四十冊目

 地上に戻り、猫宮さんを部屋に運ぶ。

 部屋の場所は知っていたが、入ったことはないので少し緊張した。


 僕は地上に着いたらあとは猫宮さんが自分で部屋に行くだろうと思っていたが、歩いてもらおうとした際、猫宮さん御本人からの連れてってとの御言葉を頂いた。


 扉を開けると、酷かった。

 散らかっている。

 とても散らかっている。


 少なくとも、足の踏み場などと言う概念はなかった。


 散らかる荷物を避けながら、一箇所部屋で荷物の置いてない場所に猫宮さんを寝かせる。


 恐らく毛布もあるしここがベッドなのだろう。


 部屋に入る前の緊張は消し飛んだが、代わりに別の感情が発生した。


 心配だ。


 あの積み重なった荷物が寝ている猫宮さんを飲み込んでしまわないか心配なのだ。


 しかし他人に部屋を勝手に片されては猫宮さんも良い気はしなかろう。


 僕は心配を胸に残しながら部屋から出る。


 その頃には九尾苑さんは目覚めており、いつもの食卓で茶を啜りながら何かを書いていた。


「おはようございます、朝からお仕事ですか?」


 聞いてみると、九尾苑さんは指の骨を鳴らしながら答える。


「ああ、昨日宗介に渡したようなお札を作ってるんだ。

「そんなことより、猫宮と荒木寺帰ってきたんだね」


「ええ、四時前には帰ってきてましたよ。

「あと、そのお札って一枚一枚手書きだったんですね」


 そんなことを言いながら僕は鍋に水を注ぐ。


 今朝の朝食当番は僕なのだ。


 何気ない雑談を九尾苑さんとしながら朝食を作っていると、荒木寺さんが起きてくる。


「あ、荒木寺だ。

「久しぶりじゃないか」


 九尾苑さんが言うと、荒木寺さんは大きな欠伸をしながら一度頷く。


 その後、猫宮さんは起きなかったので三人で朝食を食べ、片付けを終えると業務を開始する。


 本棚の掃除をしながら、いつも通り客が滅多に来ない店内で過ごす。


 昼食を終え、沙耶も来た頃に猫宮さんが目を覚ます。


 すると、九尾苑さんが大切な話があるから集まるようにと、前にも一度入った本棚の隠し扉から入る地下室に皆が集められた。


「明日からしばらくね、古本屋としての業務を停止しようと思うんだ」


 唐突な話だが、荒木寺さんや猫宮さんは、やっとかと言いたそうな顔をしていた。


「理由はまあ、御察しの通りだよ。

「最近は異常事態が多すぎる。

「新種の妖の登場、端蔵が動き出し、全国で端蔵の仲間の妖力が確認されている。

「こんな異常事態に店をやっている方がどうかしているってもんだよ。

「業務停止中は、妖退治の依頼をこなしたり、各自戦力の向上。

「味方勢力を増やすなんてのが、主に僕がやってほしいことだ。

「あとは、安全のために店にいる時間を増やして欲しい。

「宗介は住み込みだし鏡を探さなきゃだから別として、沙耶ちゃんはバイトだからもし無理そうなら平気だからね。

「樋口家の警備ならば流石の端蔵も手を出しにくいだろうしね」


 九尾苑さんが言い終えると、沙耶が首を横に振ってから言う。


「いやよ、一ノ瀬が戦うのにまた私だけ置いてけぼりだなんて。

「今度こそ私も戦う、そう決めたの。

「もし貴方がいいなら住み込みでも平気なつもりよ」


 沙耶が言うと、九尾苑さんは再び唐突な事を言い始める。


「じゃあ住み込むか。

「部屋は今空き部屋がないから、まあ宗介くんと相部屋でいいだろうし」


「え?」


「了解したわ。

「明日までに最低限の荷物は持ってくるわね」


 僕の意見などまるで聞く様子もなく、話が進む。


 荒木寺さんに哀れみの目を向けられながらも沙耶に質問をする。


「ほら、急に住み込みだなんて親御さんが心配しない?」


「平気よ、私強いし」


「あ、はい」


 これ以上の口出しは控えて、完全に諦めようと思う僕だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る