Advancer~新年祭セファイア~

有原ハリアー

Mission01: 雪降る空

 異世界アルス・フィアに存在する国家の一つ、サロメルデ王国。

 空気が冷え込み雪も降り出した空を悠々と飛行する、巨大な艦があった。


「もうすぐ、一年が終わる」


 CIC――艦の指揮を執る部屋――で、初老の男が呟く。


「そうですわね、M。来年に希望を抱きたいですわ」

「その通りです、アドレーネ様。ゲルゼリア王国の再興に向けて、進みましょう」

「ええ、ゼルゲイド様」


 それに賛同するのはアドレーネと呼ばれた美少女と、ゼルゲイドと呼ばれた浅黒い肌の青年である。

 こよみの上では、この日は年内最後の一日なのだ。

 と、Mと呼ばれた初老の男が切り出す。


「ゼルゲイド様、アドレーネ様。今日くらいは、羽根を伸ばしてみるのはどうでしょうか」

「おっ?」

「あら」


 ゼルゲイドとアドレーネからしてみれば、意外な申し出だ。待機状態も含め、“常在戦場”という言葉がほぼそのまま当てはまるゲルゼリア――乗っている艦の名前――において、休息というのは貴重なものである。一応はシフトなどを組んでいるものの、肉体的な疲労と精神的な疲労は別物であった。


 ゼルゲイドとアドレーネをはじめ、CIC内に喜びの気配が満ちだす。

 Mはその雰囲気を感じ取りつつ、話を続けた。


「もちろん、我々だけではありません。安全な場所……メイディアに寄港しつつ、全員で休息を取ります」

「確かに……メイディアでしたら、整備も安全度も担保されていますわね」


 メイディアとは、サロメルデ王国の首都である。王国のやや東寄りに位置した内陸部であり、王城があるのも相まって、戦時中である今でも活気は高いものだ。

 年を越す場所としては、なお良いものである。


 Mはダメを押すように、さらに続ける。


「それに年末でしたら、セファイア……新年を歓迎する祭りの準備もあって、にぎわいつつあるでしょう。羽根を伸ばすのに、これ以上うってつけの環境があるのでしょうか?」

「無いな。セファイアか……懐かしい」


 呟いたのはゼルゲイドだ。今でこそゲルゼリアに乗艦しているが、元々サロメルデ王国のたみであった彼は、ある程度サロメルデ王国の文化を理解している。


「もちろん、全員で楽しみましょう。戦いに戻るのは、それからでもよいはずです」

「ああ」


 Mもまた、セファイアを楽しむという提案に賛同した。

 かくしてゲルゼリア乗組員の全員がメイディアで休息を取るという方針が決まり、艦内放送で周知される。


 そうして明るい雰囲気のまま、針路をメイディアへ向けようとしたそのとき――


『こちら輸送艦ポートダック! 誰か助けてくれ、現在我が艦はベルゼード帝国軍から攻撃を受けている! 繰り返す、こちら輸送艦ポートダック! 現在我が艦はベルゼード帝国からの攻撃を……』


 その言葉を聞いたゼルゲイドは、一目散に駆け出した。


「ゼルゲイド様、お待ちくださいませ! 私も参りますわ!」


 アドレーネもあた、ゼルゲイドの後に続く。

 MはMで、CICの艦長席に座ると、艦内放送用のマイクを再びひっ掴んだ。




緊急出撃命令スクランブル! 繰り返す、緊急出撃命令スクランブル! エクスカリバー並びにプロメテウス隊は、直ちに自身のAdvancerアドヴァンサーに搭乗せよ!」

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