい。たった1日でため池の水を全て貯めた魔導士の意見を聞きたいのだ」
「では2つの意見を」
「うむ」
皆おっさんの話に注目する。
料理は運ばれてくるようだ。
「1つ目は、訓練で聞いたのですが、モンスターを狩ることもお勧めします。王城の中での訓練だけでは魔力の上昇に限界があります。近くの森にいくとか、ダンジョンに入るとか安全に配慮しつつ、戦闘訓練にもなりますので是非ご検討を」
「ふむ」
国王も皆も黙って最後まで聞くようだ。
「2つ目は、門戸が狭いです」
「門戸?」
「はい、宮廷魔術師になるのに厳選させているのは分りますが、もう少し広く募集したほうがいいでしょう。ある程度の才能のある魔法使いを育成すれば、なおいいですね」
「ふむ」
「ああ、魔導院か」
セリムが以前、おっさんが魔導士の学校を作る話をしていたことを思い出したようだ。
「魔導院?魔導院とは何だ?」
「へ?えっと」
国王が魔導院に反応する。
皆の視線がセリムに集中するのだ。
王国のお歴々の視線が集まり、固まるセリムである。
「魔導院というのは、私たちの中で以前そういう話をしていたのです。騎士の育成機関である騎士院はあるのに、魔法使いの育成機関にあたる魔法院がないと。ないなら作ればいい。私が作るなら魔導院ですねって話になったのです」
おっさんが固まったセリムに代わってフォローをするようだ。
「な!?ケイタ子爵がこれからの魔法使いを指導するということですか!こ、これは、国王陛下、王国の形すら変わる形ですぞ」
マデロス宰相が、おっさんが作る魔導院について想像する。
「その話もう少し詳しく聞かせてくれぬか」
「では」
設立に必要な費用を負担してもよいこと。
騎士院と併設し、最初に1年のころは、共通の学習をし、2年目以降それぞれの専門を学ぶこと。
宮廷魔術師の訓練も一部取り入れる。
レベルアップと戦闘訓練のためにダンジョンや近くの森への課外授業もする。
その際、騎士院の院生も同行し、連携した戦闘方法も教える。
平民の成績上位10名は授業料を無料にする。
召喚士の部門も魔導院内に作る。
「素晴らしいな、ほとんど案が固まっているのではないか。皆あとで書面にして余に持ってまいれよ。騎士院の院長や文化大臣も交えて議論がしたい」
しっかり覚えておくように言う国王である。
羊皮紙のメモ紙をここに持ってくればよかったと思うマデロス宰相達である。
「は、はい。学費を無料にするという発想もありませんでした。ちなみに平民である理由は?」
詳しく理由を聞くマデロス宰相である。
「理由としては、お金はないが才能のある平民を募り、機会を与えるためです。それと平民の方が上位にいかれて、貴族から無用な反感を持たせないためですね」
貴族も含めた順位にすると平民が1位を取って、無用な軋轢が学院内に発生すると思った異世界ものに詳しいおっさんである。
魔導院の話は進みだしたのである。
おってもう一度詳細を詰めるという話でこの場は終わったのだ。
そして、メインディッシュが終わり、デザートを食べているとき国王に言われるのだ。
「冒険者ギルドから連絡が来てな、一度今回のダンジョン攻略の件で冒険者ギルドにいってほしいのだ。ランクの精査が終わったという話だ」
「はい、わかりました」
明日は冒険者ギルドに皆で行くことになったのである。
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