第44話 もう一人の夏
香月さんと無事に恋人になれたけど、夏はまだ終わっていない。
俺はこの夏休みのもう一人の主人公のもとへと向かっていた。
「はあ!? 相良と香月さんが付き合ったぁ!? う、うそだろ、おい……嘘だと言ってくれ……」
陽祐は魂が抜けた目をして俺に縋り付く。
「そんな嘘つくかよ。マジだ」
「なんていうことだっ……俺がモタモタしているうちにっ……くそっ!」
「その様子じゃ陽祐はまだ告白してないんだな」
「なんだよ、その余裕ぶった発言は! お前いつからそんな奴になったんだ!」
「落ち着け。今どんな感じなんだ? 陸上競技会でそれなりに仲良くなれたんだろ?」
最後までは見てないが、あの様子だとかなり親密になれたはずだ。
もしかしたら告白までいくかもと思ったほどだ。
「変わんないよ。あの後二人でラーメン食って帰っただけ」
「え? そうなの? でも後日デートとかしなかったわけ?」
「するかよ。それどころか次の大会に向け更に練習し始めた。あいつ、マジ陸上以外興味ないんじゃね?」
沖田さんらしい行動だ。
しかしそんな沖田さんだからこそ、陽祐が引っ張ってリードしなければいけない。
「俺はもう無理だ。この夏に決めるのは諦めた」
頭を振りながら悟った顔で陽祐は笑う。
「そもそも俺と沖田はこんな感じでもう十年以上やってきたんだ。今さら焦っても仕方ないって。相楽に先越されたのは無念だけど俺は俺のペースでいくよ」
「その言い方、聞こえはいいけど、どうかな?」
「ど、どういう意味だよ」
「昨日までそうだったことが明日もそうだと思うなってことだ」
変化のない毎日を繰り返しているとこれまでの当たり前がずっと続くと思いがちだ。
しかし世の中は刻一刻と変化している。
「たとえば今、沖田さんは部活に行ってるんだよな?」
「そうだよ。さっき言っただろ」
「そこには男子部員もいるんじゃないのか?」
「当たり前だろ! 別に中学の時からそれは一緒だし!」
「中学の時とは違う。みんな青春真っ只中。異性を意識してしまう年齢だ」
「お、沖田は男とかより陸上なんだよ」
「沖田さんはそうかもしれない。でも男子部員は?」
敢えて落ち着いた声で指摘する。
陽祐は落ち着かない様子で視線を泳がせていた。
「大会で転んで落ち込む沖田さん。それを慰める優しいイケメン先輩」
「や、やめろっ……」
「『俺も大会でコケたことあるよ』『え、先輩がですか!?』。心の傷を癒しながら盛り上がる二人。先輩の方は気持ち以外も盛り上がっていたりしてな」
「やめろ! やめてくれ!」
少し脅かしすぎただろうか?
陽祐は耳を塞いでプルプル震えていた。
「ごめんごめん。まあそんなこともあり得るって話だ」
「だったらどうしろって言うんだ? 言っとくけどそんな簡単にコクれる空気じゃないからな。これまでずっとこんな関係を続けてきたんだ。よほど勢いがなきゃ無理だ」
「安心しろ。ちゃんと考えてるよ。俺と香月さんでな」
こんなことだろうと思い、既に手を打ってある。
「こ、香月さんと? お前、まさか香月さんに俺が沖田好きだってこと言っちゃったの!?」
「仕方ないだろ。説明しなきゃちゃんとサポート出来ないんだから」
「まあ、そうか……で、どんな作戦?」
「キャンプだよ」
「キャンプ?」
「夏の終わりのキャンプ作戦だ」
俺と香月さん、陽祐、そして沖田さんの四人でキャンプに行く。
沖田さんには俺たちが付き合ったことを伝え、二人の前で仲睦まじいところを見せる。
そうすればさすがの沖田さんも恋愛について意識し始めるだろう。
陽祐はことあるごとに沖田さんを誉めたり持ち上げ、気分を高めさせる。
行動するときも二人ペアにさせ、そしてクライマックスで告白するという算段だ。
「そんなにうまく行くかな?」
「大丈夫。バッチリだ」
「でもなぁ……」
「この際だからはっきり言うが、沖田さんはお前のことが好きだ」
「えっ!? ウソ!? そう言ってた!? それは確かな情報か!?」
陽祐は俺の肩を掴んでぐらぐら揺らしてくる。
「落ち着け。言ってはいないけど見てたら分かる。沖田さんは陽祐が告白してきてくれるのを待ってるんだよ」
「なんだ。相楽の予想かよ」
「誰が見ても沖田さんはお前に気があると思うぞ?」
「んなわけあるか。俺に気があるなら俺が一番分かるだろ、ふつう」
自分のことは意外と自分が一番分からないのかもしれない。
現に俺も香月さんが付き合ってると思い込んでいるのに気付けなかったくらい鈍感だ。
「まあここは俺を信じて頑張れ。全力でサポートするから」
「悪いな。ありがとう。でもせっかく香月さんと付き合えて残りわずかな夏休みをそんなことに使っていいのか? 俺が言うのもなんどけどさ」
「もちろんだ。ていうか俺のためでもあるからな」
「相楽の? どういうことだ?」
「俺と香月さんは確かに恋人になった。けどまだまだこれからだ。キャンプで俺も香月さんとより仲を深めていくんだよ」
「なるほど」
なんとなく付き合えたらゴールなんて思っていたが、そこにゴールテープなんてなかった。
もちろん嬉しいけどまだ実感も湧かないし、彼氏である自信もない。
だからこの気に更に愛を深めるつもりだ。
……もちろんあわよくばキスも。
男子高校生らしい情熱をもって俺たちはキャンプの計画を練っていった。
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皆様、あけましておめでとうございます!!
年明け最初の更新はもう一人の主人公陽祐くんの恋の物語です。
そしてその後は新章の二学期編が始まります!
体育祭に文化祭、そして新キャラの登場も!
今年もよろしくお願い致します!
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