四十三冊目
僕と沙耶がバイトになった結果の、バイトさんが二人も増えたね祭りなのだからと、沙耶を地下に連れてきて、肉を焼く。
最初は良かったが後半にゆくに連れ、油で胃が辛くなってゆく。
しかし、そこは古本屋最大戦力の九尾苑さんが大活躍した。
沙耶も負けじと食べていたが、油による胃の破壊よりも、満腹度の方が強敵だったようだ。
食事とその片付けを終え、部屋に戻る。
当然歯も磨いて風呂に入ってからだ。
部屋に戻ると、沙耶が僕と入れ替わるように風呂に入る。
お湯は、人と同じ湯に入って気持ち良いわけが無い、という九尾苑さんの謎の拘りによって、全員一番風呂のようなものだ。
部屋に新しく引かれたもう一セットの布団を横目に流し、僕は自分の布団に潜る。
暫くすると、部屋の扉が開く音がする。
沙耶だろう。
沙耶は僕が寝ているものだと思ったのか、全く気にしていないのか、服を着替え始めた。
服を脱ぐ際の布切れ音一つが部屋に響き渡る。
寝巻きに着替え終えたのか、沙耶も僕と同じように自分の布団に潜り込む。
沙耶は直ぐに眠り、部屋の中に響く音は布切れ音から寝息へと切り替わる。
小さな寝息が、時計の秒針のように一定のリズムで鳴り続ける。
人と同室というのは初めての経験で緊張したが、早く眠り明日に備えねばと思いながら息を吐き、布団を被り直す。
その後、僕が眠れたのは十一時頃だった。
夜を抱くように眠り込んだ僕が目を覚ましたのはそれから五時間後だった。
この日から、毎日のように一日中訓練をする日々が続いた。
僕は妖力の操作速度の上昇と、火吹きの左腕を使いこなす訓練。
荒木寺さんはその僕の訓練に付き合ってくれており、沙耶はひたすら猫宮さんと手合わせしている。
九尾苑さんは自室に篭もる時間が多くなり、何をしているのかよく分からない状態だ。
「おい、気が抜けてるぞ坊主」
「すいません!」
今は妖力の制御の訓練中だ。
火吹きの左腕を発動した状態で荒木寺さんとの手合わせをして、少しでも集中が途切れれば火吹きの左腕は消えてしまい、そちらに集中し過ぎれば荒木寺さんの攻撃は避けられない。
現在は火吹きの左腕を使いこなすための訓練なため羽団扇は使えないが、覚えた技や技術が完全に使えないわけじゃない。
「火走り五連!」
そう言って、火吹きの左腕を纏って腕の全ての指で床を引っ掻くようにして触れる。
すると、指で引っ掻いた箇所から炎の線が五本伸びる。
そう、これは猫宮さんとの手合わせで初披露した技の火吹きの左腕版だ。
今回の訓練期間中に、羽団扇で使う技が幾つかこちらでも使えると判明したのだ。
荒木寺さんに炎の線が近づき足元まで伸び切った瞬間、全ての線が爆発した。
しかし、荒木寺さんは体制を崩すどころか、先程から一歩も歩いていない。
「タイミングは良い、今回悪いのは相性だ。
「今程度の爆発なら、俺は自分の爆発で相殺できる。
「相手の持ち技と自分の相性を常に考えながら戦え」
「はい!」
短く一つ返事をして、一度距離を取る。
助走をつけ、再度突撃。
「三の指、獄壁」
言って、中指を勢いよく横に一閃する。
指が通った位置からは燃え盛る炎の壁が発生、荒木寺さんの視界を制限し、自らの身を隠す。
以前やったように壁を貫通して殴ろうものならば、即座にその腕は炎に包まれ、数秒後にはその炎が全身を包むだろう。
壁の向こう側では幾つか爆発音がする。
壁の強度を確かめているのだろう。
僕は壁に向かい、親指を振るう。
そして自分にだけ聞こえるような小さな声で言うのだ。
「一の指、火遊び」
瞬間、親指で線を引いた位置から炎の玉が飛び出し、獄壁の炎を吸収し、荒木寺さんに向かう。
炎の玉で獄壁を吸収した影響で視界は僕と荒木寺さん、双方とも良好となる。
荒木寺さんはこちらに掌を向け、爆発で炎の玉を掻き消すつまりだろう。
しかし、この術の真骨頂はここからだ。
親指を縦に振るうと、炎の玉こ進行方向はそれぞれ曲がり、次の瞬間に起きた爆発を回避する。
そう、この術の真骨頂とは、数でも威力でもない、操作性の高さなのだ。
炎の玉、全弾命中だ。
しかし、荒木寺さんに傷はついていない。
「本当なんですね、あの妖具の効果」
そう、最近訓練に実装された新しい妖具。
その効果のおかげで、いくら攻撃をしようと、互いに傷を負わないらしい。
名は乖離玉と言うらしく、傷を負わない原理としては、一定の範囲にいる者の体をこの世界から切り離し干渉を途絶えさせるらしい。
しかし、壁は通り抜けられないし、命中時爆発する攻撃なんかは触れた瞬間きちんと爆発する。
未だ謎の多い妖具らしいが、一応危険性はないらしい。
そんなことを考えていると、荒木寺さんから声がかかる。
「続きだ、始めるぞ」
「はい!」
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