こぼれる涙

NOTTI

第1話:私は夢を見ているの?

美菜子は社会人になり、大学入学以来5年ぶりに地元に帰省した。駅に着いた瞬間、どこか懐かしい匂いがして上京する前の思い出がよみがえってきた。そして、駅の改札を出ると実家に先に帰省していた俊輝が駅まで迎えに来てくれた。兄弟が会うのは3年ぶりだが、どこか久しぶりに会ったような感じがした。実家までの道中、俊輝は姉が帰る日が明日になると美菜子に伝えた。理由は2日前に子供が風邪を引いて熱を出したため、子供を連れて実家に帰るにはちょっと不安だと伝えていた。そして、実家を5年ぶりに見ると少し違和感があるように思えた。彼女は最初見たときに信じられなかった。そこで父親に聞いたところ「2年前に家の壁をリフォームしたからそれで建て替えたのかと思ったのだろう」ということだった。確かに、家の姿形は変わっていなかった。


 少しして、実家の仏壇と親戚の家に行って久しぶりに全員集合したのだ。親戚の家にも仏壇はあるので、仏壇に手を合わせて甥っ子・姪っ子と遊び、友達と一緒にある場所に向かった。そこは家から40分かかる高校の同級生の家だった。彼女の家に着いた時にはすでに辺りが薄暗くなってきた頃だったが、家のチャイムを鳴らすと彼女の両親が出てきた。最初は疑心暗鬼になっていたが、声を聞いて「あれ?ミナちゃんじゃない?」と気付いてくれた。そして、家の中に入るとリビングに友莉がいた。実は彼女と会うのは高校2年生の時に学校で会ってから一度も会っていなかったため、もう約7年が経とうとしていた。彼女は高校2年生の冬に部活が終わって、美菜子と数人の友人と一緒に帰宅していたときに突然意識不明になり、病院に救急搬送されて入院した。しかしながら、彼女の意識は一向に戻ることはなく、高校の卒業を迎えてしまった。その後、美菜子は東京の大学に進学するために上京することになり、彼女とは離ればなれになってしまった。


 彼女が回復していることは高校の同級生を通じて聞いていたが、まさか彼女と会えるとは思っていなかった。


 そして、彼女たちが着いて10分程経った時にちょうど地元に帰省していた舞子が子供を連れて家に来た。なんと子供は3歳と1歳になったばかりの女の子だった。翌日には優希と会い、今度結婚することも報告してくれた。その後、友人たちの彼氏も同席して食事会をする事になった。


 私たちの学年は高校時代を思い返すと問題が山積だった。例えば、わたしたちの高校は異性交際禁止だったが、付き合っていた人は多かった。もちろん、そのような行為は隠し通すことは難しく、先生に見つかって退学になった人もいたが、私たちの同級生は今、小学生の息子と娘の親になっており、この子の息子は高校在学中に身ごもった子供だった。退学処分になった子の名前は聖奈だ。この子は高校入学当時から頭が良く、先生からも一目置かれる存在だった。しかし、高校2年生になるときに両親からのプレッシャーから勉強をすることを諦めてしまい、当時内緒で付き合っていた賢史と駆け落ち同然の恋を選ぶことが増えていた。ある日の朝、彼女は通学途中で倒れてしまう。その時、彼女はまさかと思った。なぜなら、彼女はここ最近夜更かしをすることが増えていき、両親とぶつかることが増えていた。そんなときに彼女は彼と子供を作って家を出て行くことが親から逃げられる手段だと思っていた。数日後、彼との子供を身ごもったが、学校にばれてしまったら元も子もないと思い、無理をしてでも学校に行こうとしていた。その結果、途中で低血圧のような状態になり、学校まであと700メートルのところにある急な上り坂で目の前が真っ暗になってしまった。そして、学校に向かっていた下級生が倒れている聖奈を見つけて、救急車を呼んでくれた。そして、聖奈が救急車に乗り、病院に向かった後に学校の先生に報告して母親に連絡が入った。


 しかし、ある話をするとみんなで下を向いてしまった。それは、苑香というすごく背が高く、モデルのような体型をしていた学年でマドンナ的存在だった女子だった。彼女は高校卒業後、美菜子と同じように東京の名門大学に進学したが、周囲とのレベルの違いに苦しみ、何度も未遂を繰り返していた。もちろん、彼女も頑張って冷静を保とうとしていたが、心が限界を迎えてしまい、精神的にも肉体的にも情緒不安定な状態になってしまった。その結果、モデルのような体型が別人のように痩せてしまい、昨年2年ぶりに彼女に会ったが、少し心配な状態になっていた。そして、彼女は東京の家で大学とバイト先の往復だけで他には何もすることはなかった。彼女は付き合っている彼氏と今は半同棲しており、結婚は秒読みだと思われていた。しかし、彼女は大学2年生の時に生死をさまよう病気を患った。そして、入院期間の長期化によりなかなか大学に行くことが出来なかった。そして、仲の良かった同級生は彼女が一緒に卒業できなくなるのではないかと心配になり、大学の教授に掛け合って彼女が課題をやって提出をもって出席という特例措置を適用してもらえるように懇願した。ただ、彼女は体調が良い日と悪い日があるため、友人達に渡せない時は看護師さんが橋渡しをすることでなんとか課題をこなしていた。


 入院してから3ヶ月ほどで容態が安定し、外出許可をもらい、大学に行ってみることにした。しかし、彼女は外出から帰ると再び体調が上昇と下降を繰り返すようになり、再び病室から出られない日々が続いた。そして、彼女は闘病しながらなんとか病状も快方に向かい、苦しいリハビリを乗り越えて退院まで1週間に迫ったときだった。退院までの治療計画を聞くために主治医との診察で思いもよらぬ言葉を聞いてしまった。それは“この病気を完全に治すことは難しい。今後急変することも覚悟してほしい”と言われたのだ。もちろん、彼女は一生かかっても病気と付き合っていくと決めていたが、生存率80%以上の病気なのになぜ、急変するのだろう?という疑問が胸を渦巻いていた。実は彼女はまだ知らなかったが、持病のぜんそくと今回の病気により気道が狭くなっていて、呼吸器系の病気を併発している事が分かった。万が一、その病気が発病した際には一時的に意識不明になる可能性が高くなるということなのだ。彼女は仮に併発した場合に備えて同級生や仲間達に手紙を書いていた。もちろん、手紙の最後には“私は生きて帰ってきます。なので、心配しないでね”という言葉を付けて。


 そして、退院して大学に通えることになったことが嬉しかった。しかし、いつどうなってしまうのだろう・・・という不安から心から楽しめなかった。


 今回、彼女は帰省していないが、やはりその話になるとみんな落ち込んでしまう。


 その後、メッセージアプリでやりとりしたが、彼女は未だに怖くて地元には帰れないという。


 その後、私は彼氏と共に地元に帰ってきた。ただ、彼とは結婚できたらいいな・・・という気持ちしかなかった。


 友人たちはそろそろ本格的に結婚していく年齢にさしかかっている。しかし、私はまだ付き合うことしか出来ていない。


 そんな葛藤を抱えながら彼と一緒に結婚して、家庭を持ちたい。という気持ちは変わっていない。ただ、私には自信が無かった。


 もう、23歳になった。だからこそ、結婚へのステップを一段ずつ登らなくてはいけない。しかし、私はあの日に起きたことを克服しなくてはいけなかった。

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