第392話:世界の為に必要な事。
「全く……一体どういうつもりなんだ?」
結局あの後英傑からの情報収集がしばらく続き、俺は口出しする事を許されないままそれを眺めているしかなかった。
勿論余計な事を言いだしそうになる奴には文句の一つも言ってやったが、ポコナからの命令に逆らえないというよりも逆らう気が無いらしく、堂々と俺の赤裸々な体験を暴露し合う時間が続いた。
新手の拷問かと思うくらい恥ずかしかった……。
特にジキル、エクス、レナあたりはもうその辺でやめて下さいと泣きたくなるくらいの暴露が連発で、頭の中でママドラの笑い声が止まない状態が続く。
ポコナはポコナで、「これは必要な事なんですわ。ミナトは事実と違う時だけ反論してくださいまし」と一喝。
その眼光は今まで見せたどんな物よりも鋭く俺を射抜く。
こんな殺気に満ちた表情いつできるようになったんです?
もういっそ帰ろうかとも思ったのだが、それはそれでポコナに止められてしまいこの拷問空間に留まる事になってしまったわけだ。
一通り情報収集が終わり、英傑達が解散した後その場に残ったのはレナ、エクス、ポコナの三名。
ロリナとジオタリスは残ると騒いだがポコナに追い出されていった。
「どういうつもり、とはどういう意味ですの?」
「どうもこうもあるかよあの本はなんだ? なんであんな事になった」
これがポコナ一個人の趣味だというのなら俺は止める権利がある。
何せ俺のプライベート垂れ流しなんだから止める権利くらいある筈だ。
「世界の為ですわ」
「……えっ」
想定していなかった理由が返ってきて言葉に詰まる。
「いいですか? 今やミナト・ブルーフェイズ……そしてミナト・アオイというのはこの世界で共通認識の救世主なんですわよ?」
「いやいやそれは言い過ぎだろ……」
俺が救世主だなんておこがましいにも程がある。
「どうしてそう言い切れますの? ダリルでは国を救った英雄、リリア帝国では姫と王を救い英傑王としての地位を確立、ランガム大森林では世界を脅かす悪の教団を潰しエルフの生き残りを助け出す。シュマルでは最高の冒険者として困難な依頼を達成し、防衛隊員としても成果を残し、あまつさえ国家転覆の危機から国とシュマル代表を守り切った。そして滅ぶラヴィアン王国から王族二人を助け出した……もはやこの世界にミナトという名前を一切知らない人間など居ないと言えるほどですわ」
「長い長い、一呼吸でよくもそこまでの長文を口にできるな」
「ミナトがこの世界に名を刻んだ証拠ですものこれくらい余裕ですわ」
た、確かに……こうやって改めて全部羅列されると俺って苦労してきたんだなあと実感する。
しかもポコナが言ったのは大まかな結果論であり、その間にはいくつもの苦難があった。
神様に生き返らせてもらったその瞬間から、俺の受難は運命付けられていたのかもしれない。
しかし、だからと言ってそれを本にする意味が分からない。
「その顔は、何故本にしたのか分かってらっしゃらないようですわね?」
俺の疑問もポコナにはお見通しだ。
「ああ、わざわざ俺の人生をあんな英雄譚みたいに脚色してまで世間に公開する必要がどこにある? しかもまだまだ続き出すつもりらしいじゃないか」
「勿論、必要があるからやっているに決まってますわ!」
ポコナはガタっと勢いよく立ち上がり、「ですわよね!?」とレナ、エクスに同意を求める。
何故だか二人は腕を組みながらうんうんと頷くのだった。
「お前らなぁ……俺が納得する理由を言ってみろ。納得出来なきゃミナト・ザ・ブレイブストーリーは一巻で打ち切りだ」
「だから言っているではありませんの。ミナトは世界の救世主、全世界共通の光、なんですわ」
……光?
「本当に鈍い人ですわね……この世界には脅威が迫ろうとしております。表向きにはまだ世界全体の危機とは認識されておりませんが、いつかそういう日が来るのはほぼ確定事項ですわよね?」
「……キララが本格的に動き出せばそうなるだろうな」
「その時に人々は何を希望に生きればいいのです? 何を心の支えにして戦えばいいのです? ただ毎日を生きるという小さな幸せを謳歌している一般の民草は自らの力で魔物を倒す力などありませんわ。結界に守られた街の中で怯えて暮らすしかないのです」
「だからそうならないように俺達がキララを……」
そう、俺達が世界を守らなきゃいけない。
もう俺個人がどうこう、キララがどうこうという問題でも無くなってしまった。
俺対キララという構図は、人類対魔物という構図に置き換わってしまっている。
「だからこそ、ですわ! 必ずや英雄ミナトが私達を守ってくれる、この世界を救ってくれる! ……今人々に必要なのはそういう類の心の支え、救いなんですわ」
……マジでか。
ポコナとシルヴァの野郎はそこまで考えてあの本を書いたって?
にわかには信じがたいが、正直その意見を押し潰し執筆をやめさせるだけの理由がこちらに用意できそうになかった。
俺が嫌だから、ではすまない所まで来ている。
「誰もが知っているミナトだから、英雄として名高いミナトだからこそこの手段がとれるのですわ。だってみんなが実在を認知しているんですもの。全世界にとって共通認識の、分かりやすく誰よりも信頼できる英雄。それがミナト様……貴女なんですわ!」
く、クソが……!
いつの間にか逃れられない神輿に乗せられている。
理由が最もらしくて受け入れざるを得ない。
俺は少々の誇らしさと、どうにもならない絶望感に包まれながらポコナに続きの執筆を許可した。
今更ながら、俺の人生どうしてこうなってしまったんだろう?
誰か教えてくれ。
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