第339話:ギャルンとの決着。
「お前はいったい何をしようとしていたんだ……?」
「ふむ、別に失敗に終わったので話してもいいのですがね……並行世界が存在するのならばそちらから必要な戦力を連れてこれないかと思いましてね」
必要な戦力……だって?
その言葉を聞いて俺はぞっとした。
並行世界というのは自分が今いる世界とそっくりで、少しだけ違う世界。
もしそっちにまだ健在なキララが居たら?
俺と会う前の仲間達に種を植え付けられたら?
六竜を向こうに引き込まれたとしたら?
こちらに打つ手がない以上そんな展開になったらどうしようもない。
死よりも恐ろしい展開が待ってるぞ。
万が一にもいろんな並行世界のキララが大挙して俺を取り囲んだとしたら俺だって自害するかもしれん。
本当に並行世界とやらが無かったのがありがたい。
少なくとも現状発見できなかっただけ、なのかもしれないけれど、最悪の状況を用意される事だけはなさそうだ。
それに……もし並行世界なんて物が存在したとしたら、俺だってその世界へ救いを求めに生きたくなってしまうかもしれない。
そんな物は無い方がいいんだ。
万が一こちらで大切な物を永久に失ってしまったら、並行世界に乗り込んでそちらの自分を排除し入れ替わる事を本気で考えてしまいそうだから。
『君ってたまに恐ろしい事を考えるわね……』
実際絶望を味わった事がある人間なら、それがどんなに道理に背いていたとしても考えてしまうだろう。
失った物を取り戻せる誘惑に勝てる奴なんてそうはいない。
『君って良くも悪くも本当に人間臭いわよねぇ……』
そりゃ生き返る前の俺は凡人代表みたいなもんだからな。
「しかし残念ながら他の世界の観測は出来たものの何も無い空間でした……これではマジックストレージとさほど変わり無い。これから更なる研究を……と思っていた所だったんですがね。まさかこんなに早くここにたどり着いてしまうとは少々侮っていたようです」
「……で、どうする? そろそろ俺の相手をする気になったか?」
「そうですねぇ……君にはもう利用価値があまりないんですよ……」
これまでは必要があったから生かしておいた、という事か。
「お前まともにやりあって俺に勝てると思ってるのか?」
「ふふ、どうでしょうね。君一人だけならばあるいは……とは思っていますよ。でもここには生憎と小さな賢者と勇者が揃っている。冷静に考えれば難しいでしょうね」
「それが分かってるなら話は早い。さっさとやろうぜ……そしてイリスの居場所を吐かせてやる……!」
ギャルンは俺の言葉を聞いて大袈裟にのけ反りながら笑った。
「くくく……はははははっ! これはいい。やはり君はもう少し生かしておいた方がよさそうだ。まだまだ私の事を楽しませてくれそうだからね」
「どういう事だ……」
「君も……分かっているんじゃないかな? 君の娘はもうこの世に居ないとね」
「うるせぇ! テメェは生かして返さねぇぞ……!」
我ながらまるで悪役のような台詞だ。
しかし、既に俺のはらわたは煮えくり返っていた。
ネコ達を避難させておいてアレだが即行で速攻で終わらせてやる。
胸の奥の方で何かが弾けるのを感じる。
この野郎は、ギャルンは……俺の大切な物を奪った。
……その報いを受けさせる時が来た。
「私はまだ君にちょっかいを出す段階ではなさそうなのでここらで……」
「逃がすかよ……!」
思い切り地面を蹴る。
それだけで、俺の目と鼻の先にはギャルンが。
「なにッ!?」
「死ねやオラぁぁぁっ!」
竜化させた腕を一気に振り抜く。
俺のスキル、復讐と六竜の力……その両方を始めて同時に行使した。
ギャルンと以前戦った時よりもママドラの力を引き出す事が出来るようになった。
更に、こいつに限ってはいつでも復讐を発動する事が出来る。
そして……ギャルンはこの力の事を知らない。
自分でも想定していない程の力が湧きあがる。
空気を裂く、という現象を飛び越え、空気の壁をぶち破る感覚。
振り抜いた瞬間音速を越え、パァン! という振動と音が俺の身体を震わせる。
そして、何も反応する事が出来ていないギャルンの能面のようなその顔面に、全力の一撃がめり込み、仮面は砕け、首は捻じれ、それでも勢いは死なず、視覚出来ない程の速度で地面に叩きつけられた。
「ぐおぉぉぉっ!?」
そんなギャルンの声が聞こえたのも一瞬で、その後はもう地面に叩きつけられた爆音しか聞こえなかった。
「……俺を見くびった事と、怒らせた事がてめぇの敗因だよクソ野郎」
激しく巻き上がる砂煙の中、俺が地面に降り立つとラム、ティアが俺を受け止めてくれた。
クレーターのように抉れた地面の中心で、ギャルンの身体はボロ布のようにバラバラに吹き飛び、ほとんど原型を留めていない。
「……お疲れ様、なのじゃ」
「やったね。凄かったゾ」
二人はまるでそうする事が自然とばかりに俺を優しく抱きしめた。
一撃で仕留めたという確信は二人も同じだったようだ。
温かい。
二人の体温が、俺の中に渦巻いたなんとも言えぬ感情を癒していく。
俺には仲間がいる。
最高の仲間達が。
ギャルン、てめぇとはそこが違った。
多分……それだけの事なんだ。
「俺にはまだやらなきゃならない事がある。二人も手伝ってくれるよな?」
ラムとティアは無言で頷く。
「……よし、じゃあネコ達の所へ急ごう」
ギャルンの事だから本当に手を回している可能性もある。のんびりはしていられない。
俺はホールを展開し、ロゼノリアまで空間を繋げると、その中へ飛び込んだ。
まだかろうじて復讐の強化が残っているので大き目なホールを作るのも余裕である。
背後からラム、そしてティアが続く。
何故か飛び込む瞬間に、俺の背後から……。
小さく「いてっ」という声が聞こえた。
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