二十四冊目
「荒木時、端蔵の新しい技は何かあったかい」
「俺は遅かったから分からねえよ、知ってるとしたらお前だ、坊主」
帰って来て直ぐ、九尾苑さんは店の端にある本棚を壁に押し込み、いつもの訓練用に使っている地下とはまた違う部屋に連れて行かれた。
「新しい技も何も、あの端蔵晴海って男は一体何なんですか、何で今まであんな奴が居るって教えてくれなかったんですか、なんで荒木時さん達二人に任せて九尾苑さんは来てくれなかったんですか」
考えが纏まらない、頭に浮かんだ事が全て口から絶叫の様に流れ出す。
「五月蝿えぞ坊主、お前は大人しく質問に答えろ、端蔵の野郎はどんな技を使った。
「言わねえ様なら潰すぞ」
「荒木時、イラつくのは分かるけど宗介くんは八つ当たり人形じゃ無いの、謝りなさい」
「ああ、悪いな猫宮。
「坊主も、悪かった、少し冷静じゃなかった」
みんなが苛立ってる。
いつも飄々としてい九尾苑さんですら苛立ちが表情に表れている。
恐らく、今僕たちの中で一番冷静な判断を出来るのは荒木時さんを諌めた猫宮さんだろう。
「あのね宗介くん、あの男の名前は端蔵晴海、数年前にこの店で働いていた男であり、九尾苑さんの元弟子、そして、この店勇逸の裏切り者」
それならば、あの強さも理解できる。
この店の人達を知っていた理由もだ。
「九尾苑さんが来れなかった理由は簡単で、端蔵と九尾苑さんが一度戦い始めたら、この辺りは更地になる程度じゃ済まないから、もし戦うなら万全の準備をしないといけない。
今回は端蔵が出てくるのが突然だったから、九尾苑さんが出た場合、全力が出せなくて最悪、私達は最高戦力の九尾苑さんを失う所だったの」
猫宮さんが説明を終えると、その流れで九尾苑さんが言う。
「端蔵は言葉を使って術を使う。
「宗介、何か端蔵が言ってたのを聞いてないかい」
「確か、四字熟語をよく使っていた気がします。
「自分が聞こえた限りだと、心平気和一つでした」
「記録にないね、宗介、あいつがその、心平気和とやらを言った後、変わった事は無かったかい」
九尾苑さんに言われ、記憶を探る。
「そう言えば、急に心が落ち着いて戦意が削がれたって言うか消え失せたと言うか」
「なるほど、大体分かった。
「また厄介な能力を」
九尾苑さんが眉の間に皺を寄せて言う。
「そう言えば、端蔵が僕に自分は僕達の敵だと言った瞬間戦意が再び湧きました」
ふと思い出した情報を口にすると九尾苑さんの眉の間の皺が伸びて少し表情が明るくなる。
「そうか、失った物は大きいが少しでも情報があってよかった。
「術の解除方法は、状況の再認識と言った所か」
言うと、九尾苑さんは懐からメモを取り出して情報を書き込む。
「ありがとう宗介、これでまた一歩、あいつを殺すのに近づいた」
瞬間、部屋の温度が一気に氷点下まで下がった様に感じる程の、九尾苑さんの殺気が部屋中に満ち溢れる。
背筋は凍りつき、視点は会わなず、酷い吐き気もする、正直、今直ぐ倒れ込んでしまいたい程だ。
「こら、気持ちは分かるけど、感謝を伝えた矢先、宗介くんが死ぬよ」
猫宮さんが言った瞬間、九尾苑さんの溢れ出す殺気が止まる。
「ああ、荒木時に続き僕まで済まないね、みっともない所を見せた」
猫宮さんが居なかったら、この店崩壊するんじゃないだろうか。
「無貌木、すまないが君を弔うのは少し遅くなりそうだ」
そう言う九尾苑さんの表情はどこか儚げで、確かな覚悟を感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます