第374話:どう転んでも地獄。


「な、なぁ……俺の聞き間違いか? 今リリィがマリウスとか聞こえたんだけど」


「残念ながらそう判断するしかないのだ」


 シルヴァは本当に残念そうに肩を落としながら言った。


「彼女のスキルを説明しようか? 不屈というのは……よく不屈の精神、とか言うだろう? つまりそういう事だ」


「いや、よく分からんって」


 不屈の精神……? こいつがある意味鋼の精神力を持ってるのは分かってるけど。


「簡単に言えば強靱な精神力、そして不屈の肉体」


「待て待て、精神力の方はともかく不屈の肉体ってなんだ?」


「……頑丈なんだよ。全体的に」


 シルヴァはため息をつきながらリリィへと視線を移し、当の彼女は「きゃっ♪」とか言いながらほっぺを両手で挟んで照れている。


「頑丈って……ゲオル的な?」


「あそこまでではないだろうけれどね。身体能力が高い、というよりはただいろんな意味で頑丈だ、としか言えない」


 なんだそりゃ。だから俺が何回ぶっ叩いても平気だったのか?


「そして次の状態変化無効だが……自分の身体が外からの要因で変化する事を無効にする事が出来る」


「だからよく分からないって。なんでこいつのスキルはそんなにややこいのばっかりなんだよ」


「僕に言われても困るよ。状態変化、というのは状態異常も含んでいるが、それだけではなく……そうだね、例えばあの種による変化すら彼女は無効化するだろう。外的要因の変化は全て意味を成さない」


 ……それだけ聞くとかなり凄い力じゃないか?

 逆に俺がその力を持ってたりすると竜化とかも出来なくなりそうだが……。


「そして最後の溶解吸収。まったく、なんというスキルの組み合わせだろうね。こんな稀有な人間が世の中に居るというのが驚きだよ。訓練も無しにスキルを三つ所持し、その全てが特殊も特殊ときてる」


「その妖怪吸収ってのはなんだ? この世界には妖怪でもいるってのか?」


 シルヴァは不思議そうに「何を言ってるんだ君は」と言い放った。


「溶解というのは溶かし、解かす。……という意味の溶解だよ。彼女は他の何かを溶かして自分に取り込む能力を持っている」


 妖怪じゃなくて溶解だったか。

 つまりそのスキルによってマリウスの核を舐めまわし、溶かしてしまったと?


 マリウスも災難だな……。こんな女に舐めまわされてじわじわ溶かされるとか拷問じゃねぇか。


『ちょっと羨ましいとか思ってる癖に』


 ……可愛い女子に舐めまわされるとかご褒美だろうが。


『急に開き直らないでくれる? びっくりするじゃないの』


 こいつは外見だけはいいんだよ。それは俺だって認めてる。


『本当はこの残念な所も癖になっちゃって結構好きな癖に』


 それも否定はしない。だがこいつが真剣な話、深刻な状況に絡んでくるとなると話は別だ。


 どこか俺の居ない所で勝手に騒いでてほしい。肝心な時にこんなのがしゃしゃり出てきて場を乱すとかある意味地獄じゃねぇかよ。


『うーん、でもその地獄ってのが現実になりそうよ?』


「君は……マリウスの核を溶かし、その身に取り込んでしまったんだな……」


「え、違いますけどー?」


 俺とシルヴァは一斉に崩れ落ちた。

 ゴンっとテーブルに頭を打ち付けてしまう。


「ち、違うとは……? おそらく僕の推測で間違いないと思うのだが……」


「そうなんですー? 私ずっと気になってたんですけどマリウスってなんです?」


 俺達は再びテーブルに額をぶつけながら、やっと理解した。


 こいつなんにも分かってねぇな。と。


 まさか今までマリウスってのが何か分からないまま話を聞いていたとは思わなかった。


 仮にマリウスを知らなかったとしても、だ。

 マリウスの核、綺麗な飴、溶かして吸収。

 そこまで話を聞いていれば何となく事情を察するもんじゃないのか?


 ドラゴンの核、という話すら出ていたように思うが、リリィは本当になんの事だか分からないようで、俺達の反応を見て額に汗を浮かべている。


「マリウスというのは六竜の一人で、君が溶かして食べてしまったソレは六竜マリウスの命の源、核だったのだよ」


「え、っと……? つまり、わらわ六竜よりも強いんですね!? 知ってましたー! 結局なんだかんだ言ってわらわが最強だって!」


「シルヴァ、殴っていいか?」


「まぁ待てミナト。気持ちは分るのだが、問題は彼女がただマリウスを吸収してしまっただけ、に留まるのか、それともその力を我が力へと昇華させているのかだ」


 それは一理ある。

 こいつがただ食事としてマリウスを食ってそれで終了ですなんてなったらマリウスが浮かばれない。


 かといってこいつがマリウスの力を自分い取り込み、自在に使えるようになったらそれはそれでマリウスが浮かばれない。


 こんな奴が六竜の力を手に入れてしまっていいはずがないのだ。

 いいはずがないのだが……。


 残念な事に、どちらにしてもマリウスはご愁傷様という状態だった。


「つまり君は六竜を取り込んでしまったんだ。上手くいけばマリウスの力を使いこなす事も出来るかもしれない」


「はわわーっ!? わらわが六竜の力を使えるようになったらもうミナトに大きな顔はさせないですよーっ!? わらわの逆襲が始まるッ!」


 ……どう転んでも地獄じゃねぇか。



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