第429話:それぞれの幸せのカタチ。
「入っていいー?」
うおっ、もう次か。
今の声はレナかな? なんて考えていたら彼女は返事をする前に部屋に入ってきた。
「えへへ、来ちゃった♪」
「お、おう……」
「私もついて行きたかったけど……仕方ないもんね。ちゃんとこっち守るから任せてよ」
なんだ……? 今までの誰よりもまともに会話が進行しているぞ。
『君もなかなか失礼な奴ね』
「俺もきっちりケリつけて帰ってくるから。こっちの事は頼んだぞ?」
「うん、任せてよ。もうあの時みたいにはなりたくないから」
レナの言うあの時、っていうのは……多分目の前でイリスがさらわれた時の事だろう。
「あまり気負うなよ? レナに何かあっても困るからな」
「心配してくれるんだ? ありがと♪ 私ね、英傑祭でミナトと戦ってからずっとミナトに憧れて……強くなりたいって思ってた」
レナはゆっくりとこちらに近寄り、隣に座る。
「でもね、守りたい物を守れるだけの力があればいいんだって気付いたんだ。私がどれだけ頑張っても限界はあるから。だから出来る限りの事をしようって。それにね、ミナトの役に立てるなら私、きっと限界の一つや二つ越えてみせるしね♪」
支離滅裂だ。
守れるだけの力があればいい。限界がある。でも限界は越えられる。
「何が言いたいのか分からないって顔してる」
「……ああ、そうだな」
「私はね、ミナトの為だけに生きて、そして死ねるんだ。そうする事が私にとっての幸せなの」
「お前なぁ……」
「分かってるよ。死ぬなって言うんでしょ?」
「当たり前だ」
悪戯っ子みたいな表情のレナが、何を考えてるのかいまいちわからない。
「生きるよ。ミナトが私を必要としてくれるのなら。逆に、必要とされなければいつ死んだっていい。だから……言ってよ」
……俺の手をぎゅっと掴んだレナは、わずかにだが震えていた。
「……俺にはレナが必要だ。だから、死ぬな」
レナは目を瞑って、なんだかぷるぷるとしている。震え、とはちょっと違うような。
「うん……分かった。私死なないよ。絶対に生きるから。ミナトも早く私を迎えに来てね?」
「お、おう」
「ミナト、触って」
レナは突然俺の手を掴んでその胸元に押し当てた。
「ばっ、おま……」
「わかる? 今心臓凄く早いの」
「えっ? あ、あぁ……そう、だな」
正直それどころじゃない。
おっぱい鷲掴み状態なんだ冷静にそんなの確かめる余裕ないわ。
「えへへ、この続き、帰ってきたらしようね?」
「……えっ?」
「ミナトも心臓早いね。私でそんなふうになったの?」
どうやら俺の腕を掴んでたので脈を測られたようだ。恥ずかしい。
「よかった……ドキドキしてるの私だけだったら悲しいもん。ミナトも……同じなんだね」
「そりゃそうだろうよ……あまりからかわないでくれ」
「えへへ、でも続きはちゃんとしようね♪ それじゃ♪」
レナは顔を赤らめて、パっと立ち上がるとすぐさま部屋を出て行ってしまった。
『いやぁ、モテモテねぇ?』
好意を寄せられるのって勿論嬉しいし、単純に舞い上がってしまいそうではあるんだけど、自分ってそんなふうに思われる程たいした人間なのかなってのを考え出してしまうと……。
『うわ、根暗……』
俺は元々そういう性格なの!
『まぁ知ってるけどね。……あ、次のお客さんみたいよ?』
「は、入るぞ!?」
そう声をかけてから、ノックも無く忍び足でそろりと部屋に入ってきたのは……。
「シャイナ……? お前まで来てたのか」
シルヴァがシャイナまで連れてきているとは思わなかったが、確かに奴は話がありそうな連中を集めておいた的な事を言ってた気がする。
「め、迷惑だったか?」
「そんな事ないさ。わざわざ来てくれて嬉しいよ」
「そっか。それならいい」
部屋の壁にもたれかかりながらしばらく黙り込んでしまうシャイナ。
「……シャイナ?」
「……じ、実はその……話しがあって」
「お、おう……」
俺は今までの奴等のような話の展開になるのではと身構えたが、そうでは無かった。
「ミナトは、私が前世の記憶があるというのを覚えているだろう?」
俺は無言で頷く。
シャイナは前世の記憶を僅かながら引き継いでしまっている。
確かドラゴニカスキルの所持者とパーティを組んでいた、という話だったか。
「あれからいろいろ思い出した事があって……私は、多分だけどドラゴニカを使える仲間の、妻だったらしい」
「……はぁ」
うわぁ、なんだろう。他の男の妻でした発言ってこんなに面白くないもんなんだな。
『君って意外と独占欲強いのね? ヘタレのくせに』
男ってのはみんなそういうもんだと思うけど。
俺は自分に正直なだけだよ。
『自分に正直なら今頃もっといい思い出来てると思うんだけど?』
ぐっ、気持ちには正直だけどそれを行動に移せるかは別問題なの!
『ヘタレ』
……否定は出来ない。
「で、もっと深く記憶を思い出そうとシルヴァ殿に協力してもらったんだ」
あいつに協力を求める時点でどうかと思うが……。
あれ、もしかしてこれってここからしばらく他の男とののろけ話聞かされるやつ?
精神的ダメージがえぐいんだが?
『まぁまぁとりあえず話を聞いてあげましょうよ』
正直な話俺は今すぐにでもこの部屋を出てしまいたかったのだが、器の小さい男だと思われるのも嫌なので我慢する事にした。
『えらいえらい』
……シャイナの幸せはともかくその相手の幸せ話は聞きたくねぇなぁ。
『君って……』
勘違いするな。俺は他人に不幸になれなんて思っちゃいないぞ。
ただ幸せなのが妬ましいだけで……。
『うわ……引くわ』
分かってたくせに。
『まぁね♪ そういう人間臭いとこ結構好きよ?』
喜んでいいもんかねぇ……?
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