二十七冊目

「宗介くんが動かしてた暖かく感じる物、あれはね、妖力って言うの」


 猫宮さんが僕に投げた石を拾いながら言う。


「妖力なら聞いた事がありますよ。

「この地下の時間か歪んでるのは、妖力が大量に存在してるからで、此処に初めて来た時に僕の身体能力が劇的に上がったのもその妖力が原因だとか」


 僕も石を拾いながら応えると、猫宮さんは少し以外そうな表情を浮かべる。


「おお、知ってた。

「それじゃあ話を進めるけど、この地下に満ちてる妖力は自然の妖力、体外の妖力なの。

「君が動かした暖かい物は、体内の妖力、自分の体内で生成され、体外の妖力よりは圧倒的に量が少ないけど、圧倒的に使いやすさが違うの。

「弾数が少ないけど威力の強いロケットランチャーと威力は劣るけど手数の多いライフルみたいな物だと思ってね」


 質か量かという事か。

 そんな事を考えていると、猫宮さんは拾った石を僕に一つ投げる。


「ありゃ、早速見もせずに弾くとは生意気になったもんじゃよ」


 口調が可笑しいが、声が若々し過ぎるせいで全く老人の様に聞こえない。


「そんな難しい顔して考え事ばっかりしてると、その歳で皺が増えるよ」


 猫宮さんは軽い様子で言い捨てて、一人で地下から帰って行った。


 僕も慌てて追いかける。


 最初は三時間も歩いた階段だが、今は十分と少しで行き来出来る様になった。

 階段に十分は普通に考えれば長いのだろうが、何せ元が三時間だったので成長だ。

 途中、息が続かなくなる事も無くなった。


 先に地上に戻った猫宮さんが見えない距離から石を投げるが、全て避ける。


 地上に戻ると、夕飯の準備を終えた九尾苑さんと、次の石を投げようと、野茂英雄を連想するような投球フォームの猫宮さんが待っていた。


 夕飯の匂いに反応する様に、腹の音がくぅ、と鳴る。

 思い返してみれば、地下に二日も飲まず食わずでいた所為で空腹だったのだ。


 最初こそ、一度食事に戻ろうと訴えたが、妖力で強化された体ならば一週間は飲まず食わずでも死なないと、過去の実体験と友に語られた為断念を余儀なくされた。


「お帰り、こっちで四時間だから、地下では二日程度かな。

「お腹すいたでしょ、座ってていいよ」


 心なしかいつもより表情が暗い。

 僕は地下の引き伸ばされた時間で、十分に無貌木さんの死に対して心の整理をつける時間があったが、地上では未だ四時間、それに猫宮さんから聞いた話だと、九尾苑さんは無貌木さんが幼い頃からの中らしい。


 それを、ほんの数時間で心を入れ替えろと言う方が酷だろう。


 夕飯は静かな物だった。

 いつもの様に、九尾苑さんが冗談を言う事は無く、それに対して無貌木さんが呆れるなんて事も無い。


 心の整理は終えた筈だが、僕は涙を堪えながら食事を口に運んだ。

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