第437話:ゲオルVSギャルン。


 ……俺は、どうなったんだ?

 どうやら死んではいないらしいが、身体がぴくりとも動かない。

 感覚はぼんやりとあるが、力が入らない。


「やっとお目覚め? ふふ、力が入らないでしょう? あのタチバナとかいう奴に作らせたのよそれ。なかなか役に立つ男だったわ」


 俺はどうやらネコの隣に吊られているらしい。

 まったくもって情けない。

 真っ先にネコと俺が捕らわれてしまうとは。


 しかしタチバナの奴……なんて面倒な物を作ってくれたんだ。

 俺の身体には妙な蔦が絡みついていて、どうやらそいつのせいで体の自由を奪われているらしい。

 ママドラ封じ対策として精神面の防御は出来るようになったが、こんなやり方で物理的に竜化の力を封じられるとは思ってもみなかった。


 このシステムにも例の種の力が使われているんだろうか?

 どちらにせよこのままでは文字通り手も足も出ない。


 大口叩いておいて結局このザマだ。

 とことん俺はキララと相性が悪いらしい。

 この女は相性なんて気にせずに俺を自分の物にしたいらしいが。


「さぁ、いったい何人が無事にここまで辿りつけるかしらね?」


 キララは楽しそうに、しかし表情は一切変えずにそう言うと、目の前に大きなスクリーンのような物を作り出した。


 投影魔法で生み出されたスクリーンにはこの城の中をさまよっているシルヴァ達の姿が映し出されている。

 シルヴァはリリィと合流しているようだが、ゲオルは一人だけだった。


「そこでおとなしく彼等が死んでいくのを眺めていなさい」


 くそっ……ママドラ、聞こえてるか?


 ママドラからの反応は無い。

 やはりこの妙な蔦で直接俺の身体をどうにかしているらしい。


 あいつらが無事にここまで辿り着いて、俺等を人質にされて負けるなんて事だけはあってはならない。


 だがもう時すでに遅しというやつだった。

 抗おうにも全く力が入らないのではどうする事もできない。


「ほら見ていなさい。始まるわよ」


 キララの言葉を合図にするかのように、スクリーンに映ったゲオルの前にギャルンが現れた。


 天井からどろりと黒い液体が床に落ち、それが人型に変わっていく。

 カオスリーヴァを模した顔ではなく、以前の能面のような仮面をしていた。


「テメェ……よくも俺の前に面ァ出せたなこの野郎!」


「ふふふ、相変わらず頭が悪そうですねぇ。その顔を見るのも今日ここで最後ですよ。私がきっちりと殺してあげますから安心して下さい」


 ギャルンの言葉が終わるのと同時にゲオルが突進し、殴り掛かる。


「相変わらず馬鹿の一つ覚えですか。貴方がいくら頑丈だとしても一人で私を倒せると本気で思っているんですか?」


 ギャルンはさらりとゲオルの拳をかわし、ゲオルの周りにゆらゆらと揺らめく球体を幾つも生み出した。


「こんな物で俺が止まると思ってんのかァ!?」


 ゲオルはそれらを完全に無視して突き進む。

 球体に身体が触れた瞬間、電撃が迸り、周囲を取り囲む球体全てが誘爆。

 ゲオルの身体は爆発に飲み込まれてしまった。


「効かねぇぇぇぇっ!!」


 爆煙の中からゲオルが飛び出し、再びギャルンに飛び掛かる。


「相変わらずのタフさですね……本当に面倒な」


 しかし、確かにゲオルは単騎では実力を発揮する事が難しい。

 本来ならばそのタフさで攻撃を受ける盾になる役割なのだから一人で、しかもギャルンみたいなのを相手にするのは相当不利だ。


「テメェがいくら小細工したってなァ、俺にはまったく効きゃしねーよ! 俺はこのまま夜明けまでだって戦えるぞ!? 俺に掴まったらそれはお前の最期だと思え!」


「ふふ……ゲオル風情が言うようになりましたねぇ……そこまで言うのならいいでしょう。私も肉弾戦で相手をして差し上げますよ」


「ハッ! 後悔しても知らねぇぞ!」


 正気とは思えない。

 ゲオルの物理的な力は六竜一だ。肉弾戦を挑んで、万が一掴まれようものなら身体を引きちぎられてバラバラになるぞ……?


 それを敢えてギャルンが受けて立つ意味が無い。


 つまり、それを受けるという事はギャルンには何か策があるという事だ。

 ダメだゲオル、考えろ。

 そいつは何か企んでるぞ……!


「死ねやオラァァァァっ!!」


 ゲオルの渾身の一撃を、ギャルンは避けずに片腕を犠牲にして受け流す。

 ギャルンの左腕は肩のあたりから抉れて吹き飛んでしまったが、それに動じもせずギャルンは右腕を細長い棒のような形に変化させ、ゲオルの口に突っ込んだ。


 内側からの攻撃か!?

 それならいくらゲオルといえどダメージを負うかもしれない。


「甘ェ!!」


 バギリ、とゲオルは口に突っ込まれた手を噛み砕いた。


 そしてバリボリと咀嚼し、ペッと吐き捨てる。


「ケッ、美味くもねェ」


 ギャルンは両腕を失い、フラフラとゲオルから距離を取った。


 まさかさっきの捨て身戦法がギャルンの作戦だったのか?

 わざわざそんな身を削るやり方を……?


「確かに俺の顔を見るのは最後になりそうだなァ? テメェが今日ここで死ぬからよォ!」


 ゲオルは大きく身体を仰け反らせ、大きく息を吸い込むと勢いよく炎を噴き出した。

 ブレスとは違う。

 どちらかというとホースで水を出してる時にホースを摘まんだ時みたいな、凝縮して勢いを増している。

 まるで炎の槍だ。


 それはギャルンも想定外だったらしく、慌てて避けようとするが間に合わずに身体を貫かれた。


「こ、こんな隠し玉を、持っていたんですね……」


「フン、さっさと灰になって死ね!」


 ギャルンの身体は、貫かれた部分を中心に灰色になっていき、最後にはボロボロと崩れ落ちた。


「ギャハハ! 俺様が最強だぜ!」


 ゲオルが勝ち誇った瞬間、その頭部が爆発し、ゲオルはゆっくりとその場に崩れ落ちた。


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