第351話:根暗のスペシャリスト。
「では……この女性が、ラヴィアンの……代表とでも?」
なんだかシルヴァのこめかみあたりがぴくぴくしてて面白い。滅多に見れるもんじゃない。
「非常に残念な事にそいつはおまけだ。大事な話はこっちのマァナにすればいい」
「マァナと申します。リリィお姉様が失礼な真似をして申し訳ありません」
マァナはシルヴァに丁寧な挨拶をした後、こちらをちらりと見て「ミナト様、この方は……?」と疑問の声を漏らす。
そりゃそうだろうな。こいつらからしたら突然怪しい男が現れたようにしか見えないはずだし。これが普通の反応なんだよ。
「あぁステキーっ! 超イケメンわらわと仲良くしてーっ!」
こうはならんやろ。
『なっとるやろがい』
ママドラもなかなか切り返しが上手く成って来たけれどあまり褒められたもんじゃないな……。
「ふむ、ではこの方がラヴィアン王国の代表という事で同盟会議に参加してもらう形でいいかな?」
「わ、私でよろしいのでしたら是非……ただ、ラヴィアンは実質滅亡したような物ですのであまり意味はないかと……」
その言葉を聞いてシルヴァが軽く首を傾げながらこちらへ説明を求めてくる。
「とにかく、詳しい話は後、なんだろ? お前が直接こんな所まで来たって事は何か他に用があるんじゃないのか?」
「ふむ、用がある、というよりは君達に早く帰還してもらいたいのでね、力を貸しに来たのだよ」
「力を貸すって……? お前が皆を転移させてくれるとでも言うのかよ」
いくらこいつでも距離が遠すぎる。全員を転移なんて……。
「いやいや、そうではないさ。ここには僕、アルマ、イルヴァリースと三人の六竜が揃っているだろう?」
「……ああ、そうだな」
マァナがザザっと俺達から距離を取った。
「ろ、ろろ、六竜という言葉が聞こえましたが……」
面倒だなぁ。せっかく今回はその辺を伏せてたってのに。
「如何にも。僕とここのミナト、そしてあの半獣のユイシスは六竜だ。とは言っても僕以外の二人は六竜と同化している、という形だがね」
「六竜が……政治に、介入を……?」
「まぁいろいろと事情があった、とだけ言っておこう。ただ僕としては興味の対象はミナトだからね。ミナトの為に動いていると言っても過言ではないだろうね」
マァナが俺とシルヴァを訝し気に、交互に見る。
関係を勘違いされたらいやだからそういう言い方しないでほしいんだけど。
「とにかく、だ。こいつの言うように俺の中にはイルヴァリース、あいつの中にはアルマ。そしてこのシルヴァって奴はシヴァルド本人だ。一応争いを無くすために動いてるってのは信じてもらいたいね」
「そ、そんな事をいきなり言われましても……いえ、そうですね。私が今ここで騒ぎ立てた所で何も変わりません。他の国の王達も知っているのでしょう?」
俺は無言で頷く。
ライルはネコの中にアルマが居るなんて知らんかもしれんが。
「ならば……分かりました。私は貴女達に従います。話し合いの場には……やはり私が居る意味が薄いでしょうが」
「そんな事は無い。このラヴィアンの現状を説明できる当事者が居るだけで国同士の同盟の話が一気に進みやすくなるだろう。ある意味では君も必要なファクターだよ」
お前を利用させてもらう、と本人に直接言っているようなものだ。
それでも、マァナはそれを受け入れた。
ここで俺達と離れる事を選んだところで未来は無いと理解したんだろう。
これだけマァナが悩んだり、覚悟を決めて前に進んだっていうのに……。
「お兄さん六竜なんですかー? すっごーい♪ わらわ興味ありますー♪ 今度一緒にお食事でもいかがですかー?」
こいつは本当にいつだってブレない。
ある意味羨ましいし、すげぇと思う。
何せシルヴァの奴にこれだけ嫌そうな顔をさせる人間はこいつくらいなもんだ。
人間じゃ無ければギャルンが居るけどな。
「ミナト……僕はこの人がとても苦手だ」
「見りゃ分かる」
「えーっ? 酷いですぅ~! わらわの事まだ何も知りませんよね? わらわも貴方の事知らないです。だからもっともっとお互いを知りあう必要があると思うんですよねー?」
「……ミナト」
「知らん。たまには困れ」
いつも俺を振り回しているツケが回ってきただけだざまぁないね。
「僕一人で帰るぞ?」
「ジーナ、やっちまえ」
「かしこまりました」
「へぶっし!」
ジーナが即座にリリィを黙らせ、やっと話が前に進むようになった。
「ふぅ、とにかくだ。ここに六竜が三人も居る。その魔力を集めて彼女の魔法に上乗せしようじゃないか」
「へっ、儂か?」
ラムは急に話を振られて驚いているが、俺もちょっとびっくりした。
六竜三人の力を合わせて……とか言うならシルヴァが転移魔法使えばいいじゃないか。
「生憎と僕は他者の魔力を融合させるなんて事はした事がなくてね。人間程度の魔力を合成、ならばどうにでもなるだろうが六竜の力ともなると繊細なコントロールが必要になってくるだろう」
「なるほどのう、それで儂、という訳じゃな?」
結構に無茶な要求をされているように思うのだが、ラムは顔色一つ変えず、「任せるのじゃ♪」と胸を張った。
それだけ自分の魔法の才能に自信が持てるんだからすげぇよな。
俺にも何かそれくらい誇れるもんがほしいぜ。
『よっ! 根暗のスペシャリスト!』
……ママドラ嫌い。
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