第4章

(1)新たな仲間の様子

本日(2020/12/12)投稿1話目(1/2)


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 ダークエルフが傘下に入ったことで、里周辺もまた領域として加わることになった。

 ただしいきなりダークエルフが加わることを想定していなかったので、里周辺は飛び地になっている。

 この状態はなるべく早く解消したいということで、ダークエルフからの情報と照らし合わせつつ環境調査などを行ってからエリアボスの討伐を進めることにする。

 もともとの領域と里までには大小さまざまな沼地や小さな山なども含まれているので、そこそこの情報量になっている。

 それでも主にラックが頑張ってくれたことにより、少なくとも上空から確認できるくらいの探索は進んでいる。

 それと同時並行でエリアボスの討伐も進めているので、今までにないくらいのスピードで領域が広がっていた。

 これほどの速さでエリアボスの討伐が進んでいるのは、眷属による探索は勿論のことダークエルフからの情報が大きい。

 そして、ダークエルフにとっての厄介な敵が出てくればエリアボスということにして次々と倒していっていった結果、形はいびつだが里の飛び地状態はどうにか解消できていた。

 

 そんなこんなでダークエルフが傘下に入ってから三か月ほどが経ち、寒さの厳しかったでっかいどーもようやく雪解けが来たかなという季節になっていた。

 そんなころに、俺はルフの背中に乗せてもらいながらダークエルフにいる長老を訪ねていた。

「――――これは何でしょうか?」

「種もみだね。米の――って米はわかるよね?」

「勿論わかりますが……米ですか」

「そう。米。一応言っておくけれど、それって一応寒冷地でも対応しているはずだからここでも十分育てられるはずだよ?」

 俺がそう言うと、長老は目を丸くして手に持っていた種もみが入った袋を見返していた。

 

 米というのは本当に優秀な作物で、単位面積当たりの収穫量は小麦よりも多いとされている。

 ただしそれはきちんとした環境の下で、適切な品種の苗を育てることによって成立する。

 特に米は小麦に比べて寒さに弱いという特徴もあるので、きちんと品種改良されたものでないと適切な収穫量が得られなかったりする。

 それ以外にもかかる手間が小麦よりも多かったりするという特徴もあるのだが、そのあたりは俺なんかよりも米のことを知っていそうな長老のほうがよくわかっているはずだ。

 問題なのは寒い土地でも育てられる品種があるかどうかだけだと考えたので、ハウスで北海道産の種もみを見つけた俺はこれだと考えて持ってきたのだ。

 

「――ただ本当に大丈夫かどうかは育ててみないと分からないから、初年度はどちらかといえば実験になるかな。最初から収穫を当て込んで失敗すると痛い目に合うだろうから。……って、そんなことは長老のほうがよくわかっているか」

「そんなことは……ただ、確かに仰る通りなので、まずは実験的に作ってみます。――うまくいけば、完全に主食となるはずですから」

「だね。とりあえずは小麦も生産も並行して続けるとしても……人手は大丈夫?」

「なんの。世界樹様がもたらしてくださった『ビニールハウス』なるもののお陰で、どうにか冬も越せそうですから。お陰で多少の余裕は生まれております」

「そうなんだ。それはよかったね」


 これはもう完全にチート扱いになるだろうなと分かっているのだが、ハウスでアイテム一覧を確認していた時に簡易的なビニールハウスなら作れそうな材料が幾つか見つけていた。

 それを使って幾つか実験的にビニールハウスを建ててみたのだが、これが思った以上にうまくいったようで今まで凌ぐことが大変だった冬をどうにか乗り越えられたようだ。

 いわゆる異世界ファンタジーに現代的なビニールなんかを持ち込むことに抵抗はあったのだが、背に腹は代えられないということでそこは目を瞑ることにした。

 今は余裕がないが、もし余裕ができれば代わりに出来そうな素材が作れないかを検討してみるつもりでいる。

 

 ちなみに今回購入したビニールなどは、ダークエルフがため込んでいた魔石を使っている。

 外部との交流を控えていたダークエルフだが、いつかは必ず必要になるだろうと考えて今まで倒した魔物の魔石は必ず回収するようにしているそうだ。

 この世界にも貨幣などはあるようだが、それよりも魔石は共通の価値があるものとして取引にも使われるらしい。

 里で使う魔石は少量なので、これまでの期間でかなりの量をため込んでいたようで、そのうちのいくらかを譲り受けている。

 

 ダークエルフからもらった分はきちんとお返しをしなければということで、幾つかの物品をダークエルフに渡しているのだが、それでも余るほどの量を貰うことができていた。

 ただ今はまだ取引らしきことをする相手がダークエルフだけだからいいが、今後はしっかりと基準を決めないといけないだろう。

 他の貨幣基準とあまりにかけ離れた取引をしていると、どこかで破綻してしまう可能性がある。

 この辺りのことは、長老や他のダークエルフも交えてきちんと決めなければならない。

 

 それから一応世界樹の傘下に入ったということで、ダークエルフからは税金に当たるものをしっかりと貰うことになっている。

 ただしこれは将来的なもので、生活がしっかりと安定するまではきちんとした値は決めないことにしていた。

 そういう意味では、ダークエルフからもらった魔石はその税金の代わりともいえる。

 諸々のことが後回しになっているが、これは彼らが急に傘下に入ったことの弊害だということで先延ばしにしてもらっている。

 

 そもそも税の取り立てなんてことは全く考えていなかったのだが、今後はそんなことも言っていられなくなる……はずだ。

 となればどうしても官僚的な立場の存在は必要になるわけで、その部分はどうしようかとなってくる。

 あるいは組織の扱いになれているクインやシルク辺りに任せてもいいのかもしれないが、そもそも国家の運営とは違っているはずなので、その違いを教えられる者がいないとどうしようもない。

 とまあ「ないない尽くし」なわけだが、そんなことばかり言っていても仕方ないので、あとは実戦でどうにかやっていくしかないだろうと考えている。

 

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 雪解けがさらに進み、ダークエルフに渡した種もみが順調に成長を続けている矢先に、嬉しい情報が飛び込んできた。

 何があったのかといえば、冬の間身ごもっていたミアがついに三頭の子供を出産したのだ。

 ルフから話を聞いてさっそく様子を見に行ったのだが、母親ミアからお乳をもらいながらキューキュー言っている姿は、とても魔物とは思えないほどに愛らしい。

 気になるところといえば、その三頭がどういう扱いになるのかというところだが、立場的には子眷属と同じ扱いになるようだった。

 ステータス欄には眷属だけが表示されているのだが、そこには三頭の子供たちは表示されなかったのである。

 ついでにルフとミアから名付けを行ってくれという要請もあったので名付けもしたのだが、やはり一覧に加わることはなかった。

 考えてみればダークエルフも眷属扱いにはなっていないので、何か基準になるようなものがあるのかもしれない。

 

 そのあたりのことは追々調べていくとして、今は新たな生命の誕生を喜ぶことにする。

 そういえば眷属の場合は食事は必要ないのだが、今もミアのお乳を吸っている子供たちはしっかりと食事をとっている。

 この辺りも条件の違いになるのではないかと思うのだが、実際のところはわからない。

 分からないなら分からないなりにその場で適切(行き当たりばったりともいう)に対応していこうと決意をするのであった。




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