変質

 キース・本道は、昔から大体の事なら自分の思うようにこなせた。親譲りの端整な容姿とコミュニケーション能力で子供の頃からクラスの中心的存在に居座り、どんな事でも笑いにして、都合の悪い事は誰かに押し付け、運動神経も良い方で勉強の成績も努力すればそれなりに上達して気分が良かった。要領のいい自分は、大きな挫折のない順調な人生を歩んでいくのだと思っていた。

 それなのに。小鳩黒猫という女に会ってから、彼女に関しての事だけは今までのようにいかなくなった。キースの頭の中で、彼女だけが思うように動かない。面白いと思い、時には腹が立って憎らしいと思う事もあった。見返してやりたいと思った。だけどいつの間にかできなくなった。嫌だ面倒だと思ったところも、可愛いと思うようになった。苛立ちさえなかなか現れなくなった。

 その代わり、彼女に自分の事を認めさせたいと思うようになった。彼女の周りをうろつく雑魚どもに嫉妬した。一等のお気に入りでいさせてくれたらいいのに。自分しか興味がなくなってほしい。

 そう思って、それをそのまま求めた。転じた恋心は執着となって、キースに馴染んでいった。ゆっくりじんわりと、季節が流転するよりも緩やかに、草の根が大地に伸びるよりも深く深く。

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小鳩家の事情(1/17更新) 狂言巡 @k-meguri

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