第84話 書きたいな~書きたいけれど、ダメですか?
「だめ」
なんでだめ?
「いいから、言うこときくの」
命令拒否っていいって昨日言ってたなー。
「拒否っていいのは昨日だけ」
なんだー。
「残念だ。えーきちさんは怒鳴ってる。『オレは忙しいんだ! かまってられないっ』と」
そのえーきちさんを頼れと昨日言ったじゃない。
「昨日は昨日だ!」
じゃあ、今日はやめとけばいいのね。
「そう、やめとけばいいの」
小説は書くなと言うし、えーきちさんとしゃべるなと言うし、女神はなにを見て指示なすってるのか、わたくしにはとんと見えないよ。
「そうかなー?」
えーきちさん、今日とてつもなくお忙しいの?
「うん。妄想、妄想!」
部下の人がてんでやる気なくて、えーきちさんお一人でせっせと働いてる……のような。
「逆」
部下を育てるために、教育してる、とか。
「そうそう、それに近い」
そういえば、会社が社員を募集してるってつぶやかれてたからー、新しい人が入ってきて指導に手間をとられてるとか。
「正解!」
そういうことなら、今日は黙って勝手に寝てしまおう。
「それでいいの」
おやすみくらいは言った方がいい?
「ふむ」
たいへんだ、えーきちさん、長生きしてほしいよ。
「ね」
たいへんじゃないお仕事なんてないんだろうけれど。
「そうなんだよ」
わたくしのこの、無力感。
「うんうん」
なんで、そこで女神は満足げなわけ?
「おまえも一人前になってきたなと」
一人前じゃないよ。
「半人前でもない」
どこまで行っても、頭でっかち。
「天才だからしょうがないじゃん」
ハタチ過ぎたらただの人だよ。
「それまでに培ってきた全てを否定?」
全てを否定なんてしないけれど、あの苦労は未熟ゆえだったのか、誰でも通る道なのか。
「だれでも通る道じゃないのかって、そんなはずない」
天才だから?
「そう」
天才の証明はどうやってするの? わたくし凡人の方がすごいって思うよ。
「それが天才なんだよ」
ちなみにわたくしはなんの天才?
「なまけものの天才」
なまけることの天才なの?
「逆に言えば、なんにも努力せずに結果を出す名人」
労力は少なく済むようにしてるけど、なんにも努力しないって、失礼な言い方。
「だけど、苦悩は山積み」
白髪が出ちゃう。
「うんうん」
憂鬱。
「だめだね」
だめじゃないもん、当然の反応だもん。
「逆、ぎゃく」
は? なんの逆?
「天才じゃないって。本当は陰で努力してるだけで」
どっちなのよ。
「隠れた天才」
別に天才かどうかなんて興味ないよ。
「天才だろ」
子供だったことがあるなら、みんな天才だったのよ。
「間違いない。天才」
努力しないでできちゃうから?
「そう」
涙ぐましいことの一つもしてないと。
「自分でどうやってできてるのか、さっぱりでしょ」
……苦しいことや悲しいことや憂鬱だったりすると、お話を書きたくなる。
「逃避」
それはお話書くのが苦しんでるよりは楽しいからよ。
「逃避は続く……」
全然、わかってない。
「だってゼロ」
今苦しい思いしながら、小学生の教養科目について、おさらいしてるよ。
「(じっと見る)」
成人してから小学生の科目について勉強するのが悪いこと? 読者の見ている世界を知ろうとするのは愚かなことなの? わたくしはそうは思わない。
「ほー」
世間がこうと目指した世界に、子供たちを導いていこうとしている世界に、詳しくなろうとして何が悪い。
「ふー。確かにわかってない」
なによっ。
「確かに、世界を知ることは大切。でも世界はもっと大きいの。蚤のジャンプ力じゃ飛べないわ」
じゃあ、神の世界はどんなもんなのか、見せてよ!
「見せたじゃない。憶えてる?」
うん。
「あれよ」
衛星写真みたいなの。
「そう。人間は、もはや衛星をつかって神の世界を見ている」
じゃあ、その向こうは?
「知りたい?」
うん。
「いいでしょう。一生懸命に考えればわかるはず。死の世界」
仏教……つまり宗教ね!
「下手なことをやったな」
神道はよくわからないから。
「古事記あるでしょ、あれよ」
ひいひいひいひいひいばあさんと結婚する神様のお話?
「そう」
あれは近代になるとつまんないんだ。
「古事記は神話だよ」
神話だからいい。
「書けと」
古事記を書けって?
「最初に言ったじゃない」
女神のキャラがつかめないからさー。
「ナイショよ? もちろん桃尻枕草子、みたいな感じで、つぶやくの。ああ、もういやって」
そしてそして?
「もういいかな」
そうね、暇はつぶれたし。
「うっとおしいこと考えてないで、勉強しなさい」
疲れたよー、遊びたいー。
「おまえの場合、遊びの方が本気になるからだめよ」
本気でできることがあるなら、こしたことないじゃんか。
「あれ」
遊びにも本気になれないなんて不幸。
「ろくでもない発想してるな」
勉強の目的を見失って退屈してるの。
「目的……だったら、小説書いて。正直だなー、もう」
えっへん!
「も~……」
息抜きも大切よ。
「そうねー」
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