第16話 キルナ 〈むかつく〉



えっ? 仲間にならないかと誘われた?


昼飯を終え、ギルドにやってきたら、ちょうど次の依頼を物色しているティラを見つけ、声をかけたのだ。

そして、昼飯を食べていたら、ゴーラドという男に勧誘されたという話を聞かされた。


この私をさしおいて……

そのゴーラドという野郎、あの世に送ってやろうか。


「ゴーラドさんAランクなんですって。だから、危険は回避してやれるぞって。頼もしいですよね」


「あ、ああ、そうだな」


面白くない!

私はSSランクだぞ。そいつより遥かに格上だからな。と言ってやりたいのをぐっと堪える。

ランクが上だのと口にするのは、恥ずかしい行いだ。


しかし、ムカムカする。まさかティラは、そいつと組むつもりなのか?

せっかく見つけた退屈を紛らわせてくれる存在だというのに……


くそお、何がAランクだ。そんな奴にむざむざティラを渡してなるものか。絶対に邪魔してやる。


「それで、次はどんな依頼を受けるんだ?」


「キルナさんは、どの依頼を受けるんですか?」


「私か?」


「でっかい魔獣退治とかですか? いいですよねぇ、キルナさんは、どんな依頼でも受けられるんでしょう?」


「まあな……私はその……」


そこでひとつコホンと咳をする。


「S……」


「おっ、ティラちゃんよ、依頼……あっ、どうも。キルナさんも一緒でしたか」


「ゴーラドさん」


ティラがそいつに呼びかけながら、親しげな顔を向けるのを見て、イラっとする。


そうか、こいつだったのか。

キルナは我知らず、目を細めてゴーラドを見つめてしまう。

むかつくことに、それなりに見た目がいい。


だが、こう言ってはなんだが、身に着けている防具はぼろいし、武器の槍も手入れが行き届いているとは言えない。本当にAランクなのか怪しいものだ。


Sランクは言うに及ばずだが、Aランクもかなり数が少ない。つまり、稼ぎはそれなりに多く、装備や武器に金をかけられる。


Aランクが嘘でないなら、賭博中毒か、酒や女に入れ込んでいるか……


どんな理由であれ、冒険者として何より大事な武器防具ををおろそかにするような奴は、天誅を下してくれようぞ。


「え、えーっと……なんか、俺、お邪魔だったかな?」


ああ、お邪魔だとも。どこぞへでも行ってしまうがいいわ。私の怒りの天誅を受けないうちにな。


「お邪魔なんてことないですよぉ。ゴーラドさんはもう依頼受けたんですか?」


「うん、まあ。試しに、ティラちゃんも一緒に行くかなと思って声かけたんだが……」


ちらちらとキルナを気にしつつ、ゴーラドは言う。こいつ、もうティラを自分の仲間にしたつもりか?


「ほお、どんな依頼だ?」


キルナはゴーラドの手にしている紙を奪い、確認してみる。

Bランクの依頼だ。同行できるパーティーメンバーは、Fランク+5以上となっている。つまり、ティラもメンバーに加われる。そこもしっかり確認済みってわけか……

で、どんな依頼だ?


「トードルの卵?」


「あ、ああ。トードルの巣があるのを以前確認してたもんで、ちょっくらそこに行ってみるかと思って。まあ、卵があるかはわからないんだが」


トードルか。かなりの巨鳥だが、問題ないだろう。


「いいですねぇ。トードルの卵、めっちゃ美味しいですよね」


またでた。ティラの美味しい発言。魔鼠の次は、トードルの卵か。


「は? ティラちゃん、トードルの卵を食べたことあるってのか?」


「はい。あれっ、ゴーラドさんないんですか?」


「当たり前だろ。すっげえ高値で売れるんだ。自分で食べるなんてことはしないぞ」


「ああ、冒険者ですもんね。食べてたら依頼達成にならないですもんね」


ティラは顔を赤らめて照れ臭そうに笑う。


まったく、ティラときたら、どんなに食い意地が張っていようが、可愛いじゃないかっ!


「ティラちゃん、可愛いなぁ」


キルナは目を剥いた。

なんとゴーラドの野郎、ティラの頭を撫でているのだ。


こいつ、切る!



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